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豆満江(図們江)流域の中朝国境地帯を訪問 by 原裕太(GEN世話人、東北大学助教)

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 2024年10月、中国吉林省・延辺朝鮮族自治州で開催された国際学会に参加し、合わせて豆満江(図們江)流域の中朝国境の森林地帯を訪れました。その様子を少しご紹介します。
https://cjk2024.casconf.cn/
https://irides.tohoku.ac.jp/media/files/_u/topic/file/20241011_report.pdf
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 第16回日中韓地理学会議に出席するため、10月中旬に中国・延辺朝鮮族自治州の延吉市、琿春市、図們市を訪れ、学会主催のフィールド巡検にも出かけました。

 文字通り、この地には中国の少数民族としての朝鮮族が多く暮らしており、道路標識や店舗の看板には簡体字と並んでハングルが記されていました。彼らの大多数は、19世紀半ばの清朝末期以降、20世紀半ばまでの約1世紀の様々な歴史的経緯に伴い、朝鮮半島から移住した人々といわれています。

 豆満江(中国名:図們江)(Tumen River)は、朝鮮半島の北東部と中国東北部およびロシア沿海地方の境界となる全長約500kmの国際河川です。白頭山(中国名:長白山)を水源とし、日本海に注いでいます。当該地域の緯度帯は北海道の南部と同じ程度で、訪問時は日中の最高気温が20℃以上になる一方、朝晩の最低気温が一桁まで冷え込むこともありました。

写真1

 巡検ではチャーターしたバスに乗り込み、琿春市を東へ向かいました。豆満江左岸の道路からは、フェンスと有刺鉄線、川を隔てて北朝鮮の陸地が見えました(写真1)。途中、展望台も設置されていました。さらに進むと、道路の反対側はすぐロシア領となり、中国領が道路1本分の幅まで狭まってきました。最終的には河口から約15km内陸で中国領は途絶えます。中国側の3か国国境地帯には、19世紀の帝政ロシアとの国境碑が残り(外国人の接近禁止)、双眼鏡を設置した塔があり、周辺の景観を観察できました。どの土産店にもキリル文字が書かれたロシアのチョコレートや酒類、マトリョーシカなどが並んでいたのが印象的でした。

写真2

 周囲の自然植生は、ナラ林を中心とする落葉広葉樹林、針広混交林です。黄土高原が中国大陸におけるナラ林帯の西端なら、こちらは東端。山々は紅葉し、落葉も進んでいました(写真2)。この森林の一部は現在「アムールトラ・アムールヒョウ国立公園(東北虎豹国家公園)」に指定されています。2021年に既存の自然保護区を統合するかたちで、中国で初めて設置された5つの国立公園の一つです。写真3のように、道沿いには「トラ・ヒョウ出没注意、入山禁止」の看板が設置されていました。今回会議をホストしてくれた延辺大学はこれら野生動物のモニタリングも行っています。

写真3

 写真1と2を比較して興味深いのは、豆満江の両岸で山地の環境がかなり違うことです。中国側の説明によると、北朝鮮では木材生産と脱北者の監視目的で森林伐採が進んでいるとのことでした。地球上の植生は、気温・降水量とともに、人間活動の影響を強く受けます。国境を挟んで土地被覆が異なる場所は世界各地に存在しますが、東アジアにもあったのです。そしてアムールトラは、数百年前は朝鮮半島にも広く生息していたと考えられていますが、今ではほとんど見ることができません。

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