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植物を育てる(18)by立花吉茂

種の多様性
 植物を育てるための基本的な知識として、種の多様性について数回述べて
きたが、今回で一応の区切りにしたいと思う。

種子のもつ種の多様性
 挿し木などのクローン苗が、環境を変えたとき全滅してしまうのにもかか
わらず、種子から育てた実生苗が生き残った例として、コスタリカで経験し
たことがあるので紹介する。コスタリカは北緯5度前後の完全な熱帯なので、ほぼ1年を通じて日照時間は12時間前後である。温度は海抜2,000m付近は年平均23℃だった。この場所にムクゲの挿し木苗100本と種子100粒を植えた。ムクゲは温帯の植物だから多分よく育つことはないと考えていた。1年後の成績を図に示す。すなわち、挿し木苗は20cmほどしか伸びず、開花せず、3年後に全滅したのだが、種子をまいた実生苗はその98%が枯れ、わずか2%が大きく育ち開花した。
 ムクゲには短日条件でも生き残る遺伝子が2%あったのだ。わずか2%で
も、生き残った株から落ちる2代目種子はほとんど大部分が成長できるわけ
だから、急激に環境が変わるとクローンでは生き残りの遺伝子がなければ絶
滅し、種子ではきわめてわずかながら生き残り、そしてじょじょに増えて子
孫が維持されるのだ。


個体変異
 イネやムギのような作物は種子から育ててもよく揃っている。これは長年にわたって人間に都合のよいように遺伝子を選抜して固定した結果である。
しかし、野生の植物では種子から育てると個体間がきわめて不揃いだ。これ
を個体変異とよんでいる。個体変異の幅が大きいほど生き残りの確率は高く
なり、幅が狭いほど環境条件変化のときの生き残りの確率が下がる。コメや
ムギは純系性であり、めったに種をまかないムクゲは雑種性であったわけだ。

種子から育てよう
 食糧を確保するための栽培をのぞき、環境をよくするための植樹では、挿し木などのクローン苗でなく、種子をまいた苗を植えるようにしよう。
(『緑の地球』87号 2002年9月掲載)


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