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黄土高原だより by 高見邦雄

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書き手:高見邦雄(GEN副代表) 中国黄土高原と日本を往復しながら、国際緑化協力のつれづれをつづります。
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記事一覧

トウヒ(雲杉) by 高見邦雄(GEN副代表)

======================  2024年に新しく蔚県で植えることになったトウヒ(雲杉)。生育がよく、幹のまっすぐな、きれいな木で、大木の森林をみたときは感激したものです。私たちもたくさん苗を育てて植えたんですけど、冷涼な気候に適し、本領を発揮するのは高地です。 ======================  継続中の河北省張家口市蔚県における緑化協力、2024年は陽眷鎮鄭家窰村で、アブラマツ(油松)とトウヒ(雲杉)をそれぞれ10ha、18,450本、合計20

小老樹のこと by 高見邦雄(GEN副代表)

======================  桑干河の流域に「小老樹」と呼ばれる林がありました。水不足のために伸び悩んだポプラの林です。手ひどい失敗と思われていたんですけど、でもこれらの木々、つぎの世代のために役立っていたのです。 ======================  桑干河の流域を中心に、大同市の各県に小老樹と呼ばれる林が広がっていました。中華人民共和国が1949年に成立し、首都が北京に決まると、その水源にあたる一帯で大緑化運動が展開されました。植えられたのはポ

大同の協力拠点が口泉植物園に by 高見邦雄(GEN副代表)

======================  大同の最初の協力拠点が市によって収用され、口泉植物園になりました。そのときは悔しくて悔しくてしかたありませんでした。今年8月、少しの時間を使ってそこを訪れて、ああ、これって理想的な結末だったんじゃないの。 ======================  大同における緑化協力は1992年から25年間継続しました。最初の協力拠点が南郊区平旺郷平旺村の「環境林センター」です。1995年のスタート時は3.5haでしたが、まもなく6haに

人工的に日陰をつくってマツを植える~陰坡と陽坡(3) by 高見邦雄(GEN副代表)

======================  乾燥した痩せ地に育つのはマツです。しかしマツは日向斜面にはむかないし、植える場所はほとんどが日向斜面。この矛盾を解決したのがある整地方法です。それはなにか? ======================  乾燥がひどくて土地も痩せている、そんな土地でも育つ木といえば、なんといってもマツです。大同では主にアブラマツ(油松)とモンゴリマツ(樟子松)を植えました。ところが「陰坡的松樹、陽坡的柏」(日陰斜面のマツ、日向斜面のコノテガシワ

植物種が豊富なのは陽坡~陰坡と陽坡(2) by 高見邦雄(GEN副代表)

====================== 生物多様性の面からも重要な南天門自然植物園では、植生が急速に回復しました。陰坡(日陰斜面)では自生樹種を中心に森林が再生し、陽坡(日向斜面)は遅れていたのですが、やがて…。 ======================  陰坡と陽坡の関係を、私たちの重要プロジェクト南天門自然植物園(86ha)を例に考察したいと思います。  南天門は天宮に至る門だそうで、有名なのは中華五岳の一、東岳泰山にある南天門です。私たちの南天門も自分たち

恒山山頂の不思議な光景~陰坡と陽坡(1) by高見邦雄(GEN副代表)

======================  植物や緑化について門外漢の私はなにも知らないことの自覚のうえに、自然を観察し、専門の先生たちに教わりながら、少しずつ理解を深めていきました。これはその出発点。 ======================  中華五岳の一つ北岳恒山は山西省大同市渾源県にあります。この県で1992年に緑化協力を始め、最初のころは何回もこの山に登りました。道教の聖山で山腹から山頂付近までたくさんの廟堂があるのに、不信心の私はそこを素通りし、山頂(2

嵐のガンベー(乾杯) by 高見邦雄(GEN副代表)

======================  ほんとによく飲みました。最初のころのパイチュー(白酒)は56度か63度くらい。きっぱりと空けて、全信全意であることを証明しないと始まらないのです。こんなこと、ジマンにはなりませんけど。 ======================  山西省大同市での緑化協力事業は1992年1月のスタートで、それから25年も継続しました。最初から私が担当したんですけど、「私でなかったら軌道に乗せることはできなかった」なんてイバッてるんですね。無

緑化協力事業の出発点 by 高見邦雄(GEN副代表)

======================  中国の農村のことも、植物のことも、国際協力のことも、しっかり門外漢の私は、現場で少しずつ学びながら、協力プロジェクトを組み立ててきました。その根っこのところをこのたびのシンポジウムで話したいと思います。 ====================== オンラインシンポジウム 「環境に国境はない! 相互理解と国際協力の出発点」 ●日時:2023年5月13日(土)13時30分~16時 ●パネリスト:染野憲治さん(早稲田大学現代中国研

泥棒さんのおかげです by 高見邦雄(GEN副代表)

======================  蔚県の名所・飛狐峪、歴史の重みからいって舞台に不足はありません。そこで演じられた一幕のお芝居! 俗にいう「瓢箪から駒が出る」ってこういうことかしらん? ======================  緑の地球ネットワークが2017年から緑化協力をつづける河北省張家口市蔚県に飛狐峪という名所があります。狭いところはわずか十数メートルの谷底に、両側から100mを超えるほぼ垂直の崖が迫り、それが延々と20kmもつづきます。かつてはここ

大同の万里の長城 by 高見邦雄(GEN副代表)

======================  長く通いつづけた大同は長い歴史をもち、たくさんの文化遺産を有しており、万里の長城もその一つです。いくつかの名所をとりあげるとともに、そのもつ意味を考えてみます。 ======================  万里の長城というけど、そんなに長いの? こういう表現って大げさになりがちだもんね。いまの中国の1里は500mで、日本の4kmよりずっと短い。中国サイトで調べると、長城の総延長は21,000km余りだそうで、万里よりずっと長

緑化の成果はこれからも大きくなります by 高見邦雄(GEN副代表)

====================== 大同で植えた木のその後の生育ぶりを伝える写真が送られてきました。樹木は大きくなり、地元の人たちによってきちんと管理されています。再生した森林はこれからも育ち、時間とともに成果は大きくなるでしょう。 ======================  新しく制作するパンフレットに山西省大同市の緑化プロジェクトの現在の写真を収録したいと考え、緑色地球網絡大同事務所の司機(運転手)だった小郭(郭宝青さん)に撮影を頼んだところ、快諾してくれま

風力発電機の林立にびっくり by 高見邦雄(GEN副代表)

======================  中国のエネルギー源といえば石炭、というイメージが日本では強いと思います。でも、ほんとは再生可能エネルギーにも力を入れています。今回は風力発電を取り上げ、最初の緑化協力の現地、山西省大同市を例に紹介したいと思います。 ======================  ここ3年は中国にいっていませんので、いまもあるか不明ですけど、北京首都空港に「エネルギー革命は大同から」という大きなパネルがありました。中国の検索サイトで「能源革命

失敗の経験をめぐって by 高見邦雄(GEN副代表)

======================  新しいことには失敗がつきものです。そして失敗は真剣に向き合うことで多くの教訓をもたらします。ところがいまの日本、失敗を恐れる気持ち、失敗を許さない風潮があまりに強くはないでしょうか。 ======================  黄土高原の農村での緑化協力で、忘れることのない失敗は大同県徐疃郷で1994年にアンズを植えたときのことです。80haに6万本を植えて、最初の2年はよく育ったんですけど、3年目にほぼ全滅しました。

人は変わるもの、人と人との関係も変わるもの by 高見邦雄(GEN副代表)

======================  黄土高原での緑化協力事業のなかで、私たちは緑の絵を地面に書いてきましたが、それと同時に人と人との関係を変えてきました。それができたので、植えた木が根付いたともいえるでしょう。 ======================  あえて名をだしませんけど、大同のカウンターパートの中心の一人が私に、「日本との協力事業を担当することになったとき、いやでいやでたまらなかった」と話しました。理由は「歴史問題」です。といっても私よりずっと若いの