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人生の豊かさに導くランニング

 2016年8月14日、リオデジャネイロオリンピック男子400mで、17年間にわたり君臨し続けていた世界記録(43″18)と20年間破られなかったオリンピック記録(43″49)が、ウェイド・バンニーキルク (南アフリカ)によって43″03に書き変えられた瞬間をTVで見ていた。
 
 私は、42秒台に迫るその驚異的な世界新記録にも感動したのだが、それまでの記録保持者だったマイケル・ジョンソン(USA)氏へのインタビューで、氏が発した言葉が強く印象に残った。インタビューアーから自己の記録を破られた感想を求められた際、次のようなニュアンスの言葉だったように思う。
 「世界記録はいつかは破られるもの。先ず新記録を出したバンニーキルク選手を祝福したい。私にとって大切で重要なことは、世界記録そのものではなく、そこに至るまでの経験と私を支えてくれた多くの方々と家族との時間であり、それらの方が私の人生においてかけがえのないものなのです。」と。

 市民ランナーがFacebookで自分のベストタイムを誇らしげに掲示しているのを目にすると、私の中には違和感が生じる。「私はこのタイムでフルマラソンを走れます」的な自慢にしか受け止められないからである。確かにそこに至るまでに本人は努力はしているのだろうけど、例えば同じ努力をしたからと言って誰でも3時間を切れるものではないし、元々2時間台で走れる能力を備えている人が全てにおいて3時間台の人よりも努力を重ねているとは思えない。私に言わせると「2時間台で走れるからそれがどうした?」ということなのだ。
 Facebookに自分のタイムを掲示していたり、人に尋ねられる前に口にしたりする人を見ていると、その人たちは元々自慢するために努力を重ねてきた筈じゃなかったのだろうにと思えてならない。先に書いたジョンソン氏の言葉が頭がよぎる。
 あなたが自慢しているタイムは、あなたの人生を豊かにしてくれましたか?

 2020年9月12日、本来なら札幌駅をスタートして豊平川沿いを上流へと向かい真駒内公園から支笏湖へとかけ上がり、千歳駅手前にゴールする75kmのワンウェイで行なうイベントを、コロナ渦のため札幌市内のサイクリングロードを使って5kmを往復する方法で行なった。
 5km間を往復するという一見単調すぎて、ランナーにとって辛そうに思えるやり方だったのだが、実はこのやり方が功を奏した。3箇所のエイドステーション(2.5kmおき)を設置してランナーを支援したところ、エイドスタッフとランナーは何度も顔を合わせるので顔見知りになり、お互いに親しみが湧いてきたのだった。ランナーもお互いにすれ違う度に声をかけ合い、励ましの言葉を掛け合うようになり強い仲間意識が生まれたという。

 冒頭の写真は、なんと素敵な笑顔ではないか。
 自己の目標である75kmを完走したことは個人的に素晴らしいことではあるが、その過程で支援するスタッフと親しくなり感謝の気持ちを伝え、また互いを励まし合ったランナー同士には、新たな友情と交流が生まれた。この日の一日の出来事は、人生の豊かさに繋がったのではないかと思えた。

 ランニングは人生の豊かさに導いてくれるツールとなり得るが、それに気づいていないとせっかく出会ったのに勿体ないこととなってしまう。

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