
第36話 趣味は「考えること」
「ぼく、趣味ないんですよね」
先日、いきつけの店でマッサージを受けている時に言われた。
「ゴルフやってみたり、釣りしてみたりしたんですけど、いまいちハマらなくて」
彼はそう続けた。
僕の趣味はなんだろうかと考えた。
映画、小説、音楽。
仕事が趣味で、趣味が仕事となってしまっていることに気づく。
「純粋に楽しめなくて辛くないですか」
と問われることが多いが、純粋に楽しんでいる。
仕事の観点でも同時に見ているが、それが楽しさをむしろ増幅させている気がする。
なので自分の趣味はきっと「考えること」になる。
この趣味は汎用性がある。
映画でも小説でも音楽でも、夢でも食でも通勤時間でも、どんな些細なことでも気づいて、「考えて」、空想を広げていくと物語になる。
「気づいて」「考えて」「紡ぐ」そしてまた新しいことに「気づいて」「考えて」「紡ぐ」。
「物語をつくる」というのはきっとこの循環なのだろう。
一方で、いつも最悪のことばかり考えている。
大きなトラブルが勃発し、人間関係が悪化。スケジュールが遅れに遅れ、ようやく完成したけれども、蓋を開けてみたらまったく売れずに、評価も最低。
最悪の事態が起こり、そこで苦悩する自分を絶えず空想しながら映画を作り、小説を書く。
ネガティブの極致に自分を追い込み、そのなかで今考えられること、今ならまだできることをやり尽くす。そうしながら、可能性をギリギリまで広げていく。
最高の空想と最悪の空想を往復しながら、企画や物語を日々考えている。
そんな僕の空想が生み出す「企画会議」をまとめた本を、かつて出したりした。
スピルバーグやタランティーノ、イーストウッドやノーランにフィンチャー。
名だたる巨匠たちと(空想)企画会議をした本だ。

この本を書くにあたって、ハリウッドの巨匠たちのインタビューを読み、メイキング映像を見て、ありとあらゆることを勉強して、その人生や思考をトレースし、その人物を空想の中に作り上げた。ハリウッドの巨匠と空想上で「ブレスト」しながら、新しいアイデアを生み出していく。