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守破離

4月6日からチームの練習が再開した。現時点ではブンデスリーガの1部も2部も、シーズンの残りの試合を行うのか、シーズン自体が中止になるのかさえ決まっていない。まだ先が見えない状況ではあるものの、シーズンが再開した場合に備えてチーム練習も再び始まった。

ただし、新型コロナウィルスが流行する前のような練習を行なっているわけではない。6人ほどで一つのグループを作り、練習する。同じグループの選手の間には十分な距離をとり、筋力トレーニング系のメニューやボールを使ったメニューに取り組んでいる。もちろん、身体のぶつかり合いなどは一切ないように配慮されている。

2人のチームメイトに新型コロナウィルスの陽性反応が出た3月12日からの14日間、自宅から一歩も出ることが許されない隔離期間となった。すでにnoteにも書いた通りだ。

その期間が過ぎたあとにも、ドイツ国内でのウィルスの蔓延を防ぐため、4月5日まではチームの練習は休みになっていた。その間は、屋外を軽く走ることも一応は許されていた。とはいえ、チームのグラウンドでやるトレーニングほどの負荷はかけられない。

だから、体力面も、身体のキレも、少し衰えているのではないかという不安はあった。

でも、そうした不安は的中せずにすんだ。むしろ、身体のキレの良さを感じたくらいだ。1ヵ月弱もグラウンドに出ていなかった僕が、苦もなくトレーニングメニューをこなせた。

その要因は、チーム練習が休止していた期間に、自分の頭で考え、工夫してトレーニングを積めていたからだと思う。

1日ごとにポイントをしぼったトレーニングをするという指針の下で、スペースやマシーンの性能も限られているなかで、トレーニングの量やメニューに工夫をこらした。その結果、サッカーの試合をするために必要な能力の低下はほぼ抑えられた。

では、僕はなぜ、自分の頭で考え、工夫ができたのか。

それは、パーソナルトレーナーをお願いしている谷川聡先生(筑波大学教授)の指導方針があったからだと思う。

僕が自分の身体の感覚を研ぎ澄まし、考える力をつけられるために、先生は色々な言葉をかけてくれた。

そもそも、先生にパーソナルトレーナーをお願いすることになったのは2014年の初頭のこと。浦和レッズからヘルタ・ベルリンへと移籍する少し前の時期だ。初期の段階で教わったのが「守破離」という概念だった。

そして、これが今回のnoteのテーマである。

今月の頭にチーム練習が再開してから、自分のコンディションの良さの理由を、僕なりに分析しているなかで、気づいたことがある。

あの14日間がターニングポイントとなり、僕は「破」の段階に足を踏み入れつつあるのではないか、と。

……といっても、これを読んだ方は「原口は何を言っているのか、よくわからないよ!」と思うかもしれない(笑)

そもそも、「守破離」という概念をご存じだろうか?

柔道や剣道などの武道の世界や、茶道などの芸道の世界における、師弟関係と修行の道筋を表したものだそうだ。

「守」:
師匠の教えを「守」りながら成長していく、最初の段階。

「破」:
教えられたことを少しずつ「破」っていきながら、自分なりに改良を加えていく段階。

「離」:
師から学んだものと自分なりに改良を加えたものを土台に、独り立ちする段階。

僕が谷川先生のもとで学び始めてからほどない時期に、「いつかは私のもとを離れていかないといけない」と言うのだから、先生は、やはり異色の存在だった。

プロアスリートのパーソナルトレーナーを務める方々の多くは、「こうすることで、あなたは成長できる」とか、「私のことを信じてくれれば、あなたの△△を伸ばしてあげる」というようなメッセージを発信する。

谷川先生にお世話になると決める前に、4~5人の著名なトレーナーの元を訪れて、話を聞かせてもらった。もちろん、それぞれの方には、この世界で評価されているだけの魅力があった。ただ、個人的には「多くの人の参考になるようなメソッドを確立しているのだな」と感じるケースが多かった。

そうした機会を経て、「ぜひとも、この人に指導してもらいたい!」と感じたのが谷川先生だったのだった。

先生の方針は一貫している。いわゆる「1から10まで教える」のとは真逆の指導をする。例えば、こんな感じで、声をかけてくれる。

「○○をやってみるのはどうかな? 実際にやってみたら、そのときの感覚を教えて」
「こういうトレーニングがある。取り組んでみる価値があると感じるのなら、やってみよう!」

あるいは、以下のようなやり取りをすることもある。

僕:「このメニューは、サッカー選手がやるにはリスクがあると感じるので、避けたいのですが……」
先生:「そうか! では、別のメニューを紹介するね。こういうのが……」

先生から繰り返し言われてきたことがある。

「自分の身体の感覚を大切にしよう!」

先生のこの言葉はアスリートにとって大切なことを教えてくれる。

なぜ、自分の身体を理解して、自立することが大切なのか?
実際に、それができるアスリートは強い。

では、なぜ、そのようなアスリートは強いのか?

どのような状況でも力を出せるから。

僕はそう考えている。

いつ行われる試合であっても、どんなプレッシャーがかかる状況であっても、どれほど大きな舞台であっても、そこで自分に悪影響を及ぼす要素に左右されず、自分の身体と対話して、色々なものを調整することが大切だ。そこに自分の身体を理解する感覚が研ぎ澄まされれば、その分だけ良いパフォーマンスを出せる確率は上がると思う。

以上がもっとも大切なことだが、先生の指導方針についてもう少し説明しよう。

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