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源氏物語の色 23「初音」~栄華の幕開け~

「初音」のあらすじ
―――光源氏36歳の元日。春の御殿で紫の上と迎える新年は、まるでこの世の極楽浄土かと思われる素晴らしさであった。夕方になり光源氏は、年末に衣裳を贈った女性たちのもとへと挨拶に行き、その晩は明石の上のもとで過ごす。さらに宮中行事「男踏歌」の華やかな様子も描かれ、まさに光源氏の栄華の始まりを予感させるーーー


「初音」に出てくる色彩表現は、前帖「玉鬘」で光源氏が贈った衣裳の色についてである。「玉鬘」では「王朝時代のパーソナルカラー」として、それぞれの女性にどのような色が似合うのかという視点で色が選ばれたことを記したので、今回は光源氏が見た色を追ってみたい。

光源氏は自分の理想の「六条の院」を造り、紫の上をはじめとする女性たちを住まわせている。一点の曇りもないうららかな元日の朝。春の御殿で、最愛の紫の上と過ごす。記述にはないが、もちろんこの時紫の上が身に着けていたものは、年末に光源氏が贈った紫系の葡萄染の小袿と、赤系の今様色であろう。高貴な紫と、今様色と言われる華やかな色。そして庭では雪の間から色づき始めた草が萌え、梅が咲きだしている。新年を寿ぐにはこれ以上ないといった色合いである。

夕方になって、まず初めに新年のあいさつに向かった先は花散里のところ。花散里は、男女の関係というより信頼のおける存在となっており、贈った衣裳は縹色。薄い青で、先ほどまでの春爛漫の色とは一転、光源氏も落ち着いて花散里とゆっくり話をする。

次は、昨年娘として引き取った玉鬘のところへ向かう。玉鬘は、鮮やかな赤みがかった黄色「山吹」を着て、「もてはやしたまへる御容貌など、いとはなやかに」「きらきら」していて、いつまでも見ていたいほどだという。山吹と縹は補色の関係。縹により、否応なしに山吹が引き立つ。(紫式部マジックとしか思えない!)

それから光源氏が向かった先は、明石の上のもと。しかし、上品な薫物の薫りが漂ってくるものの、姿は見えない。琴が置いてあったり書きつけた歌があったりと、先ほどまでいた気配を感じながら光源氏は明石の上のことを思う。そして明石の君は、白い小袿を着て現れる。この優美な姿に光源氏は心奪われ、紫の上が気になりながらもこの晩、明石の上と過ごしてしまう。

高貴の象徴である紫。
落ち着きの青。
華やかな山吹。

それらを凌駕するのは白。紫式部はそう考えたように思えてならない。

「初音」は、光源氏の栄華極まれる時期の始まりの帖。全体が華やかに描かれていることは確かなこと。けれどこの先、光源氏はだんだんと色なきものに導かれていく。白が持つ意味を少しずつ考えておくほうが良さそうな予感。

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