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地味な彼女をプロデュース(3)『十二単を着た悪魔 源氏物語異聞』:素人が源氏物語を読む~花散里~

次は、映画化もされたという『十二単を来た悪魔 源氏物語異聞』を読みます。

◆悪魔と呼ばれるのは誰?

題名にある「悪魔」、誰だか分かります? レディ・ロクジョウは生き霊・死霊のサイキックですから除外です。

あるいは写本工房の現場監督? そんなことも、わたしは思いました。「ハァーイ、写本部隊、どの巻を明日までに何部用意することになったわよ」「え、そんなん無理ッすよ~」「いいえ、おやりなさい、道長様からのオーダーなのですから」なんて。

正解は、弘徽殿女御でした。桐壺帝の寵愛を藤壺と競いあった、あのパワフルなお姉さまです! 源氏物語を、光源氏との色恋関係にない女性の目線で語られるとは、予想しなかった。言われてみれば物語のなかでの存命期間が長いから、できそうです。

◆作品概要

就職試験を五十九社連続で落ちまくって三流大学卒業後にフリーターとなった、それまで古典文学に興味もなかった男性が、源氏物語のなかに転生してしまうところから始まります。派遣先で貰った源氏物語の「あらすじ」本と少しの薬のサンプルを持って。

彼は弘徽殿女御の陰陽師として、その世界で暮らしていきます。

◆マジカルパワーが似合いそうな女

弘徽殿女御とか右大臣家って、陰陽師が似合いそうです。

事例1。妹の夫である頭中将をたぶらかした夕顔に(ということに弘徽殿女御サイドから見たらなるのかも)、何やら恐ろしいことを言ったようだ。

(かの右の大殿よりいと恐ろしき事の聞え、まうで来しに)

事例2。藤壺の出産に呪詛を吐いたとかいう記述も本編にあったし

(うけはしげに宣ふ)

彼女なら陰陽師を使いこなしてても違和感ない。ロクジョウは使わないよね、品がよろしすぎるもの。

◆花散里のこと

弘徽殿女御が主人公なら花散里は出てこないだろうなあ、と思ったら、出てくる。チラッとだけ。

あ、考えてみたら、花散里のお姉さんの麗景殿女御って、弘徽殿女御と同期なんだ。同じ帝のKSK48(キサキたち)同士だもんね。

えー、じゃあ、恨まれたりしてんじゃない? と思いきや、悪くない評価です。この作品のなかで花散里は「穏やか」で「気品ある」が、弘徽殿女御の手駒である朧月夜から光源氏の気を逸らさせる対抗馬としては弱かったことが伺えます。それだけです。

◆弘徽殿コード

藤壺や桐壺といった光源氏寄りな目線で語られる源氏物語では彼女は恐ろしげに語られます。といって自分以外のキサキは誰も彼も憎い、という訳ではなく、家の繁栄の障害となる存在に対して敏感になるだけのような雰囲気で書かれています。

こちらでは、今日にも通じるカッコよさのようなものが、弘徽殿女御に見出だされています。ほれぼれします。

古典を古典のまま楽しむのか現代的に解釈していくのか、悩ましいところですが、現代的なアレンジが求められるのは作品が後世に継がれるためにはしょうがないのかな、と今は思っています。

たまに聴く落語でも「江戸の風」と言われたりして、それはそれで「その素敵さに完敗」って思うけど「もう江戸の風を知るひとは生きてないじゃないですか」っていう淋しさはあるから。今は無き美しき時代を思う気持ちは、源氏物語は書かれた当時にも昔の話だったことを思えばリアルタイムの読者と重なりそうだから、分からないまま読むのも、そうずれちゃいない気もするのですが。

桐壺を読んでいるときの自分のメモに
’90年代ならトレンディドラマ
’00年代ならリア充
’10年代ならSNS映え
のようだなあ、とあります。

いつの世にも身近に「ある」と思えるような魅力があるってことなんじゃないですかね。

◆光源氏の新たなる姿

ちょっと、ネタバレになるかも知れません。今回読み返してみて、ここが一番凄いと私が思ったことを書きます。本編をお楽しみになられてから、という方はここで離脱することをオススメします。


さて、光源氏。どうにも捉えにくいあの男。それを、これなら1人のキャラクターとして、しかも魅力的に、説明できるキーワードが出てくるんです。

ラテン系、ですよ。悲しいときは悲しむ、でもパッと恋を楽しむときは情熱を注ぎ込む。目映いばかりの陽射しと、濃すぎる影。

ラテン文化のことは全く知らないので、それをラテン系というのが適当なのかは不明なのですが、そういうタイプの登場人物ならイライラしながらも憎まずに付き合えるかも、って腹落ちしました。

平安版バチェロレッタに光源氏が出てくるなら絶対、深紅のバラをくわえてキレキレに踊ってキメのポーズでエモい和歌をイケてる声で聴かせてくれそうだもの。それで1人のカットでは、淋しさを切なそうに訴えるの。タイプじゃないけど、アリです。

◆次回予告

今回は弘徽殿コードだったので、次はロクジョウにしようかな。それではまた!



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