対談〉篠田真貴子×入山章栄: 日本の「社会の変え方」をどう変えていくか【活動報告No.3】

「リハビリテーション業界は、ジェンダーやセクシュアリティに対して課題意識が低いのではないだろうか…」
そんな疑問を持ったメンバーが集まり、月1回程度のペースで勉強会を開いています。この記事は、その活動報告です。

ジェンダーやセクシュアリティはセンシティブな面もあり、日常生活の中で触れる機会は少ないでしょう。しかし、誰かの人生の一部に触れ、時にはプライベートな領域まで踏み込んで支援をする立場のわたし達にとっては、見過ごすことのできない問題でもあるのではないでしょうか?ひょっとすると、「勉強してみたいな」と思っている人は少なくないのかもしれません。

このリポートは、どこかの誰かの、そんな些細なきっかけになることを願って書いています。


はじめに

 2021年12月10日、『リハ職のジェンダーとセクシュアリティを考える会』にて、3回目のシェア会を行いました。

 今回は橋本さん、ジュンさん、なおこの理学療法士3名に加えて、ジュンさんの友人のゆりこさんも参加されました。ゆりこさんは建設業界で働いており、現在は1歳半のお子さんを育てながら在宅ワークで時短勤務をされているそうです。前回の記事を読んでこの会に興味を持っていただき、このたび参加してくださいました。

 今回、取り上げた記事はこちらです。
〈対談〉篠田真貴子×入山章栄: 日本の「社会の変え方」をどう変えていくか

 こちらは橋本さんから提案していただきました。
 以下、序文のみ引用いたします。

デザイン思考、システムリーダーシップ、Bコーポレーション、インパクト投資、そしてコレクティブ・インパクト……本書では、さまざまな「社会を変える」ための方法論や概念を語る論文を紹介してきた。それでは、世界中で見出されてきたこれらの知見を生かし、これからの日本においてはどのようにソーシャルイノベーションを実践していけるのだろうか。イノベーション研究の第一人者である経営学者の入山章栄氏と、さまざまなビジネス現場での豊富な知見を持ちNPOの理事も務める篠田真貴子氏を招き、本書の各論文のテーマと紐付ながら語り合ってもらった。語られた数々の国内事例から見える、日本におけるソーシャルイノベーションの課題と可能性とは―。

 今回は橋本さんがファシリテーターとなり、それぞれが感じたことをシェアしていきました。


シェア会の様子


・記事を読んでみての感想は?

なおこ:
 あまり読み慣れない話題だったので、知らない言葉を調べながら繰り返し読みました。「マイノリティへの課題解決が結果的にマジョリティのためになる」という視点は、いろいろなパラダイムシフトが起こりやすいのかも。ただ、全てにおいてこれが言えるかというと、疑問も残ります。というのも、以前JRの駅で車椅子の女性が乗車拒否されたニュースを思い出したからなのかもしれません。

ジュン:
 社会・組織の動き方をこういう視点で見ることがなかったので新鮮でした。「どうしたら今の立場で会社を動かせるんだろう?」とも思いました。
 ただ、ここで話をしている人や、実際に経済学・経営学を構築している側を考えてみると、『強者の理論』というか、シス男性的な視点もあるのかな、と。
 権利の問題と経済の問題(資本主義的な考え方)はある程度は別で考えるべきなのでは、と思いました。

ゆりこ:
 特定の誰かのためにしたことに対して批判が出ると尻込みするけれどゆくゆくは全体の利益になる、と考えた方がいいと思いました。「変革を起こす時に自分もシステムの一部だと考えることが大切」、というところにグッときました。誰かにしてあげる、という感覚はやっていてつまらないな、と。
 自社の取り組みで、ペンタブを導入したことがあるんです。それはまさに「自分が困っている、やりたい」と考えた課題だったので、楽しかった。そちらがひと段落して、今は営業部の困っている問題を解決しようとしているのですが、(自分が直接、困っていることではないので)この記事を読んで、確かに上手くいかないよな、と感じました。


・他の人のコメントを聞いて感じたことは?
ゆりこ:
 私は自分のこととして考えていたので、全体のことを考えていてすごいな、と思いました。

なおこ:
 システムが作られた後の成果の方に気が向いてしまっていたけれど、実際にシステムを作る側が自分ごととして考えると、楽しく前向きに取り組めるのは、納得できますね。

ゆりこ:
 たとえば耳の聞こえない人とどうやって話したら、お互いが楽しくなるかな、という視点で考えることが大切だな、と思います。当事者ではないと、どうしても気を使ってしまい相手にもまた気を使わせることになる。そうではなくて、「お互いが楽しい」と思える仕組みを作ることが大切なのではないかな、と思いました。

橋本:
 いろいろな考え方がありますよね。少し気になったのですが、ジュンさんの『強者の理論』というのは、具体的にはどういう意味なのでしょうか?

ジュン:
 社会を構成している側、すなわちシステムを作る側にいる人たちというのは、そもそも社会の中で不利益を“感じづらい人たち”なのではないか、という疑問があります。ジェンダーやセクシュアリティの問題を考えると、実際に不利益を被っている当事者たちが組織を主体的に動かしている立場の人たちに受け入れてもらえない現状も。
 記事を読んでいて「理想的すぎる」と感じてしまう部分もありました。マッチョな思想というか、これに便乗できる人でないと、システムの恩恵を受けられないのではないかな、と。

橋本:
 『不利益を感じづらい人』というと、たとえばどういう人ですか?

なおこ:
 (記事より)「ダイバーシティがあると会議が揉めます」ということです。多様な人がいるんだから、当然です。たとえば、いままでは同質的な男性たちが集まってすぐに全会一致で決まっていた会議も、多様な人が入ってくることで「ちょっと違うかも」と言い出す人が出てきますから。
 ジュンさんはこの部分のことを言ってるのかな、と思いました。ここでいうと『同質的な男性』

ジュン:
 そのあと、「(自分が参加している会議は)4時間はかかるよ」と冗談ぽく記述されているのですが、正直モヤっとしましたね。

なおこ:
 かなり穿った見方ですが…あくまでシステムを作る・動かしていく主導権は以前から会議に参加していた『同質的な男性』であって、多様な人を集めたのはその人たちの意見“も”取り入れてあげるため、という印象を受けます。

ジュン:
 そういう強者性のようなものを感じ取ってしまうと、当事者の立場で意見したり要望を出すのに少なからず抵抗感を覚えてしまうのかもしれませんね。

・職場を動かすには?
橋本:
 この会はジェンダーやセクシュアリティに関する疑問を持った人が集まっているわけですが、今回はいろいろな立場の人が参加しています。今回の記事は「社会の変え方」がテーマでしたが、それぞれの所属している組織で意思決定に関わる要因はどのようなことがありますか?

なおこ:
 最終決定は取締役や上長になりますが、判断の材料は利用者のメリット以外に従業員が効率よく働けるか、良い空気かどうかが重要になってくるように思います。そのための下準備というか、根回しも大切ですね。

ゆりこ:
 根回しはうちも大きいですね。建設業はいわゆる“男社会”です。その中で女性の意見を取り入れたい、という経営陣の思惑もあります。なので、女性の更衣室を作って欲しいなどの意見は通りやすいように思います。経営陣が“女性の働きやすい職場を作る必要性があるな”、と感じているのかと。
 あとは、自分の担当している業務がスムーズにいくことも大切ですよね。

橋本:
 業務の効率やスムーズにいくかどうかというと、費用対効果ということになりますか?

ゆりこ:
 そうですね

ジュン:
 うちの場合、最終決定は社長です。根回しも必要ですが、そこまで大きい組織ではないので。中には気分屋な人もいるのでなので難しいな、と感じています。

橋本:
 そういう気分屋な人がメリットを感じる、所謂“響く”ポイントはありますか?

ジュン:
 ほんとに気分なんですよね。場面によって良い・悪いとその理由も変わるので…

橋本:
 それぞれの組織で似ているところやそうでないところもありますね。
 ブレイディみかこさんの『他者の靴を履く』にあったように、相手がどんな靴を履いている、どう歩いているかを考えるのと同じですね。こちらから意図的に変えるより、相手から変わってくるのが大切なのではないでしょうか。そんな風に思ったので、こういった問いを出してみました。

 共通するところでいうと、効率・利益・費用対効果・社内政治(根回しや外堀を埋める)・空気感。空気感はいつ言うか、とか組織内でどういう空気かが大切かというところでしょうか。
 ゆりこさんの女性の意見を…と言う文脈は女性躍進の空気もあるのでしょうね。相手にどう響くか、そのために何ができるかを考えていけたらいいな、と思いました。

・これから話したいことは?
なおこ:
 記事の中で、「同じゴールを目指しているのに別々に動いているケース」という部分が印象的でした。つい最近も同じように感じるエピソードがあって。どうするのが一番良いのか、考えてみたいですね。

ゆりこ:
 意思決定の要因ですね。何がポイントになるのか、どうしたら話しやすくなるのか?この辺りが気になっています。

ジュン:
 カーブカット効果はリハ職としてはすごくわかりやすいですよね。
 中盤にあるデザイン思考をくっつけて考えると、ある程度は“強者の理論”に乗っからないといけないのかな、という部分もあります。具体的に言えばPT協会に働きかけるためにはどうするのが良いんだろうとか。常に頭の中に置いておかないといけない、この会を通して考え続けていきたいと思いました。

橋本:
 それぞれ株式会社や社会法人などいろいろな法人に所属しているわけですが、それぞれの法人の目的について考えたことはあるか?というところなのかな、と思います。組織の理論は必ずあると思うので、確認するのも良いかもしれません。

 3人に共通しているのは、『要因』なのかと思います。一緒に歩むために必要な要因や、組織と言う人の集合体のなかで重要な要因を考えてみましょう。
『Key Success Factor』という言葉があります。これは、重要成功要因のことです。例えば、物事を動かすときに、このボタンを押すと動きやすいとか、爆発するとか、組織の中にはそういう鍵になるボタンがあると思います。そういうボタンを意識的に探してみるのもひとつの方法ですね。


まとめ


 そもそもこの会は、「リハビリテーション業界で働く人々のジェンダーやセクシュアリティに対する感度を上げたい、支援する人・支援される人の両方が安心して過ごすために何が必要なのか、一緒に考えてくれる人を増やしたい」という思いから始まりました。

 しかし、思いだけで社会を動かすことはできません。どのような言葉で、どのような行動で、自分たちの思いを発信していけばより多くの人に届けることができるのか、日々模索しています。

 もっと多くのリハ職がジェンダーやセクシュアリティに配慮しながら対象者に接し、そし自分たちもまた安心して働くことができるようになるめの『Key Success Factor』を探すために、なにが必要なのか改めて考える良い機会となりました。
 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?