イベントレポート『高齢の性的マイノリティが抱える悩みについて考えてみよう!』

2022年12月9日(金)、リハ職のジェンダーとセクシュアリティを考える会の第2回目のイベントを開催しました。

今回のテーマは『高齢の性的マイノリティが抱える悩みについて考えてみよう!』です。運営メンバーの他に2名の方にご参加いただきました。

https://www.nhk.or.jp/heart-net/article/714/

こちらは2022年10月にNHKのハートネットTVで取り上げられた内容を記事化したものです。当事者の方3名とアナウンサーがVR空間で座談会を開き、様々な悩みごとについて語り合った様子をレポートしています。


イベントに参加される方には事前にこちらの記事を読んでいただき、当日は2つのテーマについて話し合いました。

性的マイノリティの方の老後について、問題になることは?

繋がりの希薄さ

 最初に問題として挙げられたのは、「距離の近い人との繋がりの希薄さ」でした。SNSなどの普及により、遠く離れた場所の人とも簡単にコミュニケーションが取れる時代となった一方、地域や職場など普段から直接顔を合わせる人々との繋がりも生きていく上では欠かせません。とはいえ、自身の性についてカミングアウトするのは、性的マイノリティの方にとってはとてもハードルの高いものです。心ないバイアス(偏見)が自身の生活環境に影響することを想像してしまう方もいるでしょう。

法律や慣習の呪縛

 記事の中で、『戒名は、男性と女性で「〇〇居士」とか「〇〇大姉」とか、男性と女性で違う』という紹介がありました。これを知ってショックを受ける性的マイノリティの方は少なくないそうです。他にも、何かの手続きの際に性別の記入が必要であったりと、制度上の理由から男女に分けられる慣習がいくつもあります。高齢になり、社会サービスを受ける機会が増えるほど、そういった慣習による物理的・心理的な負担は増えていくと予想されます。
 これに関連して、「介護や医療に携わる人々が共通して知っていることが、そうでない人々に知られていない」というリスクも話題に上がりました。戒名もその一つですが、その他には、病院や施設の大部屋は男女で分けられること、排泄・入浴などのケアが必要になれば自身のプライベートな部分を支援者に見せなくてはならないことなど、医療・介護と関わりのない生活を送っている方には想像しづらい部分も多いのではないでしょうか?支援する側が医療・介護の内側について、もっと発信していく必要があるのかもしれません。
 教育の現場においても、性的マイノリティについて学ぶ機会は増えていますが、当事者が高齢者となった場合にどのような問題が生じるのか、そこまで深く考える機会は少ないようです。

同性介護の必要性と実現の困難さ

 排泄の話題になったところで、「性的マイノリティであるかどうかに関わらず、排泄・入浴ケアでは同性介助を望まれることが多くある」という話題が出ました。実際の現場でも希望は多く聞かれるものの、実現するにはマンパワーの限界が問題となります。介護の現場で働く参加者からは、「まずはできる限りの提案をする。提供できる範囲に対して、利用者に選んでいただく」という声が聞かれました。公的なサービスである以上、できることには限りがあります。限界を意識しつつも、お互いが心地よくサービスを受け、提供できるような配慮が必要なのではないかと思いました。

配慮の難しさ

 ジェンダーやセクシュアリティへの配慮自体が“最近の考え”として捉えられることが多く、若年者と比較して高齢者に対してはほとんど配慮をされていない状況です。これは高齢者の中に当事者が少ない、というわけではなく、現代ほどカミングアウトが容易ではなかった時代を生きてこられた方が多い故、このような状況が生まれているのではないかと考えられます。
 当事者であることをカミングアウトした上で配慮を受けることも可能ではありますが、それ自体がとてもハードルが高いことであるのはもちろん、受け入れる側の体制が十分であるかどうかも大切なポイントです。まずはその体制を整えるべく、正しい知識が広まっていくことが大切なのではないでしょうか。

高齢の性的マイノリティの方が受診・入院するときにハードルとなるのはどんなこと?

医療への不安

 急な入院や手術の際など、どのような対応をされるのか不安を抱える方も多いようです。病院や対応するスタッフごとに配慮に差が出てしまい、誰もが安心して医療サービスを受けられる現状であるとは言えません。
 また自身のジェンダーやセクシュアリティについて、どの程度まで病院に伝えるべきなのか、迷われる方も多くいらっしゃいます。担当の医師だけに情報を伝えたつもりが、カルテや他職種との情報共有の中で病棟全体に知れ渡ってしまうなど、望まれないケースも想定されます。命を左右するような重要な情報であるならまだしも、それが本当に全体で共有すべき情報であるのか、もしそうだとしたら対象者への事前の説明はどのように成されるのか、これらは事前に議論されておくべき問題です。
 病院に限らず在宅医療の分野でも意識を高めていく必要があります。対象の生活空間に外側から足を踏み入れる立場では、助言や提案が自身の価値観に基づいたものになっていないか、逐一立ち止まって考える必要があるのではないでしょうか。相手が性的マイノリティであるかどうかに関わらず、相手の生活背景や人生を考慮した上で、関わっていく必要があると思います。

私たちにできること

 これらの問題を踏まえて、最後に私たちにできることについて話し合いました。
 まずは、性的マイノリティの方に関する知識を持つこと。現状、ジェンダーやセクシュアリティに関する授業がカリキュラムに組み込まれている学校はごく一部です。すでに臨床に出ている医療職も含めて、今後このような知識が定着するような教育モデルを構築していく必要があるのではないでしょうか。
 また、医療や介護に携わる「私たち自身にはどのようなマジョリティ性・マイノリティ性があるのか」について、意識していかなくてはなりません。マジョリティとはマイノリティの対義語で、「多数派」、「多数者」以外にも「強い発言力を持ち優位な 立場に立つグループ」という意味を持ちます。
 マイクロアグレッション(人と関わるとき、相手を差別したり、傷つけたりする意図はないのに、相手の心にちょっとした影をおとすような言動や行動をしてしまうこと)は、このような“無自覚な自身と相手との差”から生まれます。こうしたマイクロアグレッションの積み重ねによって、性的マイノリティの方々を医療・介護から遠ざけてしまうことは防がなければなりません。

感想

終わりに、本日の感想を参加者でシェアしました。

  • 今の現場の様子や問題について改めて認識することで、今後なにができるか、色々とヒントをもらえた。

  • 自分たちが何を発信していかなきゃいけないか、明確になってきた。介護の情報を分かりやすく使いやすく発信していきたい。

  • 発言することが大事だと思った。会社でも弱者だと思わず、生活の底上げをしているんだと思って頑張っていこうと思った。

  • ハラスメントや配慮だけではなく、分野として確立していくことが大切。問題や課題に対して、ひとつの分野として確立していくことがリハビリテーション、医療、社会保障として果たすべき役割なのではないかと思った。

  • 自分のジェンダーやセクシュアリティについて、相手に言えることや言えないことが選択できる仕組みを考えていかなければならない。医療や福祉の現場が実際どのようなことをしているのか、当事者の方に伝わっていない部分もあるので、今後は意識していかなくてはならないと思った。




 今回のイベントでは高齢の性的マイノリティの方が抱える問題や悩みについて、少人数でじっくりと話し合いました。若い世代では少しずつ問題意識が芽生えているものの、高齢者が主である介護や医療の現場では、未だ十分な配慮が成されているとは言えません。
 リハビリテーション職種という限定的な職種の中においても、こういった知識が広まっていくよう、わたし達は今後も活動していきたいと考えています。また今回、参加してくださった皆さま、貴重なお時間をいただきありがとうございました。改めて、感謝申し上げます。今後ともよろしくお願いいたします。
 


 リハ職のジェンダーとセクシュアリティを考える会では、今後もイベントを企画しています。内容は今回と同じようにとあるテーマについて参加者の皆さまにディスカッションをしていただく予定です。テーマについてはこれから運営で検討していきますが、「こういう話しがしたい」「こんなことで悩んでる」など、ご意見・ご要望がありましたらお気軽にご連絡ください。


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