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ざっくり語彙 ~スキマ5分の「スマホでボキャビル!」~ 023

【擬制(ぎせい)】 
X「あなたは…あなたは…私の大切なものを盗んでいった…!」
Y「何ですって!? 私は何も盗んでなどいない! 濡れ衣です!」
X「ふふ…確かに盗んでいきました…この、私のかけがえのない…」
Y「……」
X「かけがえのない、たった一つのハートを!」
Y「!」
X「あなたはハート泥棒です! ハート泥棒なんです!」

などというやりとりがあったとしましょう。そして、もちろん絶対にありえないことですが、そこに警察が現れて、「Yさん。あなたを『ハート泥棒』の罪で逮捕します」などという事態になったと仮定します。
まず、「泥棒」とは何か。
もちろん、「誰か他人の物を盗むこと、あるいはそれをする人」のことです。
では、仮に「ハート泥棒」なる犯罪が存在したとするなら、そこにはどのような認識が働いているか?

・泥棒=誰か他人の"物"を盗む人
・ハート泥棒="ハート"を泥棒する人


という二つの定義を考えた場合、これらが矛盾なく両立するためには、

・ハート=物

という認識が前提となるはずですよね。
でも、ちょっと待ってください。
そもそも、「ハート」って、「物」ですか?
僕たちの一般的な感覚に照らし合わせてみれば、当然「ハート」は「物」なんかではありません。つまり、「ハート泥棒」なる概念は、

本来「物」ではないはずの「ハート」をあたかも「物」であるかのようにみなし、それを盗んだ人間を逮捕する対象と考える

という認識の中で成立するわけですね。
このように、「本来はAではないものをAとみなし、法的に、Aと同じように扱うこと」を、【擬制】と言います。

~例文~

たとえ未成年であっても、結婚しているならば成人とみなし、成人と同様の法的権利を与えるという考え方は、まさに擬制の典型であると言える。

~関連知識~
【擬制】は法律用語なので、「本来はAではないものをAとみなし、法的に、Aと同じように扱うこと」というやや硬質な定義をしてみましたが、実際に大学入試評論文でこの語に出会った場合には、ほとんどの場合、「虚構」「フィクション」という意味で用いられているはずです。例えば、「人種という擬制によって~」とか、「民族という擬制は近代国家の要となった」等。つまり、ざっくり語彙020で解説した【物語(=神話・想像・幻想・空想・虚構・フィクション…)】とほぼ同義の概念と考えて大丈夫ということになります。



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