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ざっくり語彙 ~スキマ5分の「スマホでボキャビル!」~ 030

【牧歌的】
都会に暮らす人が、例えば旅行などで地方の農村風景を目にすると、「あー…のどかでのんびりとして、癒されるなぁ…」と思うことがあるかもしれません。もちろん現実には〈地方=のんびり〉などというのはステレオタイプな固定観念に過ぎないでしょうし、例えば農業や牧畜なども、僕のような素人には想像を絶するようなハードな労働であると耳にします。が、あくまでイメージとして、農村風景にそうした雰囲気を感じる人は、おそらく少なくはないでしょう。そしてこの、

>あー…のどかでのんびりとして、癒されるなぁ…

と感じられるような雰囲気が、つまりは【牧歌的】ということなのですね。
ちなみに『デジタル大辞泉』を引くと、「牧歌」について、

1 牧童などのうたう歌。
2 牧人や農民などの生活を主題とした詩歌。田園詩。パストラル。

と説明があります。「牧童などのうたう歌」。なんか、いわゆるスローライフを象徴するような、まったりとした風情にあふれるメロディが聴こえてきそうです。

だから【牧歌的】となると、例えば『精選版 日本国語大辞典』では、

牧歌のように素朴で抒情豊かなさま。

などと定義されるわけです。まさに、「あー…のどかでのんびりとして、癒されるなぁ…」といったイメージそのままですよね。そしてその使用例として、小林多喜二の「不在地主」という作品の、

何か牧歌的な、うっとりするやうな甘い、美しさで想像してゐたチョコレート色の藁屋根の百姓家

という一文が紹介されています。こういう使い方をする言葉だということを、記憶しておきましょう。

〜例文〜

ヨーロッパ近代は、そこにかつてあった牧歌的な風景を駆逐し、合理性と機能性に満ちた都市を形成していった。

〜関連知識〜
上の例文でもそう使ってみたように、【牧歌的】という表現は、しばしば、近代以降の都市と対照されるような、前近代的な世界を象徴する記号として用いられます。〈前近代=牧歌的な農村共同体/近代=合理化され、機能化された都市〉といった対比で論を展開していく文章なども多いですね。

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