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博耕房大学受験部からのメッセージ ~これからの現代文学習に向けて~

 こんにちは。博耕房現代文講師の小池陽慈と申します。今後ともよろしくお願いいたします。
 さて、今回は、先日開催された博耕房の説明会で私のほうからお話しさせていただいた内容について、簡単にではありますが、まとめてみたいと思います。説明会にご参加された方も、ご参加されていない方も、ぜひお読みください。

§1 これからの国語は、文学をどう扱うのか?

 皆様すでにご存じかとは思われますが、現在進められている教育改革では、国語という科目のありようが大幅に変えられることが既定路線となっています。その一例として、

「文学国語」という枠が選択科目として設けられる。
「現代の国語」(必修)および「論理国語」(選択科目)の中で、〈論理的な文章〉以外に〈実用的な文章〉が扱われる。

といった点が挙げられます。〈実用的な文章〉というのは、いわゆる契約書法律文説明書などのことを指しますが、こういった文章を扱うことを、文科省は、かなり前面に押し出しているわけですね。すると当然、教壇に立つ先生や教育学の研究者からは、

〈文学的な文章〉が選択科目として扱われ、〈実用的な文章〉を推すということになれば、結果として、高校の国語の授業で文学を扱う時間が少なくなってしまうのではないか?

といった懸念の声があがってくることになります。確かに、改革推進者の発言や学習指導要領等に鑑みるに、こうした状況が生じることはおおいにありうることかと思います。

§2 〈非連続テキスト型問題〉とは何か?

 まずは以下の文章をお読みください。

 このような時代にあって、学校教育には、子供たちが様々な変化に積極的に向き合い、他者と協働して課題を解決していくことや、様々な情報を見極め、知識の概念的な理解を実現し、情報を再構成するなどして新たな価値につなげていくこと、複雑な状況変化の中で目的を再構築することができるようにすることが求められている。
(文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説」より抜粋)

 一読して、教育改革「主体的・対話的で深い学び」というスローガンに基づいた文言であることがわかります。例えば「様々な変化に積極的に向き合い」「主体的」という理念を反映したものでしょうし、あるいは「他者と協働して課題を解決していく」は、「対話的」という考え方につながっていきます。
 けれども、少々わかりにくいのが、「様々な情報を見極め、知識の概念的な理解を実現し、情報を再構成するなどして新たな価値につなげていく」という記述ではないでしょうか?

 PISAというものをご存じでしょうか。これは経済協力開発機構(OECD)加盟国を中心として3年ごとに実施される15歳を対象とした国際的な学習到達度テストのことなのですが、2015年の実施回において、日本人受験者の平均得点がかなり低下したことが報告されました。
 とりわけ落ち込んだと言われているのが、〈非連続テキスト型問題〉の正答率……と申し上げましても、多くの方にとって、この〈非連続テキスト型問題〉という言葉は馴染みの薄いものかと思われますので、その概要を説明させていただきます。
 端的に言えば、〈非連続テキスト型問題〉とは、

資料やグラフ等を含む複数の文章を並べて、それらを紐づけながら読む

ことを要求するような形式の問題となります(ちなみに私どもの業界では、〈複数テクスト問題〉という言い方のほうが定着していたりします)。「紐づけながら」という箇所がイメージしにくかもしれませんが、要するに、〈複数の文章を比較しながら読み、共通点や関連性を自分で見つけていく〉ことを意味しているとお考え下さい。ともかくも、この〈非連続テキスト型問題〉における日本人受験生の平均点が低下したわけですね。
 となれば、文科省は黙ってはいられない。
 当然、何らかの対策を講じなければならない、となるわけです。
 そしてこのような背景を知ったうえで先ほど引用した「学習指導要領解説」中の「様々な情報を見極め、知識の概念的な理解を実現し、情報を再構成するなどして新たな価値につなげていく」という文言を参照すれば、それがまさに、資料やグラフ等を含む複数の文章を並べて、それらを紐づけながら読む〈非連続テキスト型問題〉を意識しての言葉であることが明白にイメージできます。
 なお、ここらへんの背景やその裏側については、紅野謙介『国語教育混迷する改革』(ちくま新書)、および『どうする? どうなる? これからの「国語」教育』(幻戯書房)等をお読みいただくと、より深く理解できます。後者には私も拙稿を載せておりますので、よろしければご一読ください。

§3 大学入学共通テスト【現代文】について

 さて、こうした教育改革は、いったい大学入試にどのような形で反映されることになるのでしょうか?
 それを端的に表すのが、大学入学共通テストの作問のあり方なのですね。
 論より証拠。
 以下に、大学入試センターのサイトに公開されている過去二回実施された大学入学共通テスト試行調査問題のPDFファイルをはっておくので、ざっとご確認ください。

 概要を整理すると、

【第1回】現代文
 第1問 部活動規約+会話文+図表+新聞記事+グラフ
 第2問 評論文+図表+写真
 第3問 小説の原案+翻案

【第2回】現代文
 第1問 評論文+評論文
 第2問 評論文+法律文+図表+ポスター
 第3問 詩+エッセイ

と、現代文のすべての大問において、〈非連続テキスト型問題〉が出題されていることがわかります。なんと、第3問の〈文学的な文章〉においてすら…! 〈非連続テキスト型問題〉にかける文科省の執念は、どうやら並々ならぬものがあるようです……。
 周知の通り、大学入学共通テスト現代文の目玉であった記述問題は、中止となりました。しかしながら、多くの人が誤解されているのですが、記述が中止になったからといって共通テストが従来のセンター試験型に戻るわけではないのですね。
 以下に、今年の一月に公開された「大学入学共通テスト問題作成方針」の一文を引用しておきます。

問題の作成に当たっては、⼤問ごとに⼀つの題材で問題を作成するだけでなく、異なる種類や分野の⽂章などを組み合わせた、複数の題材による問題を含めて検討する。
(「令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト問題作成方針 令和2年1⽉29⽇」より抜粋)

§4 大学受験を見据え、高校生・受験生はどのようなことを意識すべきか?

 ここまでの流れをいったん総括しましょう。
 まず、これからの国語では、〈実用的な文章〉への傾斜と〈文学的な文章〉の選択科目化により、文学を扱う時間が減ってしまう可能性があります。
 次に、受験生には、〈非連続テキスト型問題〉への対応が求められることになります。そしてこの〈非連続テキスト型問題〉は、その形式の特異性ゆえに、〈文学的な文章〉を出題する際にも、これまでのような〈作中人物の内面を類推する〉〈主題を解釈する〉といった"文学的な読み"をストレートに問うものではなくなる可能性が高い
 以上の点に鑑みて、授業でも、そして受験対策でも、国語という科目において文学というものが軽視される懸念は、やはり払拭することができないと言わざるを得ません。
 けれども、文学の学習をないがしろにすることは、高校生や受験生にとって、決して得策ではありません。それには、二つの理由があります。
 一つ目は、共通テストや他の入試問題がどれほど新傾向に流れようとも、実際には〈文学的な文章〉文学にまつわるエッセイをかたくなに出題する大学は、決してなくならないだろうという点が挙げられます。例えば2019年度の入試では、北海道大学が文学論東北大学が小説東京大学の文科が随筆京都大学が詩論大阪大学の文学部が小説を出題しています。もちろん、皆、生半可な対策でなんとかなるようなレベルの問題ではありません。こうした超難関大学を狙う受験生は、徹底的に〈文学的な文章〉と向き合う必要があるわけです。
 次に二つ目の理由ですが、〈文学的な文章〉の読解に求められるのは、それが登場人物の内面であれ主題であれ、そこに直接は書かれていないことを、書かれていることをヒントにして解釈するという作業になります。例えば、太宰治『走れメロス』のどこを読んでも、〈友情のすばらしさ〉などという文言は書かれていない。でも、物語全体の筋から、それを解釈するわけです。つまり文学の学習は、〈論理的な推論能力〉の鍛錬に直結することになるのですね。いうまでもなく、この力は、現代文のみならず古文・漢文でも、いや、おそらくすべての科目に通じるものであるはずです。それを鍛えられる文学の学習をないがしろにするのは、受験全体を考えても、このうえなくもったいないということになります。

§5 博耕房での対応


 以上の観点を踏まえ、博耕房では文学の学習にも力を注いでいくことを、ここに明言しておきます。具体的には、武川の担当する通常授業は評論文を重点的に扱っていき、私の担当するイベントで文学作品の解釈というテーマを徹底的に追求していく予定です!

お知らせ

 以下の日程で無料体験授業を実施いたします。現代文は武川、古文は葛西が担当いたします。両名とも、言葉と、そして文章と、とことんまで真摯に向き合うことを信条とする講師です。ぜひご検討ください!
 なお、詳細は以下の博耕房ホームページをご覧いただければ幸いです。

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