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【特別連載】noteと共に振り返るマイスター合格への道2021 -Ⅵ-

ヘッダーのカウントダウン/航(書道アーティスト)
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 おはようございます、副音声note6日目です。昨日の投稿で振り返りました「緊急事態」の余韻はございますでしょうか。早速参ります。


 第6回目の今日は8月1日公開の「チャリオット」です。
 別名「続・緊急事態」です。それではよろしくお願い致します

 先週の内に山ほど応募した求人の内で有難い事に唯一面接の機会を設けてくれたドイツ郵便を目指して、この街に住んで五ヶ月が経とうとするもののまだ一度も通る機会を持たなかった道を歩いていた。

 試験勉強の傍ら、国から「7月末までに8月の雇用を確保する」という短期決戦必至のミッションを課せられ、達成できなかった場合にはドイツからの追放という危機に直面していた私は、職種を問わず数十件の求人に手当たり次第応募していた――というのが前回の大まかな流れになります。
 引用の通り、その中で返事があったのはたった1件だったので藁にもすがる思いで面接への道を歩いています。

 最後の頼みの綱とばかり考えていた郵便配達の仕事を断念せざるを得なくなった私は、まさに路頭に迷う男の如く頭をわしゃわしゃと掻きつつ、郵便局からの見慣れぬ道を足早に歩いていた。

 労働期間の条件的に採ってもらえませんでした。人生で初めて路頭に迷うという言葉を体感しました。帰り道、景色は歪み、大きい声で叫びそうでした(理性が生きていて良かった)。

 そんな時である。丁度俯いていた御蔭で低くなっていた目線に一つの看板が突如出現したのである。職業案内所であった。

 そこに運命の様な出会いが訪れました。初めて歩く道だったので本当に偶然だったんですが、間髪入れずにすぐに飛び込みました。それまでオンライン授業の傍らインターネット上で求人を漁ってばかりだったので、この時初めて職業案内所という選択肢がうまれました。ここまでが月曜日の出来事です(タイムリミットまであと4日)。

 火曜日に以前から面接の予定を入れていたパン屋に出向きます。本編中同様パン屋Bと呼んで進めます。ちなみに面接に行く前に、別の職業案内所にも顔を出して熱弁しました。

 このパン屋での面接は10月から(マイスター学校終了後)の雇用という話でしたが、ダメもとで事情を話し8月から働けないか聞く事にしました。この時、私が直面していた問題によって雇用主から見た私が社会的信頼の無い男に映ってしまって10月からの雇用にも支障が出ないかが懸念でした。

落ち着いたトーンでフランクに話す彼女に促され、私は構えていたよりもずっと単簡に八月からの雇用について早速尋ねていた。彼女は人員配置の表をさっと眺めるなり、大丈夫よと言ってくれた。…
そして社長も八月からの雇用は可能であると言ってくれた。

 物凄くホッとした瞬間です。そして木曜日に試用で1日実際に働いてみて決定を下すという話になりました。10月からに向けたパン屋の面接は全部で3件(最初は6件でしたが「緊急事態」以降残りの3件は断らざるを得なくなりました)でしたが、この日の面接終了後に金曜日に入れていた面接を断りました。色々な手続きで時間が無いと踏んだからです。

翌水曜日にも私は面接が一つ決まっていたので、…。このパン屋をAと呼ぶ事にするが、応募した段階で本命と考えていたパン屋であった。

 前日に8月の雇用の手応えを感じていた私は、このパン屋Aは元々本命だったからと言う理由で面接を受けましたが、心の内では8割パン屋Bに採ってもらうつもりになっていました(あと断りを入れるには余りにぎりぎり過ぎました)。

私はここでも八月からの雇用について尋ねた。…
彼女は勿論と言って、さらに八月から働くとした場合の事について次から次へと話を発展させていった。それが身に余る程の好待遇だったのである。…
無論私が八月末からマイスター学校の授業を受けなければならない事を考慮した上で熱烈なラブコールを受けたのである。

 熱烈過ぎて蛙化現象に似た勘繰りを発症させたのが当時の私です。余りに好待遇(&スーパーフレンドリーな対応)だったので、何か裏がありそうだとひねくれた考えをしてしまっていました。そして返事は翌日、つまりパン屋Bでの試用が終わり次第、に持ち越させていただきました。ここで蛙化現象を起こしたり、もともと8割パン屋Bに傾いていたのに即決出来なかった理由は、10月以降を見越した生活環境などで冷静に比較したかった事と本命だったパン屋Aがやっぱり素敵なパン屋だったからです。

 翌日、私は指定の時間にパン屋Bに到着し、三人の従業員と一日働いた。働いている内もまだ迷いがあったが、一日働いたらそれはもう殆ど合意であるので私の胸の内では、もともと本命であったパン屋Aの方を断念する方向に傾き始めていた。

 木曜日の試用中もずっと心は揺れていましたが、

 仕事が終わると私は事務室に顔を出した。…
マイスター学校の授業がある期間などを再確認し、契約書は明日までに完成できるという話で合意を取り、その日の帰り道に私は本命であったパン屋Aに断わりの連絡を送った。

 こうして決断に至りました。とても安心してピザを買ってビールを買って祝杯を上げる準備をしました。これが木曜日、タイムリミットの前日です。

 ところが

そこへパン屋Bから電話が掛かって来た。そして「やっぱりうちでは雇えません」という非情な通達を受けた。事務室で合意をしてから三時間後の出来事であった。

 この時ばかりは気を失いかけました。ついさっきの確認は、合意はなんだったんだとわずか3時間後の掌返しに、今まさにビールを開けようとしていた手は急激に震え始めました。いや、ちょっと待て!掌返しに怒っている場合じゃない!皆さんひとつ前の引用した部分を覚えていらっしゃいますでしょうか!急いでスクロールはしなくても大丈夫、もう一度下に引用を貼ります!

その日の帰り道に私は本命であったパン屋Aに断わりの連絡を送った。

 詰んでる!!!!追放される!!!!


 私は猛烈に焦りました。パン屋Bに掌を返され、パン屋Aにはつい数時間前に丁寧に断りを入れ、あれだけ胸を張って「任せなさい」と言ってくれた職業案内所に関しては音沙汰無し!!
 頭も目もぐるぐる回ります。脳味噌フル回転で捻り出した作戦は「パン屋Aに泣きつく」でした。私は大急ぎでパン屋Aに電話を掛けました。昨日面接をしてくれたスーパーフレンドリーな女性が出ました。

ついさっき断りを入れたばかりなんですが、どうか雇って下さい!

 一世一代の無礼を承知の上で、背に腹は代えられなかった私は渾身の泣きつきをぶつけました。

彼女は電話の向こうで少し笑いながら、大丈夫大丈夫、問題ないわ、と私の無理を引き受けてくれた。

 何を隠そうこのパン屋Aこそが、私が今働いているパン屋ベッカライ・クライン(仮名)であり、奇しく当初からの本命のパン屋でした。

 まるで映画の一本でも撮れる位の紆余曲折と喜怒哀楽のあった二週間であったが、クライマックスに相応しい大どんでん返しによって運命に導かれるように本命のパン屋に雇って貰うという結末を迎えた。

 ――というのが昨日の「緊急事態」の回でも書きましたが、今年のハイライトの全貌です。もはや前編「緊急事態」、後編「チャリオット」から成る1つの完結作品です。喉元過ぎて熱さも忘れた今、もう大好きな話です。


【クリスマスの物語、小説作品特別公開まであと5日】

#振り返りnote #副音声note  

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