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設計者が実施すべきマーケティングとは|トヨタ流開発ノウハウ 第28回


◆OJTとは?


皆さんの会社ではどのような設計者教育を行っているのでしょうか?

多くの企業では設計者教育自体がほとんどなく、新入社員として入社時に教育されたあと、設計現場での実践での教育≒OJTのみになっていないでしょうか?

OJTとは、「On the Job Training (オンザジョブトレーニング)」の略で、実践で指導していくことにより、知識や技術を習得していく方法になります。
このOJTのみの教育に頼ってしまっているのが、多くの企業に見られる現象です。

OJTのみに頼ってしまうと、OJT担当者の設計スキルや実際に抱えている開発案件によって、習得できる知識や技術が偏ってしまい、新人設計者全員に同じ教育をしているとはいいがたい状況になってしまいます。

そのような状態で教育を続けていくと設計部門全体のスキル向上(能力の底上げ)にはならず、いつまでたっても課長や部長が図面の作成から離れることができない状況になってしまうでしょう。

◆設計者の教育


設計者の教育に向けた体系の議論をクライアント先でさせてもらうと下記のような意見が出てきます。

・設計は他の部門と違って、実践でしか知識の習得ができない

・知識は教えられるものではなく、先輩の仕事の仕方を見て盗むものだ

・研修のような教育をしたところで、実践では使えない

・新人の間に教育してもどうせすぐに忘れる

このような意見を持っている設計者がOJT担当になるとどうなるか想像できるでしょうか?

「OJTという名の無教育」になるのです。

もちろん、上記のような意見も理解できる部分もあります。
しかし、ベテランと言われる設計者と今の新人設計者は生きてきた時代が違うのです。
決められた労働時間の中で効率的に設計し、高い品質の製品は創出しなければなりません。そのためには、新人設計者たちへの能力底上げは企業命題でしょう。

それではどのような教育を実施していくべきなのでしょうか。
設計者にとって有効な教育方法を解説していきたいと思います。 

◆有効な教育方法


1.スキル項目とスキルマップ

まず、各企業の製品を設計するために必要なスキル項目を列挙します。
列挙の方法については、具体的なスキルの項目を検討する前に、区分や要素を抽出するのがいいでしょう。

例えば、「図面要素」「設計要素」「品質要素」「コスト要素」「マネジメント要素」などになります。

それぞれ、要素の内容に従い、スキル項目を検討していきます。
それぞれの内容、具体例を見ていきましょう。

①  図面要素:寸法公差設定能力、幾何公差設定能力

②  設計要素:構造計算能力、駆動力計算能力

③  品質要素:信頼性設計能力、QMS

④  コスト要素:VE・VA手法、原価計算能力

⑤  マネジメント要素:設計戦略立案能力、リスクアセスメント立案能力

など・・・。

このようなスキル項目を抽出し、各役職における必須スキル内容を設定していきます。

各スキル項目にはOFF-JTの欄とOJTの欄の2つが必要になります。
OFF-JTで習得しても、実践で活用できなければ意味がないので、OJTによりその知識を実践で活用し、深く学習したかどうかを判定していきます。

そのためにOFF-JTの欄とOJTの2つの欄が必要となるわけです。

基本的にはOFF-JT後にOJTを実施すると効果的だと思いますが、OJTの後に知識を体系的に理解するという意味でOFF-JTするのも意味があるものだと考えます。
 
2.OFF-JT

スキル項目習得のための教育計画を立案していきます。

研修ベースで学習させる内容と社内や社外での書籍などにより、自己学習させる方法がありますが、自己学習ですと、なかなか実際の業務への結びつきが分かりにくく、実践で活用できない可能性が高いため、基本的にはOFF-JTとして、社内もしくは社外で研修するのがいいでしょう。

さらに効果を高めるのであれば、社外の研修で取得した内容を社内で展開する意味で、受講者が先生となり、実業務を絡めた社内研修を実施するのが効果的でしょう。

各設計者の教育計画を立案し、社内もしくは社外での教育を受講していきます。受講し、終了ではなく、受講の結果、どのように実務に活用するのかを考えさせ、報告させることが必要になってきますので、報告書には実務への活用方法の欄を必ず作成するようにしてください。
 
3.OJT

最後にOJTです。

最初にOJTに対してネガティブな意見を列挙しましたが、私自身OJTによる知識の習得の効果は非常に高いと考えています。

しかし、闇雲に教えるというのは、教えられる側にとっても不幸でしょう。

そのような状況にならないように、計画的にOJTを実施していく必要があります。OJT教育計画表を立案してください。OJT計画表は、どのような開発案件で、どのような知識を実践で学習し、結果、案件を問題なく遂行させるといったものです。

スキル項目の設計要素や品質要素、コスト要素についてOJTで教育するべき内容を抽出していきます。抽出は設計者の現時点のスキル習得状況によって変わってくるので、実践で活用できていないスキル項目からOJTを実施していってください。
OJT担当者は実践によって、OFF-JTで学習した知識が活用できているのかを判定し、活用できていれば、「○」をスキルマップに記載していきます。
 
このように設計スキルを向上させるためには、OFF-JTとOJTをうまく組み合わせながら教育を実施していかなければなりません。どちらか一方では知識が正しく身に付かないのが設計という業務だと考えています。

設計という業務は、教育しにくいと考えられており、「職人気質」の雰囲気が漂っていますが、決してそのようなことはありません。
「職人気質」になってしまっているのは、設計者に必要な能力が明確になっていないだけで、それを明確にすることさえできれば、教育を実施していくことが可能なのです。
職人であったとしても明文化できない能力はありません。

ただし、アイデアの創造であったり、この世の中に無い製品を創出する際には、上記で決めたどのスキル項目にもない能力が必要になってくる場合もあるでしょう。
しかし、そのような内容が全設計者に求められるわけではないのです。

この設計者教育はあくまでも設計という組織の能力の底上げであり、レベルの高い設計者を数多く輩出するのが目的なのです。
 
皆さん、いかがでしょうか?

ぜひ設計者教育について再度見直しをおこない、設計組織の能力底上げのために、教育を愚直に実施していってください。


講師プロフィール

 株式会社A&Mコンサルト
代表取締役社長 | 中山 聡史

2003年、関西大学 機械システム工学科卒、トヨタ自動車においてエンジン設計、開発、品質管理、環境対応業務等に従事。ほぼ全てのエンジンシステムに関わり、海外でのエンジン走行テストも経験。
2011年、株式会社A&Mコンサルトに入社。製造業を中心に自動車メーカーの問題解決の考え方を指導。
2015年、同社取締役に就任
2024年4月、代表取締役社長に就任

主なコンサルティングテーマ
設計業務改善/生産管理・製造仕組改善/品質改善/売上拡大活動/財務・資金繰り

主なセミナーテーマ
トヨタ流改善研修/トヨタ流未然防止活動研修/開発リードタイム短縮の為の設計、製造改善など
※2024年6月現在の情報です

近著


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