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食塩水と砂糖水で吸水ポリマーは膨らむ?

自重の100倍以上の水を吸収する吸水ポリマー(高吸水性樹脂)。
水を含む、代表的なハイドロゲルの一つです。
ところで、吸水ポリマーを食塩水や砂糖水に漬けるとどうなるのでしょうか?
ビーズタイプと粉末タイプの二種類を試してみます。

まずは、水溶液を作ります。
今回は、人や動物の体液と同じ濃度の食塩水を作ります。
濃度は0.9%で、生理食塩水と呼ばれます。

そしてもう一つ、5%の食塩水を作ります。
高濃度の食塩水です。
ちなみに、濃度0.05~3.5% のものを汽水(きすい)、3.5 ~5.0%のものを食塩水 、5%よりも高い濃度のものは塩水と呼びます。
汽水は、川から海に水が流れ込んでいる河口部分によくみられます。

さらに、5%濃度の砂糖水を作ります。
砂糖は塩と違ってとても溶けやすいですよね。
5%の濃度でも直ぐに溶けます。

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左から水、生理食塩水(0.9%)、食塩水(5%)、砂糖水(5%)

当然ですが、パッと見での違いはありません。

それぞれの容器に吸水ポリマー(ビーズタイプ)を入れます。

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約10個ずつ入れます。
はたして、膨らみ方に違いはあるでしょうか?

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これは20分後の様子です。
既に違いが出てきています。
左端の水と、右端の砂糖水に漬けたものが同じくらいの大きさに膨らんでいます。
生理食塩水に漬けたものも、そこそこ膨らんでいます。
5%の食塩水に漬けたものは、やはり吸水し難いようですね。

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2時間後。
大分差が出てきましたね。
食塩水は吸水し難いのが分ります。

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8時間後。
水と砂糖水に漬けたものはかなり大きくなりました。
生理食塩水につけたものはその半分以下です。
5%の食塩水はあまり大きくなりませんでした。

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水を出して見やすくしてみました。
違いは一目瞭然ですね。
砂糖水は真水とほとんど同じでした。

続いて、吸水ポリマーの粉末で実験を行います。

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左端の水に大さじ一杯の吸水ポリマーを入れると、あっという間に吸水して膨らみます。
左から二番目の生理食塩水は、少し時間がかかるものの、全ての水を吸収しました。
*すべて白色のために見にくくなりました。すみません...

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しかし、5%食塩水に入れるとなかなか膨らみません。
少しずつ水を吸収していきます。

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生理食塩水の倍以上時間がかかりましたが、5%の食塩水でも全ての水が吸収されました。

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右端の砂糖水に吸水ポリマーを入れると、瞬時に膨らみました。
厳密には、真水よりわずかに遅かったです。

粉末の方もビーズと同じで、水と砂糖水をよく吸収することが分りました。
そしてやはり、食塩水は吸収し難いですね。

アクリル酸

吸水ポリマー(高吸水性樹脂)はこのような構造をしている、ポリアクリル酸ナトリウムという高分子で出来ています。
図のOHがONaになっています。
水素をナトリウムに置換していることが、高い吸水性の源になっているんです。

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図のように、カルボン酸(COO-)どうしの静電反発でポリアクリル酸ナトリウム分子鎖でできたネットワークが広がります。
加えて、ナトリウムイオンが浸透圧差を生み出します
外側が真水だと、含まれるナトリウムイオンは僅かのため、ナトリウムイオン濃度の差をなくすために、水が吸水ポリマーの中にどんどん入っていきます。
水が入れば入るほど、水溶液のイオン濃度は低くなります
つまり、ナトリウムイオン濃度が下がるんです。

ところが、外側が食塩水(塩化ナトリウム水溶液)の場合
外側のナトリウムイオン濃度が高いため、吸水ポリマー内のナトリウムイオン濃度との差が小さくなります。
そのため、なかなかポリマーの中に水が入っていきません。
吸水して膨らんだ吸水ポリマーを高濃度の塩水に入れると、ポリマー中のナトリウムイオン濃度の方が低いため、水は外に出ていきます
吸水するときと逆の現象が起きるんですね。

このことを理解しておけば、今回の実験結果も納得です。
食塩水中で吸水ポリマーが吸水し難いのも当然というわけです。
一方で、砂糖(スクロース)はナトリウムイオンを持っていません。
だから、水と大差ない結果になったわけです。

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スクロースの構造:グルコースとフルクトースの二糖類(Wikipedia)

砂糖と言っても様々な種類があります。
一般的に良く使用される白砂糖の主成分はスクロースです。
サトウキビやテンサイから糖分を取り出し、結晶化させたのが砂糖です。
結晶を大きく成長させると、氷砂糖になるんです。

吸水ポリマーはあっという間に水を吸収して膨らむため、演示実験に最適だと思います。
ゲルや浸透圧について学ぶ良い教材になりますね。
ビーズタイプに香料を混ぜた水を吸収させれば、ゲルの芳香剤を作ることができます。
培養土としても使えるので、アイデア次第で様々な用途に応用できると思います。


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