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手をつなぐこと

妻は遠慮がちに手をつなごうとする。
私は手を握り締める。
妻は車いす。
私は歩行者。
傍からは、介助者でもない私が、妻の車いすの横に立って手をつないで歩くことを奇妙に思う人もいるだろう。

でもそれが我が家の普通の光景なのだ。
今日はそんなお話。

私は幼少期・小学校、誰かと一緒に生きることなんて考えていなかったと思う。小さい頃は将来の職業に学者と考えて、生意気にも象牙の塔の上に住めば誰とも接触しなくて済む。そんなことを考えていた。

異性と遊ぶことだけでなく、同性と遊ぶ時も、横に並んで歩くこともなかった。移動はドラクエ歩きか、2人前に横並びで歩いているのを後ろからついていくのが常だった。

中学時代、初めて異性と付き合った。でもその時も誰かと一緒に生きるという考えには至らなかった。
考えが、幼かったから、というわけではない。
たぶん。

そして多くの時が過ぎ、妻となる女性と出会ったのが大学の院にいたとき。
その時はまだ、妻は普通に歩けた健常者だった。
普通に付き合い、デートし、手をつないで歩いた。
手をつないで異性と一緒に歩くのは、ほとんどこれが初めてだったのかもしれない。誰かと一緒に生きるなんて今まで考えていなかったのだから当然と言えば当然だろう。

妻となる女性は、付き合ってた頃から横に並んで歩くことを望んでいた。同性同士ですら横並びで歩くことをしなかった私にとって不思議な体験だった。

もちろん世間的に見ても、付き合っている男女がドラクエ歩きしている人たちなんて、現代にはほとんど見かけないだろう。私だって、妻は夫から三歩下がって歩け、だなんて思っていない。

それでも、一緒に横に並んで手をつないで歩くのは不思議な感覚だった。そして幸せだった。

制限時間が迫ってきていることも知らずに。


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