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死ぬまで7つのことばしか使えないとしたら (聞き手:べっくやちひろ)

7月28日、僕は32歳になりました。
そこで7月の上旬ごろ、誕生日特権を利用して、
「プレゼントに、僕の自己紹介になるようなインタビューしてほしい!」
と、ほぼ日の塾の同期である、
べっくやちひろさんにお願いしてみました。

べっくやさんは、DRESSというWebメディアの編集者さんです。
(https://p-dress.jp/)
編集という仕事に熱意と誇りを持っていて、
いつも一生懸命、少しでもいいものを作ろうとがんばっている、
パワフルで繊細な、ちょっとすごい人です。
彼女なら、僕を正確に捉えて、
そして、僕がいい感じに見えるように(笑)
うまいことやってくれるだろうなっていう予感がありました。

そういうわけで、
今日の投稿は、べっくやさんにバトンタッチして、
べっくやさんが聞き手と編集をしてくれた
僕へのインタビュー原稿をそのまま転載します。

「金沢の話なんか興味ないよ」というあなたも、
ぜひぜひ、べっくやさんによる
柔らかなインタビューを読んでもらえると嬉しいです。

***

自己紹介のインタビュー。
どんなテーマで話を聞こう?と、頭を悩ませました。

考えた結果、聞いてみたいなと思ったのは
「これから死ぬまで7つのことば(フレーズ)しか使えないとしたら、どんなことばを選びますか?」

「やっぱりそれは入れるよね」もあれば、「それ選ぶんだ」と思うものもあり。
だらだらしゃべっていたらちょっと長くなりましたが、
ぜひぜひ、読んでみてください。


##今の仕事のこと

――まずは簡単に、今の仕事のことを聞きたいんだけど……。

今年の2月に前職の広告制作会社をやめて、今は「ニコニコニュースORIGINAL」っていうメディアで編集者をやっています。

――基本は編集? 自分で記事を書くことは?

書いてる編集者さんもいるんだけど、僕はあんまり書いてなくて。

――その心は?

単純に、今は編集の仕事が楽しいから、そっちにちゃんと力を入れたい。記事を書くのは、僕よりも適任な人がもっといるんだよね。書きたい気持ちはあるにはあるんだけど、書きたいことが今は特にないのかも。

――ないんだ。

昔から持病のパニック障害のことを書きたいとは思っていたんだけど、ほぼ日で企画をやったことで実現しちゃって、次はどうしようかなっていうのが2年くらい続いている。

あとは、住み続けてる月島のことを書きたい気持ちはずっとあって、どうすればおもしろくなるかを考えてる……という感じかなあ。


##これだけは残したい7つのことば

――じゃあ、さっそく本題ね。前に伝えた通り、今日のメインテーマは「これから死ぬまで7つのことばしか使えないとしたら、どんなことばを選ぶか」なんだけど。

それは、筆談でもその7つ以外を使っちゃダメなんだよね?

――そう、書くのもダメ。ことばを仕事にしてる人が、最後の7つにどんなことばを選ぶか気になって、この質問にしてみました。

なんか、想定していたような答えになるかわからないんだけど……。

まず前提として、コミュニケーションって究極はしゃべらなくてもいけるだろうなと思うのね。だから、自分っぽいことばを残したいと思って。「自分っぽい会話をするときに必要な7つ」っていう基準で選んでみた。

じゃあ、1つ目いくね。


#1 「ふむふむ」

――ふむふむ!(笑)

会話するとき、僕は相手にしゃべってもらうことのほうが多いから、相づちは必要だと思うんだよね。「ふむふむ」だけでも相手は乗ってくれるんじゃないかなって。

――うんうん。

人の話を聞くのが好きだから、自分がしゃべるよりもしゃべってほしい。そのための相づち。

――なるほどー。でも相づちって、ジェスチャーで補えない? うなづくとか。

会話って、テンポがあると思うのね。リズムというか、相手がしゃべってるときに文節を切ってあげることばが必要かなあって。

ほとんどのコミュニケーションはジェスチャーでいけるけど、それでも残したい7つのことばの中に相づちは入れたかったんだよね。

――私だったら、相づちは最初に削っちゃうかも。個人差出るね。

ほんと? そっかあ、相づちは最初に思いついたな。

――ちょっと今から試しに、私の話を相づち打たないで聞いてみてくれる? 今日のお昼は麻婆豆腐を食べて、ファミマのやつなんだけどね、最近ハマってて週3くらいで食べてて、野菜ジュースも一緒に買ってて……。

……。

――しゃべりづらい(笑)

うん、やっぱり人の話聞いてると「うんうん」とか言いたくなるよ。

――うん。相づちあったほうがうれしいね。

最初に思いついたのが「ふむふむ」。次も比較的すぐ思いついたんだけど、2つ続けていい?

#2 「ありがとう」
#3 「ごめんね」

これは絶対必要だなって。基本だよね。やっぱり、相手に対する謙虚さとリスペクトがないと。

――それは行動じゃ補えない?

基本は行動なんだけどさ、ことばで伝えることが必要なときもきっとあると思うんだよね。ていうか、この質問で「ありがとう」「ごめんね」入れない人いるのかな……。

――ううーん、どうだろう……いるかもしれない。ちょっと気になったんだけど、「ありがとう」「ごめんね」にあたることばがない文化圏ってあるのかなあ。

どうなんだろうねえ。でも日本語は「ごめん」のバリエーションが多いって言うよね。すみません、ごめんなさい、申し訳ございません、恐縮ですが、とか。

――言われてみれば、そうだね。

謙虚さが日本人っぽいよね。ちょっと卑屈な感じがしなくもないけど……。でも、謝ることは絶対大事だと思うんだよね。謝れない人ってダサいしね。

――ゴタッとしたとき、自分から謝れる?

もう、すぐ謝るね(笑)だから人とケンカにならない。

――頑なに謝らないこととかないの?

ないねー。これは僕悪くないだろって思っても、謝って解決するなら謝っちゃう。

――それで損したりしない?

損すること、ないんじゃないかなあ。逆に、ある?

――たとえば仕事でさ、自分に非があることを先に認めちゃまずい場面とかもあるじゃない。

ああ、相手の言い分を飲んじゃうみたいな。それはあるかもしれないけど、基本は「謝ったら損する」とは思ってないかなあ。

次に思いついたのは、口癖でもあるんだけど……。


#4 「全然大丈夫」

――全然大丈夫。

相手に何かを尋ねられたときに、肯定のことばを持っていたいなと思って。

返事って「いいよ」「わかった」とか色々あると思うんだけど、僕は「全然大丈夫」って良く言うらしいんだよね。人に指摘されて気づいたんだけど。

――いつもどんな場面で言うの?

相手に「ごめんね」「ありがとう」って言われたときとか……。

――「気にしてないよ」みたいなニュアンス?

そうそう。「ありがとう」「ごめんね」はほとんどの人が言うことばだから、それに対する返しが必要だと思うんだよね。あとは、「これどう?」って評価を求められたときの返しとか。

――汎用性高いね。

実用性を意識しすぎた気がする。そんなに伝えたいこととか尖ってる思想とか、ないんだよね。穏やかにいられるのが一番いい(笑)

――うん、穏やかさは大事だよ。ちなみに、大丈夫じゃないときはどうするの?

大丈夫じゃないときの返しも用意したから、あとで言うね。とりあえず、思いついた順で次にいくと……


#5 「楽しかった」

この辺からちょっと悩み始めたな〜。

「楽しかった」は「ありがとう」のバリエーションだと思っているんだけど、自分がどう思ってるかを伝えないといけないじゃん。マイナスのことは別に伝えなくても良いけど、プラスのことはちゃんと伝えたい。そのことばが一個欲しいなって考えたときに、一番汎用性がありそうなのが「楽しかった」かなって。

――「うれしかった」はダメなの?

「楽しかった」のほうが、死ぬときとかに使えそうじゃない?
「楽しかった、ありがとう」みたいな。

――死ぬときにそんな余裕あるかな(笑)さっきちらっと言っていたけど、「マイナスのことは伝えなくて良い」の?

これはけっこう意識してるんだけど、悪口とか愚痴とかは言わないようにしていて。

――うんうん。

言ったほうはスッキリするかもしれないけど、基本は相手をおもしろがらせたり良い気分にさせるものではないと思うから。

――たとえば飲み会とかで、明らかに悪口言ったほうが場が盛り上がる場面でも、言わない?

積極的には言わないかなー。
でもたまに、悪口をすっごいおもしろおかしく話せる人いるじゃん?そこまで笑いに振り切れるなら良いと思う。でもよっぽどじゃないと、笑いに昇華できる人はいないよね。9割5分はただの愚痴だね。

――マイナスなことを言わないのは、昔から?

うーん、だんだんそうなった感じかなあ。大人になるにつれて、あえて言わなくてもマイナスの感情を自分の中で処理できるようになったんだと思う。

――さすが、32歳にもなると。

うん、大人だからね。

――あと2つかあ。なんだろう、当てたい。

次、ひとつだけマイナスのことばを入れたよ。

――うーん。なんだろう? わかんないから、教えて(笑)


#6 「キツい」

これを唯一否定的なことばとして持つことにした。ほら、体調不良とか訴えなきゃいけないし……。

――現実的(笑)

でしょ(笑)
あとは、何か頼まれて絶対断らなきゃいけないときとか。「ごめんね」でもいいんだけど。「ちょっとキツい」っていう感じのほうが合ってるかなって。

――「つらい」「しんどい」じゃダメなんだ。

うーん……「しんどい」はなんか関西人っぽいし、「つらい」も意味は近いけど、ちょっとことばとして重たいよね。

――重たい。

「つらいよー」って言うと、「どうした!?」ってならない?

――うん、それはちょっと心配になるね。

なるべく深刻ぶりたくないんだよね。

――これが唯一の否定形っていうことは、最後のひとつは肯定的なことばなんだよね? なんだろうなあ。

えーっと、最後は……ちょっと個性を出してみたつもり。


#7 「おいしい」

食事って、人とのコミュニケーションで超大事じゃん。で、おいしいごはんを食べたときに「おいしいね」って言い合うのとか、ごはんを作ってもらったら「おいしい」って伝えるのとか、必要だと思うんだよね。

――さっき言ってた「プラスのことはことばで伝えたい」っていう話だね。

うん、まずかったら「キツい」でいいし(笑)まあ、それはあんまり伝える場面ないかもしれないけど……。

――「全然大丈夫」でもいけるね。

「ありがとう」「楽しかった」みたいな、プラスの感情を伝えることばのバリエーションがほしいんだよね。

今日、ある人のブログを読んだんだけどさ。「どうせ俺なんて」みたいな愚痴をだらだらと書いていて、最後のほうに「彼女でもいればなあ」って書いてあるのね。

――うん。

それ読んで、「絶対こいつに彼女はできない」って思って。文句と「俺しんどい」をだらだら伝えようとしている人と一緒にいたいと思わないでしょ。

――辛辣(笑)

だから、人にはプラスのことばを伝えたいよねっていう話なんだけど。
まず、「この人を救いたい」と思って誰かを好きにならなくない?やっぱり楽しいことを共有するほうがいいと思うんだよね。

――あー、「この人を救いたい」から始まることもあるにはある気がするけど、だいたい良い結末を迎えないよね。えっと、なんの話だっけ(笑)


##「この人に嫉妬する」ってある?

1)ふむふむ
2)ありがとう
3)ごめんね
4)全然大丈夫
5)楽しかった
6)キツい
7)おいしい

――「ふむふむ」を最初に選ぶのとか、「楽しかった」「おいしい」みたいなポジティブなことばのバリエーションがあるのとか、生き方のスタンスが現れてていいなあと思ったよ。

でもなんか、いい人ぶってる感じしない?

――うん、もっと嫌な面を見せてほしい(笑)最近イラっとしたこととかある?

イラっとしたこと……うーん、イラっとしないな……。自転車通勤だから、通勤ストレスとかもないし。

――昔からそんなに穏やかなの?

や、昔はもっとワガママで勝手だった気がする。今みたいな性格になったのは、大人になってからかなあ。もっというと、今年3月に転職してからかもしれない。

――めっちゃ最近。

業界柄なのかわからないけど、前の仕事(広告制作会社)はいろいろ対等じゃなかったんだよね。クライアントと代理店、代理店と制作会社、営業部と制作部。
「使う」「使われる」でどっかにしわ寄せがいく悪循環がツラいと思うことが多かった。僕は広告自体はすごく好きだし、前の会社の人たちのことも大好きで、今も飲み行ったりしてるんだけどね。

――そういうストレスがなくなったんだ。

うん、今はいろんな人と対等な感じがする。お金をもらうならその対価を返すし、お互いwin-winで相手に対するリスペクトと信頼があるなって。

心を売ってまで仕事しなくてもいいと思っているから。リスペクトのない相手とは一緒にやる必要はないし、合わない人と仕事しても不幸になるだけだから。

――たしかに、相手に軽んじられてやる仕事はキツいよね。

あとは単純に、今は好きなことをやっているから心の余裕ができたというか。自分がやっていることを肯定できるようになった。

自分がやってることに焦りがあると、自分勝手になったり愚痴っぽくなったりするじゃん。

――焦り?

「このままでいいのかな」みたいな。今は好きなことをやっているから、そういう気持ちがまったくないなって思う。

――ああ、なるほど。今の仕事すごく好きなんだね。

あ、でも最近変わったことがあって。昔は嫉妬って全然しなかったんだけど、最近すごくするようになったなあ。

――それはどういうときに?

他の編集者がすごいおもしろい企画をやったりとか、いい記事を出したりすると、悔しいと思うようになった。昔は本当にそういうのなかったんだよね。
たとえば、「この企画自分がやりたかったな」って思うものが世に出たら、見れない。

――見ないんだ。

うん、見たら悔しくなるのがわかってるから、読まない。

――「この人に憧れる、嫉妬する」みたいなのってある?

カツセ(マサヒコ)さん。

――カツセさん!

同じようになりたいかって聞かれたら違うんだけど、業界内でああいうポジションを築いたことがうらやましいなって。仕事内容というか、同世代であの立ち位置にいるっていうのが、純粋にすごいなと思う。

――なるほど、立ち位置。じゃあ、32歳はカツセさんを目指して……。

目指すっていうのは、またちょっと違うかもしれないけど(笑)

――そっか(笑)うん、でも、これからの活躍を楽しみにしています。いろいろ聞けて楽しかった、ありがとう!

こちらこそ、ありがとう!


***

今回「7つのことば」をテーマにしたのは、
ライター・編集者という、いわば“ことばを仕事にする人”が、最後に残したいことばってどんなのだろう。
と、知りたいと思ったからです。

それから、
そこで選ぶことばには、その人が大事にしているものとか個性とか、くっきり現れるんじゃないだろうか。
と思ったからです。
どうでしょうか。

せっかくの「自己紹介」インタビューなので、
彼の人柄がちょっとでも伝わったらうれしいです。

***

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