佐伯啓思 さらば、資本主義!
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佐伯啓思 さらば、資本主義!

月刊日本

現代文明は「全般的危機」に陥った

―― 2016年は世界同時株安、イランとサウジアラビアの国交断絶、そして北朝鮮の水爆実験発表で幕を開けました。シリア紛争やIS問題も解決の兆しを見せておらず、国際社会全体が混乱に陥っています。

佐伯 「資本主義の全般的危機」という言葉がありますが、今日の世界は「現代文明の全般的危機」という様相を呈してきていると思います。現代文明の中心には、西洋の啓蒙主義が切り開いたヒューマニズムやリベラルデモクラシー、個人の自由競争からなる市場経済、そして産業の発展を支える科学技術があります。西洋の啓蒙主義者たちは、これらは普遍的な理念であり、これによって人類は幸福になると考えていました。

 しかし、これらが本当に普遍的理念と言えるのか、極めて疑わしいところがあります。実際、これらの理念が世界に広がれば広がるほど、逆説的に、その限界が顕わになりました。啓蒙主義は植民地主義や帝国主義をもたらし、二度の世界大戦を引き起こしました。ヒューマニズムやリベラルデモクラシーが中国やイスラム社会に根付く様子はなく、むしろ摩擦を生じさせています。これは日本にも当てはまることです。日本は明治時代にこれらの理念を取り入れましたが、多くの混乱を引き起こしてきました。

 これらが普遍的理念であれば、民族や国家を超えて受け入れられるはずです。しかし、現実にはそうはなっていません。ということは、これらは決して普遍的ではないということです。それ故、これらの理念が西洋以外の国々で上手く機能しないのは、ある意味で当然のことなのです。

 問題は、現在のアメリカを見ればわかるように、西洋でもこれらの理念が上手く機能していないことです。例えば、リベラルデモクラシーは結局、多数決によって力の強い者が弱い者を支配する政治に行き着きました。それにより、大衆煽動や迎合をいとわず、とにかく多数派を確保して、自分のやりたいことを押し通すという風潮が強くなってしまいました。アメリカ大統領選の共和党候補であるドナルド・トランプ現象もその典型です。

 また、市場経済は格差を拡大させ、貧困層を生み出しました。しかも、先進国は国内マーケットが飽和状態になったため、新興国のマーケットに依存せざるを得ません。そのため、新興国の経済状況が悪化すれば、同時に先進国の経済状況も悪化するという状況にあります。ヘーゲルの「主と奴」の議論を借りれば、先進国が新興国を支配しているように見えて、実は新興国が先進国を支配しているとさえ言えます。

 さらに、科学技術も行き着くところまで行ってしまい、これ以上の技術革新が人間を幸福にするのかどうか疑わしくなりました。遺伝子工学が一体何を生み出すか不明瞭ですし、原発についても今後の見通しがつきません。少なくとも確かなことは、技術革新をして産業に応用すれば、無条件に人間が幸せになるわけではないということです。これが我々の置かれている現在の状況です。

高まるEU崩壊の可能性

―― そうした中で、サウジアラビアとイランの対立や、米ロの対立など、世界各地でナショナリズムの台頭が見られます。この原因はどこにあるのでしょうか。

佐伯 ナショナリズムには様々なタイプがあり、時代や場所によってその在り方も異なります。現在強くなっているナショナリズムには、自国の歴史・文化への回帰や、宗教的なものへの回帰という側面が強く見られます。

 冷戦終結後、リベラルデモクラシーや市場経済など、西洋の理念が世界各地に広がっていきました。しかし、先程述べたように、これらは決して普遍的な理念ではないため、地域の伝統や文化などと衝突し、それらを次々と破壊していきました。

 地域に根差す伝統や文化は、人間にとって非常に重要なものです。シリアの難民問題など例外はありますが、人間は基本的にある特定の地域の中で一生を送ります。いくらグローバル化と言ったところで、資本や情報は瞬間的に移動しますが、人間はそう簡単には移動できないからです。

 自分たちの暮らす地域に全く新しい原理が入り込み、土着的なものが破壊されれば、誰だって面白くないでしょう。そのため、人々は自分たちの伝統や文化を取り戻そうと考え、その結果、世界各地でナショナリズムが台頭するようになったのです。

 それが極端な形で表れたのがISです。ISはイスラム帝国を復活させ、イスラム社会全体をまとめ上げようとしています。また、中国も漢民族王朝であった明をモデルに、巨大な中華帝国を形成しようとしています。明が海洋型国家だったことを踏まえれば、現在の中国が東南アジアや南沙諸島まで自分たちの勢力圏だと考えるのは不自然ではありません。

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