やさしいズタイの『ここだけコントの話』しずる村上編「キングオブコント」前夜の語らい
やさしいズ・タイが、コント師と共に語り合う対談企画『ここだけのコントの話をしましょう』。第6回は、彼が師と仰ぐ、しずる・村上純を迎えた。
8月13日から準々決勝を迎える『キングオブコント2021』。その大会に照準を合わせたライブが、しずるもゲスト出演するやさしいズ主催ライブ『ごめん、赤坂に忘れ物してきたから取りに行ってくる』(8月9日開催)だ。
本年度も、ファイナリスト経験者のしずる(09、10、12、16年進出)、やさしいズ(18年進出)ともに準々決勝から参加。彼らがどんなコントを披露するのか、待ちに待っている人も多いことだろう。そんな戦いを前に、2人に集まってもらい、今大会の『キングオブコント』の印象から、深いネタの話まで大いに語ってもらった。
楽しくなってきたコント中の“あの演技”
――まずは、しずるさんとやさしいズさんのお互いの印象を聞かせてください。
タイ:両方ネタが書けるというのは、しずるさんの特徴だと思います。(コントには)村上さん、池田さんの色があって、両方面白い。脳が2個あるって、ぶつかりやすいデメリットもあると思うんですけど、羨ましい気持ちが大きいです。あとは芝居がうまいし、見れちゃう。『突入』(「キングオブコント2016」決勝でしずるが披露)っていうコントがあって、暗転の中、1分半もフリに使うんですけど、それをやろうとは思わないっすもん。“あそこまで引っ張れないよな”って。
村上:お笑いゼロだもんね。これは池田も言っていたことがあって、表現は違うかもしれないですけど、この芸歴になって、“フリの演技”が楽しくなってきたんですよ。
――なるほど。
村上:そばで見ていると、“池田はここでベルトを触るんだな”とか、池田は池田で役の雰囲気やあるあるを楽しんでいる。(そんなこともあって)単独ライブでは、2、3分のフリが当たり前になってきています。
――コンビ組みたての頃であれば、できるだけフリを少なくして笑いをとろうとしていたけど、いまは、笑いに到達するまでの道のりが楽しいと。
村上:そうですね。タイが言ってくれたみたいに、フリの演技で、お客さんが没入すればするほど、“緊張と緩和”の緊張になって、緩和までのふり幅が大きくなる。ばかばかしさに向けて、めちゃくちゃ真面目にやるっていうイメージですね。
――タイさんも、“フリ”を楽しんでいるような状況ですか?
タイ:めっちゃ楽しいんですけど、楽しみすぎて、余裕で5、6分できちゃうから難しいんですよ。15分くらいあったらいいいけど、『キングオブコント』だと競技的になるじゃないですか。そこのバランスが難しい。ずっとウケていたいので、5分ネタだったら5分ずっとウケていたいけど、コントの台本を見返したとき、ボケまくりすぎて“品がねーな”って思っちゃいます。
村上:なんか恥ずかしんだよな。ウケるための欲が、台本に浮かび上がってきちゃってるっていうか。
タイ:個人的には、ゆったりとしたフリをするネタの方が好きなんですけどね。
村上:分かる。作品に対して丁寧というかね。人によって、コント感は違うと思うんですけど、僕はけっこう物語重視だったりするんですよ。僕の理想のコントって、どの場面を切り取っても、同じ空気感、同じ2人がやっている世界観で、それが、ボケであろうと、フリであろうと、断面が同じというか……金太郎飴みたいなイメージで。“品がない”っていうのは、競技のために品をなくしているので、悪口ではないというか。
タイ:コントによっては、小ボケくらいがちょうどいいネタもあるじゃないですか。そこで笑いをとろうとしすぎちゃうと、世界観が崩れちゃう。
村上:美しい流れと形があるからね。その美しい流れを5分に収められたら一番の理想。でも、それがなかなか大変なんですよね~。
タイが感じていた身長コンプレックス
――村上さんは、やさしいズさんにどういう印象を持っていますか?
村上:最初に思いついたことで言うと、タイの身長(180センチ)で、やさしいズのコントを成立させているのがすごいなって思います。観ている人って、どうしてもビジュアルで入ってくるんで、細かな設定とか、鋭利的な部分をやっても、無意識に“このコントは合わない”って頭で考えちゃうというか。それこそ、TKOさんが、きめ細やかなコントをやっても“でけぇな”って思っちゃう。佐伯(元輝)がいるからバランスが取れているのかもしれないですけど、やさしいズみたいなコントで、この“デカさ”を感じさせないのはすげーなって。
タイ:身長のことはじつはコンプレックスで、初めて人に言われました。気づいたの、マジ純さんくらいじゃないですか。(コントをやるには)ちょっと、デカいんですよ。“あと、10センチ低かったらな~”ってめっちゃ思います。
村上:やさしいズの『ラーメン屋』のネタがあるんですけど、僕、あのネタめっちゃ好きなんですよ。あれ、芸人は笑うんですけど、お客さんの笑いの量の方が少ないと思う。なぜかと言うと、デカいからあのキャラが怖く見えちゃう。めっちゃ面白いこと言ってんのに、たぶん入ってきてない。
タイ:確かに。(空気階段)もぐらとかはめっちゃ笑ってくれるんですよ。かたまりに聞いたら「もぐらって、あんまり人のネタで笑わないんですよ。だいぶ好きっすね」って。
村上:単独ライブを観に行ったときに、一番好きなネタだったなぁ。俺の中では、単独に来るお客さんにも伝わりきってなかったし、もっとウケていいと思った。
タイ:ほかのコントの方がウケてはいたんですけど、(『ラーメン屋』のネタは)アンケートの返りが一番良かったんですよね。
村上:偉そうですけど、“俺が面白いって思っている部分が、お客さんに伝わっていないんじゃないか”って思うことがあるんですよ。それの象徴的なケースだな。
タイ:僕らのコントでも、稀有なパターンというか。あのネタ、芸人の方がめちゃくちゃ面白がってくれているんですよね。
村上:ヤンキーキャラみたいなものを一時期やっていたけど、その後にあれを持ってきたから、“うぁ! また、あれを超えた次のキャラを持ってきたんだ”って思いました。すごいなって。
タイ:僕の中では、(漫画『ワンピース』の主人公)ルフィのギアセカンドに入ったイメージはあります。
『キングオブコント』準々決勝メンバー決定
――(インタビュー当日)『キングオブコント』準々決勝進出メンバー130組が発表されました。
タイ:(表を見ながら)一緒にライブやっている人たちが受かって良かったなって思います。
村上:同期なのでサルゴリラは気になりますね。
タイ:サルゴリラさんマジであるなー。
村上:去年くらいから脂がてかりだしたよね。サルゴリラも『キングオブコント』に向けてやっていますけど、やっぱり目的に向かっている人たちって、競技に合っていると思うんですよ。『キングオブコント』側も、なんとなく大会に出て、“結果出たらいいよね”っていう人よりも、サルゴリラみたいな人たちを待っている。オリンピックに思い出受験している人なんていないじゃないですか。
タイ:気になる人めっちゃいますね。金の国もめっちゃ好きだし、きしたかのもずっと好きで。あとは、サスケゾノ。小森園(ひろし)さんと佐助さんの即席ユニットで、この前コント見たんですけど、小森園さん、表情と所作が面白ウマすぎて。
村上:あの人、面白いもんねー。即席ユニットがいることで、どう考えても分厚くはなっていますよね。
タイ:ザ・プラン9さんもいるじゃん!
村上:プラン9さん。2分をあの人数でやっているんでしょ。
タイ:2分を6人ってマジすごくないですか?
村上:やっぱさすがだよね。久馬さんが、何十年といろんな人数のネタを書いてきて、いろんなテーマの脚本をやっているから、編み出せるんでしょうね。
タイ:オフローズとかサンジェルマンとか、神保町(よしもと漫才劇場)の後輩もきているし……。ここから決勝経験メンバーが参加して、150~60 組くらいになるのかな?
村上:そう考えたら、戦い方どうこうって話にはならなそうかもなー。ネタの選び方とか楽しくなってくるかもしれないですね。有象無象が過ぎてくるので、計算通りに決勝行く人もいれば、計算通りいかない人もいるというか。観ているお客さんも、“このあと、おいでやすこがだ”とか“チョコンヌだ”とか、情報が多すぎるので、今までとは見方が違ってくると思います。初年度みたいなことになりそうですね……ありがたい機会です。
広い視野を持って大会に挑む!
――大会は目の前ですが、現在はどういった心境でしょうか?
村上:この間、ラバーガールさんとお話をさせてもらったときにもそんな話になったんですけど、まず芸歴制限がないし、13回も大会に出ているとなると、若手の子たちより、痛点がなくなってくるんです(笑)。うまくいった・いっていないを経験しまくって、大会を捉えているようで、捉えていないから、“『キングオブコント』だ!”って頭にならないというか。もちろん獲りにはいくんですけどね。
タイ:2年前くらいまでは、毎日ワァーってなっていて、“これで人生変えるんだ”って、ネタのことしか考えていなかったんですけど、いい意味でも悪い意味でも、決勝行ったくらいでは、あまり人生が変わらなかったので、より優勝したいとも思ったし、“『キングオブコント』だけがコントじゃないんだな”っていうスタンスになりました。ユニットコントの台本を書いたりしていたら、ほかの仕事も入ってくるようになって……。(大会以外にも)別の仕事も並行してやっているので、いい意味でとらわれすぎないようになったのかもしれないです。
村上:そうね。確かに1年間『キングオブコント』のことを考えているってことはないんで。
タイ:その先の準備もしている感じです。優勝したらやりたいことがいっぱいあるから、そのために『キングオブコント』を獲るっていう“通過点”になりました。ゴールではなくなりましたね。
村上:獲れるときは獲れるんだろうなっていう思いもあるんですよ。
タイ:(笑)。
村上:正直な話、準々決勝メンバーの中で、一抜けしたライブがあったり、その日、優勝は決めてないけど、(笑いの量などを加味して)1位になったライブがあったりするわけじゃん。ということは、タイミング、ネタの感じ、順番で、獲れるときは獲れるんだろうと。優勝したら、コントの説得力や日本で一番という称号が与えられるわけだから、“絶対に今後の仕事の追い風になるよな”とは思います。
タイ:2018年に決勝で負けたときに、マヂカルラブリーさんもいたんですけど、野田(クリスタル)さんが「運ゲー(ム)だから」って言っていましたね。それから、いい意味でガツガツしすぎなくなったし、視野が広くなりましたね。
村上:運ゲーに参加できるための面白さが必要で、負けたことで“実力ある・ない”って判断しちゃうと、身が持たないというか。勝っても運、負けても運ってやっていかないと無理なんじゃないですかね。
――最後にライブ『ごめん、赤坂に忘れ物してきたから取りに行ってくる』が近づいています。意気込みをお願いします。
タイ:準々決勝の4日前で配信も入れてないんで、参加芸人のみなさん“持ってきて調整してください”って感じです(笑)。
村上:ここのお客さんは『キングオブコント』のお客さんに少なからず重なってくる要素の人たちが多いと思うので、1秒、1秒空気を噛みしめていきたいです。
しずる
NSC東京校9期生。池田一真と村上純のコンビ。2003年結成。
やさしいズ
東京NSC16期生。佐伯元輝とタイの同期生コンビ。2011年結成。
■ ライブINFO
『ごめん、赤坂に忘れ物してきたから取りに行ってくる』
日程:2021年8月9日(月)15:45開場 16:00開演
会場:ヨシモト∞ホール
出演者:やさしいズ/しずる/ジェラードン/大自然
■撮影協力
and people udagawa(アンドピープル ウダガワ)
住所:〒150-0042 東京都渋谷区宇田川10-2 新東京ビル
■月刊芸人 やさしいズタイの『ここだけのコントの話をしましょう』
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企画/やさしいズ・タイ
ライター/浜瀬将樹 撮影/越川麻希(CUBISM)
編集/鈴本理沙、小林亜美
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