見出し画像

〜The origin of Laugh〜 feat.Dr.ハインリッヒ

笑いを追求する芸人さんの起源て何だろう。ふとそんなことを思い立って聞いてみました。今回はDr.ハインリッヒの笑いの起源。

画像1

笑いの原点

幸:二人ともダウンタウンさんですね。

彩:そうですね。最初は「4時ですよ~だ」を見て、めっちゃ笑ってました。普通に吉本新喜劇や漫才番組を見てはいましたけど、ダントツで面白いと思ったのは、ダウンタウンさんでしたね。「夢で逢えたら」も放送がスタートした頃でしたけど、まだ子どもだったので11時からの放送は完全に見られないんですよ、眠くなって。でも、たまに最後まで見ることができるときは大喜びしてましたね。

幸:あと、もうひとつ笑いの原点であるのが少女漫画「りぼん」で活躍されてた「こいつら100%伝説」や「ルナティック雑技団」を描いてはった漫画家の岡田あーみんさん。めちゃくちゃ面白かったんですよ。で、今もネタ作りの時に参考にしてるのが「お父さんは心配性」って作品の中の「愛と死をみつめて」の巻で、本当に面白くて。

彩:私らにとっては、コメディの基本であり、シュールの基本なんです。岡田あーみんさんを読みたいがために「りぼん」を買ってましたからねぇ。

幸:私たちのネタが好きな方は、ぜひ「お父さんは心配性」を探して読んでいただいて、共感してほしいです。

画像2

子どもの頃

幸:小さい頃はそれほど今と変わらないですね。

彩:そうですね。

幸:あんまり世の中と馴染めてなかったというか。

彩:そうやな。活発でもなかったですし。

幸:小学校1年の時に、教室でジーッと座ってる意味がよくわからなくて、フラッと出て行ってたりしてたんですよ。“みんな、なんでジッとしてるんやろ?”って。でもある時、フラッと出て行ったらあかんのやって気づいてやめました(笑)。それまでは授業中、教室から外に出て行って、校内にあった池に鯉がいたんですけど、それを見に行ってたりしてましたから。

画像3

彩:私はジッとしてました(笑)。幸さんの1年生の時の先生がいい感じやったんやね。

幸:
ほっといてくれる人やったんです。だから低学年の時は健やかに暮らしてましたけど、亀岡に引っ越して、転校してから、塞ぎ込んだというか。合わなさ過ぎて……。

彩:私もちょっと合わなかったですね。周波数が合わない、面白くない。笑いのセンスが亀岡に行って、ガクンって下がって、面白ことを言い合える友だちができず、感覚が完全に合わないって二人とも思ってました。ただ、私たちがこっそり言うことに爆笑してくれてた子はいたのは、ちょっと救いやったかな。

幸:我々の小学校3年生からの古い友だちがいるんですけど、Dr.ハインリッヒの漫才を初めて見てくれた時に「小学校からの二人の会話そのままやで」って言ってくれて……。

彩:「全然変わってないねぇ」とも言うてくれたってことは、昔から“そういう”子どもやったんやと思います。

画像4

彩:中学も亀岡やったんですけど一番面白くなかった。高校の方がまだ楽でしたね。

幸:スポーツ優遇中学校というか、体育の成績を底上げしたかったのかもしれないですけど、体育のカリキュラムがえらい過酷やって。
我々、今で身長が145cmなんですけど、中学生の時はもう少し小さかったんですよ。それなのにできるはずないじゃないかっていうくらいの量を、昔の教育って、そういう配慮もあんまりなかったじゃないですか。それでさせられて……だから生きてるだけでしんどいというか。

彩:家が山の上にあって、学校まで徒歩で30分くらいあるんですよ。だから登校した時点で疲れてるんですよ。それで学校では過酷なカリキュラムを容赦なくさせられて、帰りは山の上やから登っていかなあかんていうのを毎日やってたら、常にしんどい状態で、学校では人と喋るというのをまずしてなかったです。

幸:朝も我々低血圧で頭も体も起きてないから話せへんし。

彩:ほんと話してなかったね。ずっとしんどいって思って過ごしてたので。でも、私、吹奏楽部に入っていて、そこでホルンを吹くことだけが楽しみでしたね。他は何もかもが嫌いでした(笑)。
なぜホルンなのかは、最初、打楽器をしたかったんですけど、希望者が結構いたから、くじ引きしたんです。それでくじ引きがハズレで、余ってたんがホルンとピッコロでした。

ピッコロを選ばなかったのは、ホルンのルックスにやられて(笑)。それと、一年上の先輩がこれを吹いてるから、自分も一年後、吹けるってことかぁって思って。そしたら案外一年を待たずに吹けました。
高校でもホルンをやってたんですけど、上には上がおるやろなって思いながら吹奏楽部に入部したら、私が一番上手かったんです。それで音大に行こうと思いました。

幸:私は中学の時、美術部でした。絵が上手くなりたいし、油絵とかそういう授業ではやらないことを学びたくて入ったんですが、顧問の先生が不在やったんですよ。で、もともと絵が上手い人が、各々勝手に絵を描いてるんです。で、なんやこれ?って思ってあんまり行かなくなり、そのまま幽霊部員からの帰宅部になりました。

幸:大学は割と楽しく過ごしてましたね。私は京都の大谷大学に通ってたんですけど、大谷短大から編入したんです。それで近代文学を専攻してて3回、4回に上がったタイミングで社会学をやったんですけど、割と宗教学とか経済学、哲学の授業を手厚く取っていたし、興味のあることやったんで、楽しかったですね。人付き合いもノーストレスな感じやったし、私的に楽な4年間でした。

彩:私は逆に音大が全然楽しくなくて……。もうこれは人ですね。人が合わんなという感じでした。それとホルンを吹くことにスランプみたいになって、高い音を出すのが難しい楽器なんですけど、私は割とそれまで得意やったんですね。でもある日、その音の出し方がわからんようになって、2年の時かな、高い音も低い音も出えへんようになって。とにかく人もあんま好きじゃないし、ホルンも吹けへんようになって、ただただ苦痛でした。ただ音楽を専門的に学びたいことがあったから我慢して通っていました。

画像5

お笑いを目指すこと

幸:実は、小学生の頃からお笑い芸人になりたいと思ってて、でも思ってるわりには教室で目立ちたいとか、ボケたいとか思わない子やったんです。教室で目立つことと、プロのお笑い芸人になることは別物やと思ってたんですよ。

彩:むしろ教室で目立ってる人はおもんないと思ってましたね。プロのお笑い芸人になる人はそっち側じゃないって(笑)。我々の世代にはそういう思いが色濃くありますね。目立ってるやつより、目立ってないやつのほうが絶対面白いって。だから黙ってましたね。子どもの頃から私もお笑い芸人になりたいと思ってましたけど、絶対誰にも言ってなかったですね。言ったところで通じるわけないと。どうせやめときって言われるだけやろうし。言いたくもなかったですね。本当の夢やったので。幸さんにも話してなかったですから。

幸:こっそり思ってたみたいです。お互いに将来、お笑い芸人になろうねなんて一回も言うたことないですから。そういうことを話するの、ちょっと嫌やったんですよ。だから各々が一人でやるなり、相方見つけるなりしてって最初の頃は思ってました。

画像6

NSCへ。そこでの思い出。

彩:高校出てすぐにNSCに入るのはおかしいと思って。絶対にナメられるやろうと。二十歳は越えときたいって思ってました。幸さんもそうですが、大学というところには絶対行っときたかったんです。それとタバコも吸えるようになっとこうと(笑)。男を威嚇してやろうという感覚がありましたね。

幸:
高校出たばかりの視野が狭いままの状態でNSCへ行くのは嫌だなと思ってましたから。

幸:私が大学で社会学をやってた時にジェンダー論を専門的にやってたんですよ。だから元々知識として、この世は理不尽な社会慣習や法律なんかがいっぱいあるのも知ってたし、10代の時点で若い女の子はナメられる存在やなって自分の体感としてもあったので、NSCという場所に入る前に確か、ナメられへん作戦というか防御対策を考えてましたね。だから大学を卒業して、一年置いて23歳の時に入りました。

彩:で、NSCに入ってみて、まあ思った通り、そんなもんだろうって感じでした(笑)。

画像7

幸:もちろん楽しくはなかったですね(笑)。で、女性やから相方が作りやすいように女子クラスってとこに集められたんですけど、一人、ダントツに面白い人がいて、今は吉本新喜劇にいます、いがわゆり蚊で、この人だけ売れるやろうなって思ってました。

彩:
他は遊びに来てるような女の子ですよね。芸人が好きで……。

幸:めっちゃ仲のいい子が一人いたんですよ。この子ぽちゃっとしたいい子やなと思ってて、全然ネタやらへんやんって思いながら、入学して10ヶ月くらい経った頃に初めてネタをやったんですけどエロネタで、これが今、福岡で頑張ってるツジカオルコなんですけど。当時はベネズエラ人のモニカって名乗ってて。普段、一緒にいても全然エロいことなんて微塵も出さなかったのでネタを見た時は“なんじゃこいつ!”って衝撃を受けましたね(笑)。

話は変わりますけど、NSCでは我々が23歳、周りの男が18歳とかが多いから、何気にオバハンいじりとかしてきよるわけですよ。面倒くせーなと。こちらはジェンダー論とか叩き込んでますから、予想されたことやけど、本当にダルかったです。

彩:うん。まぁ言うてくるやろなって思ってましたけど、実際に言われるとすごくダルいなとしみじみ感じてました。いなしもしなかった、目力で殺すみたいな(笑)。お前のやってることは面白ないことなんやぞって。

幸:周りをウニのトゲみたいな雰囲気を出してました。目に見えないナイフを持って振り回してましたね(笑)。

彩:笑ってごまかすこともしたくなかったです。そういう人に向かって。

画像8

姉妹で組む。

幸:最初は双子でコンビを組むのはすごい嫌でしたけど、NSCに入った時点では、これは組む相手おらんなと思いましたね。

彩:合う相手がおらんので、これはもう幸さんしかない、他人とできるわけがないと思いました。

幸:選択一択なんやなと(笑)。それで覚悟決めて、初めてネタ見せをやった時にボカーンってウケて、あ、そう言うことかと思って、現在に至ってます。

画像9

双子として。

幸:それを出してしまうと、双子ネタをやらなきゃいけなくなるでしょう。我々は双子ネタが作れないので、あ、作りたくないじゃなくて、作れないんですよ。他の双子さんたちのコンビみたいな感じなことが全く思い浮かばなくて、そっちのネタは作られへんけど、今やってるようなネタは作れるから、そっちで面白く伝えたいなと。そしたら、双子って言わないようになって、言ってしまうと、我々にできない仕事が来てしまうので(笑)。

でも最近は寄席とかに出してもらう時は頭にご挨拶程度でちょこっと言うようにして、それは声が一緒で、「アレ!?」っていう感じでお客さんがネタに集中してもらえなくてスベるってことがすごくバカらしくなって。だから自己紹介の部分ではさらっと言うようになりました。

彩:一見さんの多い場所では、必ず言うことで、雰囲気がほぐれると言うか変わるので。

幸:まぁネタの中身は本来のものですけど(笑)。

衣装について。

幸:黒のスーツを着てるのはまずは着たいからと、かっこいいからっていうのがあったりと意味は色々あるんですけど……。

彩:それと確かにあの衣装で個性というか双子感を消してる部分はあります。中途半端な女感は出したくないので、ジェンダーレスというか。我々の表現している台本もそんな感じなので、その世界に入ってもらうためにってところですかね。

画像10

コンビとして。

幸:Dr.ハインリッヒは、食っていくために時間がかかったコンビなんですけど、今年からなんですが、正直、時代がついてきた部分はあるなと思います。我々の笑いの根幹は変わってないのに……。

去年あたりから、コロナ禍にも関わらず、仕事をいただけたり、それによって収入が安定してきたのは「M-1グランプリ」の配信のおかげもあるんですが、前までなかった、一部でしか盛り上がってなかったアイテムが、今は多くなってきたじゃないですか。YouTube然り、Tiktok然り、他にもいろいろありますが。これまでの土の時代と呼ばれていた頃から、今年に入って風の時代となった今、そういった武器が我々に必要やったんかなと思ってますね。Dr.ハインリッヒを成立させるために時代が変わることが必要やったんやなと。

そういう部分では配信って我々の笑いを表現するツールとして合ってたと思います。Dr.ハインリッヒチャンネルというYouTubeチャンネルのために「名作公開収録ライブ」っていうのをやってたりするんですけど、チケットもおかげさまで毎回売れて、手応えもいいのでこういう形で発信するのもありだなと。面白いと思っているネタを隠し持っていたり出し惜しみしててもしょうがないのでこういう形で出していけるといいし、逆に寄席でやりたいものや生で見たい人のために配信では出さないネタも作りつつうまくコンビとしてやっていきたいですね。

画像11

思い出の場所

幸:OCAT4階の講堂と「イタリアン・トマト Cafe Jr.」です。
OCATではインディーズライブをやってたんですけど、そこで披露していたネタが今ものすごく役に立っていますね。2018年くらいから「M-1グランプリ」でやってるネタって2010年、2011年のネタやったりするんですよ。

彩:一回やってみて、それ以来やってなかったのを復刻という感じで改めてやってみたら、当時はウケなかったのに、今の時代になってようやくウケて、やっぱりこれは面白いって賞レースでもやれるなって。

幸:「イタリアン・トマト Cafe Jr.」でネタ作りをして、まさにそこで生まれたネタが、今、喜んでいただいてますね。OCATでのライブに出る前にカフェでネタを作って出るというサイクルでした。去年の「M-1グランプリ」の準々決勝でやった「独特の舞」ってネタがあるんですけど、それはまさに「イタリアン・トマト Cafe Jr.」でできました。

画像13

行きつけの店

幸:地下鉄難波駅13番出口と直結してる難波御堂筋ビルディングの2階にある「カフェ・ド・ラぺ」です。以前から気になっていたんですけど、グランドピアノがある催し物をするとこかなと思っていたんです。で、ある時フッと入ってみたんですよ。そしたら普通の喫茶店で、しかもこのご時世やのに、全席喫煙可能やったんです。私ら喫煙者なんで、なんでもっと早くここに来なかったんやろうって。

彩:本当、喫煙者にとったらオアシスみたいな喫茶店で、めっちゃ嬉しかったです。トイレも綺麗ですし。

幸:食べ物も美味しいんです。

画像12

ネタ合わせの場所

幸:よしもと漫才劇場女性楽屋です。昔は家やったんですけど、家族がいますんで、やっぱり集中できず、しかも布団があるので、すぐに横になってしまうので、楽屋でする方が集中します。

彩:それに近所の手前、大きな声を出せないし、その点、楽屋は奇声を上げても文句言われないですし。

幸:夜の劇場は、他の芸人さんもいて、みんなネタを考えたり、打ち合わせしたりしてるし、その気配がなんだか好きだったりします。だから今では家ではネタのことは全くやらなくなりました。

画像14

画像15

画像16

【関連記事】Dr.ハインリッヒ・彩 タロットカード愛を語る

■Dr.ハインリッヒ プロフィール
山内幸山内彩のコンビ。2004年結成。
幸の趣味は美術館賞。彩の趣味はホルン。

Dr.ハインリッヒINFO


====
取材・構成/仲谷暢之(アラスカ社)
写真/渡邉一生(SLOT PHOTOGRAPHIC)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?