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隣人「コントでも漫才でも、ボケでもツッコミでも、笑いの世界もダイバーシティでいいと思うんです」

関西若手漫才師たちの登竜門でもある『ytv漫才新人賞決定戦』で2021年、見事優勝したのが今年10年目を迎える隣人。
ツッコミとボケが定まらないコンビとして、そしてネタもまた漫才とコントが行き来する自由さと新しさを兼ね備えている。
そんな彼らに、優勝した後のこと、そしてさらにこれからを聞いた。

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——先ずは『第10回ytv漫才新人賞決定戦』優勝おめでとうございます。もう何回も聞かれたとは思いますが、優勝に輝いた感想を。

橋本市民球場(※以下・橋本):ほんまに優勝できるとは思ってなかったんで素直に嬉しかったです。しかもこれまでテレビには1回くらいしか出たことなかったんで、決定戦への選考会の段階から、テレビの放送があるってことだったので、それも併せて嬉しかったですね。それにせっかくテレビ出られんねやから、インパクトのあるネタをやった方がいいと、スカイダイビングのネタをやって、それが結果、功を奏して優勝まで引っ張ってくれた感があったと思います。

中村遊直(※以下・中村):僕も優勝できるとはマジで思っていなくて、勝手に、勝ち進んだマユリカさんか、コウテイだと思っていたので、「マジかぁ」ってなってました。

——決定戦当日を振り返ってみて、どうでしたか?

橋本:相方、めっちゃ緊張してましたね。

中村:はい。めちゃくちゃ緊張してました。普段から緊張しいな方なんですけど、生放送が初めてやったんで、ミスしたら永遠に残ってしまうのは嫌やなぁって思ったらすごい緊張して……。スカイダイビングのネタで空飛んでんのにネタ飛んだら変な感じにいじられそうやし、それだけは絶対あかんって思えば思うほど緊張してました(笑)。

橋本:実際、風に揺れてなかったもんなぁ……。決定戦に出る1ヶ月前からよしもと漫才劇場に毎週土日出させていただいたりして、オチ変えたり、手直ししたりしながらやって、体に染み込ませてたはずなんですけどね(笑)。

中村:コンビ組んで3年目にできたネタなんで、何百回もやってるのに(笑)。やっぱり生放送、豪華なセット、審査員さんが前にいる、これは煽られました(笑)。帰宅して、録画してたの見直したんですけど、マジで0点でした。現場ではやりきったと思ってたのに……でも2本目のネタは自分で言うのもなんですけど、パフォーマンス的には100点やったかなと。

橋本:僕も2本目はノッてましたね、優勝できるかも知れないという気持ちがありました。最終決戦で、覚醒まではいかないけれど、いつもとは違う言い方とか直前に思いついてそれを言える余裕もあって。

中村:いつもとは違うイントネーションで喋ってきたので、あ、これは見てはる人に伝えやすくしてるなって思った。

橋本:稽古の時ではなかなか思いつかない変更やったんで。「ここでやらないと」って、言ってみました。なんせ今、確実に俺らのことみてくれてると言う喜びもあって、完全に覚醒してる状態でしたから(笑)。審査員のオール巨人師匠が、実は選考会の時からずっと褒めてくださってたんです。しゃべくりでもないのに……。だからこそ優勝した時の総評もしっかり褒めてくださって、それはもう、凄く励みになりました。

中村:自信にも繋がりましたね、何してもいいんやって。早くなんばグランド花月でもネタをやらせてもらいたいって思いました。

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——コントでもあり漫才でもある、そのスタイルがアリだなと思ったのは?

橋本:去年の『M-1グランプリ』の2回戦で、初めてスカイダイビングのネタをやったんです。前日まで別のネタをやろうと決めてたんですけど、「YouTubeの収録が入りますよ」って伝えられて、映像として残るんやったら、2回戦でやろうと思ってたネタをやってもきっと印象が薄いなぁと。最悪負けてもYouTubeで残ったネタでハネる方が、いいなって話をしまして、どうしよう、どうしようってことでコントだったスカイダイビングのネタを漫才に落とし込んで……。

中村:先程も言いましたけど、もともとコンビを組んで3年目に作ったネタで。リュックを背負って、机を置いてそこに寝転んだりしてた、今思えば荒いコントでした(笑)。

橋本:それを削って、思い切って床で寝たらいいんちゃう?っていうのがはじまりで……。まだまだスタイルは確立してないですけどね(笑)。

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——優勝して変化したことはありますか?

橋本:優勝後すぐに朝のテレビ番組にも出させてもらった時、早速スカイダイビングのネタをやらしてもらったんですけど、場当たりした時にカメラマンさんがカメラの位置をめっちゃ低くしてたのは、「あ、ちゃんとネタ理解してくれてはる」って、見てて面白かったし嬉しかったですね。なんか特別感あって(笑)。

中村:それまで挨拶しかしたことない先輩方、和牛さんとか、銀シャリさんとかに挨拶行った時に「おめでとう」って言うてくれはったり。ちゃんと見てくれてはるし、覚えてくれてはったんやと喜びましたね。
あと、街ですれ違った、多分NSCの生徒か卒業した芸人やろなって子たちに挨拶されました。劇場付近では時々あるんですけど、だいぶ離れた堀江付近であって。僕もきっとそうしてたと思うので、そう言う立場になったのかぁって感慨深かったですね。
コンビで言うたら、相方の方が絶対ルックス的にインパクトあるし、なんなら相方しか見てないと思うんですけどね。

橋本:そう言いますけど僕はまったく顔さしてないです。まぁ自分はないです(笑)。SNSのフォロワーが増えたくらいですね。

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——賞金100万円ですが……。

橋本:あ、まだ振り込まれてないです。来月くらいちゃいますかね。何に使うかって考えたんですけど、マジなこと言うたら多少借金がございまして、それがあれば綺麗な体になれるなと(笑)。

中村:僕は貯金があと30万くらいなんですけど、そのボーダーラインをいったり来たりしないがら日々過ごしてまして、正直、50万円ないと不安な人間なんです。だからそれが一気に増えると思うとワクワクしますね。貯金が好きなんで(笑)。とりあえず50万円超えたら母親にあげようかなと思ってます。

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——優勝してご家族の反応は?

中村:優勝してすぐに電話したりしたらきっと泣いちゃいそうなんで、あえてしなかったんです。で、3日経って連絡しました(笑)。そしたらお互い興奮から覚めてたんで冷静に話せました。「これでいけるわ、ありがとう」って。
言うても、33歳のおっさんなんで、今回の優勝で、これまで契約社員というか準社員みたいなスタンスやったんで、やっと正規に就職して働けるようになったなって感じですね。
せや、姉がいるんですけど、しばらく旦那さんと仲が悪かったのが僕らの優勝でハイタッチして喜んでくれたみたいで仲が良くなったと。優勝効果がこんなとこに波及して良かったです(笑)。

橋本:僕はすぐに電話はしました。素直に喜んでくれてましたね。

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——この優勝を機にどういうスタンスで隣人はやっていきたいですか? それとこんなことをしたいと考えてることはありますか?

中村:コントはやっていきたいです。コントを作って、無理そうな設定やなっていうのを漫才に持っていくとは思います。漫才は口で説明すれば成立するんで、コントって小道具や場所移動とかどっか限界があるんで、まず作業としてコントを作って、それを漫才におろしていくことをしていくためにも基本、コントをやっていきたいと思ってます。
『ytv漫才新人賞決定戦』でボケとツッコミが定まらないコンビって紹介されてたんですけど、笑いのスタンスもコントと漫才を行き来する感じでいいんじゃないかなと。面白かったらええやんってことで。

橋本:ツッコミもはっきり決めてしまうのも逆にブレーキになってしまうんじゃないかなって思うのでそこもダイバーシティな感じで。とはいえ、セルフプロデュースがあまりにも下手な2人な気はするので、今「隣人のおとなりチャンネル」っていうYouTubeをやってまして、先輩と話したりする時に“素”が見えへんていう意見が多かったので、私生活っぽいことをアップしていけば、そこは改善されるやろなと。そういった、自分たちの“コント”以外のプロモーションをSNSでしていけたらなと思ってます。

中村:いろんな地方にネタをしに行きたい。47都道府県くまなく回って、自分たちのネタがウケるんかを試したいです。

橋本:福岡吉本は行きたいですね〜。ぜひ呼んでいただきたいです!

——これからまたいろんな賞レースが始まりますが、いかがですか?

橋本:もちろん決勝が目標ですけど、『キング・オブ・コント』も『M-1グランプリ』、どっちも準決勝にも行ったことないので、行ってその景色とやらを見たいですね。

中村:準決勝に行ったコンビを見てると仕上げ方がわかるんで、特に同じよしもと漫才劇場に出てるタイムキーパーがえらい仕上がってて……2〜3年のキャリアで準決勝という景色を見て、「これからどう化けるねん!」と、ドキドキしてます。

橋本:準決勝に行ったら少なくとも決勝という景色も少しは見えるので頑張りたい。とはいえ、実はネタの本数がまだ少ないのでそろそろちゃんとしたものを作らないとって焦ってるところです。

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■隣人プロフィール
中村 遊直(なかむらしょーとらいなー)橋本市民球場(はしもとしみんきゅうじょう)のコンビ。
中村の趣味は早食い、知らない街を練り歩く。
橋本の趣味は草野球、サイクリング、絵画、古着屋巡り、ショート落語。
2021年「第10回 ytv漫才新人賞決定戦」優勝

隣人INFO


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ライター/仲谷暢之(アラスカ社)
撮影/矢橋恵一


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