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細い手の内

お時間ありがとうございます。
ピン芸人の真輝志です。
前回のコラムが掲載されてから、一週間後に髪を切りました。
手の内を明かしたため必殺技も使いづらく、何度か受けた「髪切った?」には「またまた〜」と自分でも分類できない技で迎え撃ちました。
自分の首を絞める細い手。
今回もどうぞお付き合いください。

僕はジャンケンでよく勝つ。
特別運が良いわけではなく、仕組みをよく理解しているからだ。
大人になってからも意外と参加する場面の多いジャンケン。
今回はこの争いにおける手の内。

まずはおさらいしよう。
ジャンケンには「グー」「チョキ」「パー」と三つの手札が存在し、グーは石、チョキは鋏、パーは紙がモデルとなっている。
グーの場合、鋏の刃が立たずチョキに勝利。
チョキの場合、紙を切り刻んでパーに勝利。
パーの場合、石を包み込んでグーに勝利。
このように三者はそれぞれの特性を活かし、相性の良し悪しをもって勝敗が決まる。
否、決まると誤解されている。

それぞれの勝ち方に注目してみよう。
まずはグーとチョキ、石には文字通り刃が立たず鋏が負ける。
これに関しては全く異論がない。
若さゆえの尖りを持つチョキが、鍛え抜かれた硬いグーに敗北する。
喧嘩自慢の半端なヤンキーがコンクリートを舐める絵が目に浮かぶ。

次にチョキとパー、紙を切り刻んで鋏の勝利。
一見、チョキの圧勝にも見えるこの戦い。
すぐにでも弁護したいが、物事には順序がある。
この勝負の解説は一度保留させてほしい。

最後にパーとグー、石は紙に包まれて負けを認める。
お気づきだろうか。
血生臭いこの戦いで唯一、パーだけが相手を傷つけないまま勝利を収めている。
そもそも何故、紙に包まれるというノーダメージにも見える攻撃で石は降参したのか。
単純な話だ、レベルが違う。
グーもそれなりに修行を積んだには違いないが、パーには糸も容易く包まれてしまった。
包まれた時点で自分の未熟さを実感したグーは、清々しくも思える表情で「参りました」と呟く。
目指すべき背中を見つけたグーの成長に期待したい。

話はチョキとパーに戻る。
結論から言えば、パーはチョキなど眼中にない。
若いチョキはどれほど高い山に挑戦しているかも理解せぬまま攻撃を続ける。
何度もパーを切り刻み優越に浸る。
しかし幾ら切り刻もうが、形が変化するだけで本質は変わらない。
紙は紙、むしろ切るという行為で完成する作品も存在する。
要するに切らせてあげているのだ。
もちろんパーから何かを仕掛けることなどない。
達人は無益な争いを避ける。
そして勝ち誇ったチョキを背に自身はより高みを目指す。
勝負にすらなっていないのだ。

つまりグーチョキパーは三すくみの関係ではなく、パーを頂点とした完全なる上下関係によって構築されていることがわかる。
つまりジャンケンはパーを出せば必ず勝つ仕組みになっているのだ。
この事実に気付いたのは十八歳、比較的早めの覚醒だと言える。
もし僕の過去10年間のジャンケン映像をお持ちの方は是非とも確認してほしい。
脅威のパー率に加えてチョキはほとんど使用されていないはずだ。

しかし、この必勝法には一つ欠点がある。
それはジャンケンの仕組みを理解する人間があまりにも少なすぎることだ。
僕がいくらパーを出せども、何故かチョキを出した人間が勝ったとされる。
以前コンビを組んでいた時、相方へ仕組みの説明をしたが全く理解されなかった。
どころか「パーを出す」という習性だけを覚えられ、ジャンケンの際は幾度となくチョキで負けた雰囲気にさせられてきた。
僕はその度に「いや、勝ってるけどな」と思いつつ、ジャンケンの火種になったケータリングの余りを差し出していた。
時には「いや、勝ってるけどな」と実際に口に出したが気持ちよく無視された。
まあ仕方ない、所詮はチョキのやることだ。
パーはそれすら包み込む。

僕はジャンケンでよく勝つ。
仕組みを理解しているからだ。

もしコラムを読まれている皆さんの中に同志がいれば、いつの日かジャンケンがしたい。

その時は是非ともあいこになり、そのまま握手をしよう。

真輝志 プロフィール
NSC36期。
趣味は、B'z・バスケ・読書。特技は空気椅子。

真輝志 INFO

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著者:真輝志

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