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【ピコ】

最初に飼った白文鳥が死んでから数ヶ月が経ち、ようやく家族の心に落ち着きが戻ってきた頃、我が家には2羽目の小鳥がやってきた。

それは、ペットショップで娘が選んだ〈セキセイインコ〉だった。

身体全体が淡い緑色で、所々に黄色が混じっている。羽は黒っぽい斑点で覆われていた。

娘が《ピコ》と名付けた。

雛から育てたのでよく懐いて〈手乗りインコ〉になった。性格は活発だ。オスなのでよく喋った。

同じ小鳥だと思っていたのだが、セキセイインコは文鳥のように手の中には決して入らない。

身体が柔らかくてクネクネ動く様は、なにか鳥というよりも動物を連想させるものがあって、見ていても飽きることがなかった。

・・・・・・・

ピコがウチに来てから1年も経った頃である。

ケージから出して部屋で遊ばせていた時、何の気なしに家内が玄関のドアを少し開けた時だった。その瞬間、ドアの隙間目掛けて矢のように飛んできたピコは、アッという間に外に出て行ってしまった。

「あぁっ❗️ピコ~~ッ!」

すぐにドアを開けて追っかけたのだが、もう後の祭りだ。

「ピコ~ッ❗️・・ピコ~ッ❗️」

「ピコ~~~ッ❗️」

2人で呼んでみたのだがピコの姿は、もう何処にも見当たらなかった。

・・・・・・・

家族のショックは大きかった。

仕事や学校の行き帰り、買い物に出た時など、皆んな木々の枝に近所の屋根の上に、緑色のピコの姿を追い続けた。

寒い冬の季節だ。雪が降っていた。《凍え死んだんじゃなかろうか?》《カラスに襲われたんじゃなかろうか》と、心配の種は尽きなかった。

以前、街中の電柱に貼ってある〈迷子のインコを探しています〉というポスターを見て、大げさな人もいるもんだと思ったことがあったが、今となっては思い知らされる。

とうとう家内が警察に届け出て〈遺失物扱い〉にされた時に、物じゃない、と言って憤慨した。

《あそこで緑の鳥が飛んでいるの見たよ》《どこそこの木の上にいたよ》などと、友達やご近所さんの情報も入ってきたりしたのだが、結局、ピコは見つからず終いだった。暫くはそんな日々が続いていた。

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家族にようやく元気が出てきたのは、3ヶ月後、《3羽目の黄色いセキセイインコ》が家に来てからだった。





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