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【ネットの旅館】

パソコンのOSがまだWindowsMeの頃だった。

家族5人で旅行に行くことになったのだが、宿がまだ決まっていなかったので、私は箱型モニターのデスクトップパソコンで、ホテルや旅館やらを検索していた。

予算とニラメッコしながら探していると、小学生の娘がモニターを指差して言った。

「父さん、ここがいいっ❗️」

「ん~そうだな、ここに決めるか!」

写真を見るとなかなか良さそうな旅館だ。

「お~い、ここに決めるぞ~」

家内に意見を求めたら、台所から手を拭きながらパソコンの前にやって来てモニターを覗き込んだ。

「あぁ~ここね・・ちょっと部屋の中の写真とか大浴場の写真とかも出してよ」

「うん、そうだな・・これが部屋で・・これが屋上の大浴場だな」

「いいじゃん!ここにしようよ!」

家内の賛成も得たので早速予約をした。

・・・・・・・

やがて、待ちに待った旅行の日がやって来た。家族を乗せたクルマは順調に走っている。快適なドライブだ。

「ねぇ、そろそろ予約した旅館が見えてきてもよさそうなんだけどね」

家内が外を眺めながら私に訊く。

「この辺なんだけどなぁ・・」

・・・・・・・

目指す旅館は娘が見つけた。けれどもなんだか声に元気がない。

「ねぇ父さん・・あれ・・じゃない?」

息子たちも力なく答える。

「うん、アソコだよ・・・」

「あぁ・・・あれだよ・・」

・・・・・・・

それはパソコンのモニターで見たような綺麗な旅館ではなかったのだ。ヒビが入った外壁はくすんでいて、窓のサッシには錆が浮いているではないか。仮にあのネットの写真の状態から10年経っても、ここまで古くはならないだろう。一体あの写真は何時のものだったんだろうか。

・・・・・・・

私達家族は少々ガッカリしながらチェックインしたのだった。

・・・・・・・

部屋に案内してくれたのは、まるで男性コメディアンが扮したようなお年寄りの中居さんだった。

部屋に入るとその中居さんは一生懸命に備品の説明をしてくれた。

「えぇ~と・・テレビのスイッチがこちらでぇ、あっ!コンセントはこっちで・・こっちで・」

と言いながら、コンセントが壁から剥がれ落ちそうになっている。

「あらっあらっ!今朝までくっ付いてたんですけどねぇ・・」

などと言い訳をする。

家族で顔を見合せながら笑いを堪えるのに必死だった。

・・・・・・・

それでもその夜の料理は頑張ってくれていた。屋上の大浴場にも一杯に湯を張ってあったし、私達家族くらいしか泊まっていないのに精一杯のサービスをしてくれたのだ。

もう殆んど貸切状態だった。

・・・・・・・

翌朝、おいしい朝食を頂いた後、なにか我々が泊まったことで、かえって迷惑を掛けたんじゃないのだろうかと心配しながら旅館を後にしたのである。












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