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【台湾のガム】

台湾旅行2日目の最初に目指す観光地は〈日月潭〉だった。南投県の、標高700mくらいの所にある湖である。

バスが山道に入って行く前に、ガイドの台湾人男性が流暢な日本語で休憩の案内をした。

「はい、皆さん!もう少しで休憩場所に到着致します。駐車場では台湾の美女たちが《ビンロウ(檳榔)》という木の実を売っていますが・・」

観光客のひとりが訊ねた。

「あの~、ビンロウってなんですかぁ?」

「はい、ビンロウは〈ヤシの木〉に似た植物で、売っているのはその実なんです。昔からの〈台湾のガム〉みたいなものなんですが、噛むと苦くてスッとする感じがします。凄く唾が湧いてきて口の中が真っ赤になります。頭がホワ~ッとすると言う人もいます。台湾人はガム代わりで噛む人もいます。噛みタバコと言ったほうがいいのかもしれませんね。合法ハーブで麻薬ではありません。緑色をした実ですよ。日本人の皆さんの口には合いませんから、お勧めはしません。美女に見とれて買わないほうがいいと思いますよ」

ガイドは笑いながらそう言うとさらに付け加えた。

「あ~それから、なぜ美女が売っているのかと言うとですね。ビンロウを買うのは殆んどが男なんですね。だから露出の多い服装の美女が売るんです。ビンロウ売りを〈ビンロウセイシ(檳榔西施)〉と呼びますが、セイシ(西施)というのは、中国古代にセイシ(西施)という名前の絶世の美女がいたので、それに例えてビンロウの売り子をビンロウセイシというんですよ」

《へぇ~ビンロウセイシかぁ~》

すると別の観光客が訊ねた。

「ビンロウっていくらで売ってるんですか?」

「あぁそうですね~場所によって違いますが・・・」

そう言って、もうひとりの美人バスガイドに確認してから答えた。

「10粒で60元(台湾圓)くらいだと思いますよ・・日本円で200円ちょっとですね」

ビンロウの話題で持ち切りだったバスはやがて休憩場所に到着し、駐車場へと入っていった。

日差しを遮断するためのサングラス色の窓の外を覗くと、なるほど、ガイドが言っていた、数台のコンテナの前で檳榔を売っている〈檳榔西施たち〉が見えてきた。確かに色っぽい服装をしている。

・・・・・・・

バスを降りると、いきなりムッとした空気が襲ってくる。午前中でも台湾はやはり暑いところなのだ。

トイレだけ済ませばいいやと思っていたのだが、色っぽい〈檳榔西施〉だけは間近で見てみたかったのでコンテナの近くにまで行ってみた。

やはり美女揃いだった。

「歡迎來到日本台灣! 請買仁❗️ヨウコソ台湾へ、檳榔カッテクダサ~イ!」

美女たちは歓迎の言葉で迎えてくれた。

緑色の葉でくるまれた檳榔の実が袋に入れられて並べられている。

連れの友人が言う。

「おいっ!せっかく美女が勧めてくれるんだからお前買えよ!」

「えぇ~っ?お前が買えよぉ~もう、相変わらず美人にはメロメロだなぁ。さっきから鼻の下、伸びっぱなしじゃないか!」

「なに言ってんだよ・・お前のほうこそニヤケッぱなしじゃないか・・お前が買えって!」

とうとう僕が買う羽目になった。

「ハウマッチッ?」

「50ユェン(元)デス、アリガトゴザイマス」

「おっ!さっき言ってたより10元安いじゃん!はい、1・2・3・4・5枚!」

1枚ずつ数えながら、10元硬貨を美女の手の平に乗せていった。

すると檳榔西施は満面の笑みてお礼を言ってくれるのだった。

「謝々、謝々❗️」

男は美女の笑顔には弱いものである。なんだか嬉しくなってきて、その場を離れたくなくなったのだが時間が迫っている。仕方なくバスに戻っていったのだった。

・・・・・・・

そうして檳榔を皮切りに、充実した台湾観光の1日が過ぎていった。

・・・・・・・

さて、その日の夜、チェックインしたホテルの部屋で、美女に釣られて買った〈檳榔〉を恐る恐る齧ってみた。

それは恐ろしく不味いものであった。




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