マガジンのカバー画像

「三日月」

13
2019年4月から2020年の4月までしていた、応募フォームからの短歌投稿→一首評のページです。石井僚一さん、竹中優子さんとしていた「毎月歌壇」の後枠として、ひとりで一年やりまし… もっと読む
運営しているクリエイター

記事一覧

ビリーアイリッシュの回

 

「ビリーアイリッシュはぼくと同い年」なににでも興味あるようでない/沢茱萸

【ぼく】の「」内発言に対し、「(この人は)何にでも興味あるようでない…人だよなぁ」と主体が思った、という歌意で読みました。「浅いなぁ」くらいまでは思ったかもしれない。【なににでも】の挟まってきかたはそれくらい、苦いように思えるんですね。

声に出して言ってみると、「なにに」はタタタ、って口腔に当たる気持ちよくなさを舌

もっとみる

小説の回

スティーヴン・キングが自分の小説を盗作している、と裁判を起こそうとする女性が村上春樹のアメリカ滞在記「やがて哀しき外国語」には出てくる。

キング氏が盗聴器を積んだ自家用ジェットでわたしの自宅の上を飛び、アイディアを盗んだのだ、と主張する女性に対して「それは盗聴の方法としてはとてもユニークな部類に入る手段でしょうな」と刑事が言うところは申し訳ないけどおもしろい。

その後 女性の主張は妥当性の

もっとみる

池袋駅の回

「言葉はそれのみで機能する」という花村萬月の言葉を、自分はそろそろ「信じようとしている」。なぜならそうあってほしいから。老舗、のことを(京都の石鹸屋さんだった)、「めちゃくちゃ老舗」とラジオで言うときの高橋みなみは第一に紹介したいもの、を〈老舗の●●〉でなく「めちゃくちゃ」と強弁する自分、の感情、に据えてしまっているから僕の顔は歪む。「老舗」でいい。

口語短歌における安易な一字空けが、もしかした

もっとみる

あまい牛乳の回

冬、長くないですか? 海に来たけどおもしろくない日みたいな天気の空の下、海からも遠いし、前髪が目の前くらいまで来てるような元気の出なさがある。リアルな歌、切実な歌、うまい歌、真似がうまい歌、おもしろくない歌、そろそろさすがにおもしろい歌、ぼくにどう思われようが,ってただただそこにある歌 ふしぎな歌 強い歌 図々しい歌

過去にがんばって見つけて、好きになれた歌だけで「やっていく」楽しさがあって、

もっとみる

銭湯の回

▪︎

音を食らう仙人たちのあいだでは意外と評価の高いエミネム
/笹井宏之『ひとさらい』

 短歌に「エミネム」が入ってくるなんて……の嬉しさは、そのまま作者の笹井宏之を「エミネムを短歌に入れてくれた人」にした。
 初読の時点では。
 程なくして、「意外と」のほうにも目が行ってからは、この「エミネム」はちょっとどうなんだろう、となる自分がいた。
 有名な「Lose Yourself」冒頭のギタ

もっとみる

ナンの回

例えば、終電を乗り過ごしてしまった駅前。

マンガ喫茶‥‥お、ポパイがある。
よし、とメディアカフェ・ポパイへ。始発が5時から動くとして、こっから5時間パックでいいか。3時間パックと5時間パックと9時間パックと13時間パックがあって、ぜんぶ奇数なのがいつも怖いんだよな。オープンブースだと980円で最安なんだけど、一回も横になれないのはさすがに腰に来ちゃうかなー。フラットブースにするか? 土曜・日曜

もっとみる

詩みたいのの回

どういう巡り合わせなのか、今回は〈会話〉の短歌が多かったように感じました。投稿をありがとうございます。

※黄色い画像と青い画像の間に、性的なモチーフを含む短歌と、その評が書かれてあります。そういったものに抵抗を持ちそうだ…とこの時点で思われるかたは、2枚目の青色の画像まで画面をスクロールしてください。

店のブログに詩みたいの書くなって、手ブラ画像があればいいっしょ/山田さとみ

エロティッ

もっとみる

小さい頃何になりたかった?の回

GUのメルマガ、モデルのお子さんがかわいい これも一瞬のこと/シロソウスキー

【これも】の【も】が、作者が他にも挙げられる(と、メルマガの画像を見たときに気づきもした)、絶対すぐに忘れるんだけどたしかにパチッと光る人生における無数の「なんか」をその背後に抱えた【も】…なのか、先行作品の

飼いもしない犬に名前をつけて呼び、名前も犬も一瞬のこと/吉田恭大『光と私語』

の結句を「お題」や「#も

もっとみる

洋食の回

いろいろを「短歌」で考えて、やたらめったらに「短歌」読んでると、こんなに人間って種類少なかったっけ と目玉が澱んでくるわけで、家に着くまでに一つはコンビニがあり、成人式の前撮りってしたほうがいいかネットで呟いてみたり、それに話しかけられたり、枕元を開けたら入ってたアパホテルの社長の本をいじらされる国に生きてて「すごくなる」のなんてとうてい無理なんじゃないか。と、短歌ばっかり読んでるくせに短歌が好き

もっとみる

華原朋美の回

桃味は華原朋美の味がして嫌い 土曜の部活帰りの/シロソウスキー 

たとえば短歌定型が、その全体の広さをこちらには把握できない巨大な紙の一枚…だとして、こう

・(てん)1個を見せられても「?」なんだけど、こう

3つくらい打たれることで「ああ、」と、「この紙はだいたいB5くらいだな」みたいに作者の認識していて→切り取ろうとしている世界のサイズをこっちに分からせてくるような、そういう華原朋美 桃(

もっとみる

ジャパネットたかたの回

なんでこんな俺くさくさしてるんだろう、と(スーパーで入れてきた電解水の専用ペットボトルの重みで自転車が倒れて、前カゴからこぼれたのを自宅前で叫んで蹴った)いただいた歌を読んでいて感じたのは、とことん自分は恋や友情や同僚関係の積み上げの先にひとりの「あなた」を築く を失敗しつづけてこの年になったんだな…という思いがこの頃たいへん顕著だからで、誰かにとっての「あなた」の再現、もしくは仮構のされた歌の読

もっとみる

のり弁の回

いまここでしねばかばんののり弁はぶちまけられて春の県道/坂中茱萸 🌛

歩いてて遭遇したものであるとする読みと、恋人(と思われる)の事故の記憶(と読める)が突然よみがえった主体が嘔吐してしまったそれであるとする読みの二つの線が【のり弁】にはある…というところから「雨の県道あるいてゆけばなんでしょうぶちまけられてこれはのり弁/斉藤斎藤」を思う、この心の動きをちょっと久しぶりにさせられたという感想で

もっとみる

ポテトの回

前髪を切り過ぎたけどあの頃と同じ味にはならないコーラ/布施

あの頃 のコーラの「味」が主体にとって良いものだったのか/悪いものだったのかを探るところから、読みの枝分かれが始まりだす一首なんだろうなぁと思います。

(その前に、「前髪を切り過ぎた」今と「前髪を切り過ぎていた」昔 の自分とではコーラへの味覚も同じになるはずだ…という不思議な前提や理屈に振り落とされる読み手もいそうですけど、このくら

もっとみる