災害を見るのは先人たちの知恵

1.初めに
初めに、日本は世界有数の災害大国であることは言うまでもないだろう。毎年、台風や大雨・大雪災害を受け土砂災害、河川の氾濫などの気象災害が発生し多くの死者・行方不明者を出している。それだけでなく、4つのプレートがひしめき合い影響を与えることで地震、津波、火山といった巨大災害が数年、数十年単位で発生し甚大な影響を与えている現状がある。また、近年では科学技術の発展に伴い、南海トラフ巨大地震・首都直下型地震・富士山噴火・巨大台風などといった自然災害が予期され官民とはず対策が行われ、国も戦前から災害対策を行ってきた歴史があり現在でも災害対策基本法や防災体制が作られ、国の中枢から地域住人まで防災のための運動がなされている。


図 1鳴滝地域ハザードマップ


このような状況下で、防災という観点からも民俗学という学問が重要視されているべきではないだろうか。なぜなら、日本における災害は近代に入って始まったものではなく、日本が生まれる前から災害は発生し住んでいる人々は経験してきているからである。だからこそ、地域特有の災害意識が生まれ災害を受ける度に練度が上がり伝えられてきた。このような情報は過去から現代の人に繋げる防災意識であり、重要視されるべきものである。上記のことから民俗学における災害に対する意識と今後の防災も含め論じていく。

2.現状
 災害の危険性を伝えるために先人たちは、様々な手法を取り子孫に情報を残しているが、その中でも名前は多用されている。また、水害や土砂崩れなどといった災害が頻発している地域において災害や自然的状況を伝えるための名前が付けられていることが示されている。現に私の地元の長崎県長崎市においても鳴滝という水害に関する地名があり、由来は水が激しく流れ轟音を鳴らすことからきている。実例として、1982年7月23日から24日にかけて発生した長崎大水害では甚大な被害を受けた地域であり先人から的確な警告がなされていたことが証明された。しかしながら、鳴滝地域を高級住宅街に変えるという触れ込みから、様々な人々が家を建設したことで住宅が増加し被害が拡大している。また、住宅地が建てられる以前の鳴滝地域は水害を恐れ人々は住宅を建てなかったことから、地域の人々は鳴滝という地名が指し示すものを理解し避けていたこともわかる。このような過去を踏まえ現在でもハザードマップで土砂災害の可能性がある地域とされ警戒が行われる(図1)。

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図 1鳴滝地域ハザードマップ
このように地名から災害を予期することは可能であり、今後生かされるべきものではないだろうか。

3.伝承 
後半は、地震・津波・火山などの災害事例と民俗学的伝承を見ていく。地震おいては有名なところで行くと方丈記が思いつくだろう。「ゆく河の流れは絶えずして、、、」から始まる方丈記の中には1185年に発生した文治地震が記録されており、当時の悲惨な状況や津波がきたことや余震が続いたなど事細かに書かれている。方丈記に関しては比較的認知され教科書などにも乗っている文献だが、いわゆる口伝で伝わっている昔話や妖怪話にも地震と考えられるものがあり、多くは蛇、鰻、蟹、法螺貝といった水生動物が何らかの知らせをするというもので地域の動植物に合わせたものが登場する。また、柳田国男作の遠野物語にも1897年に発生した明治三陸沖大地震およびそれに伴う津波による被害でなくなった婿が1年後夫の前に現れ対話をするというものが記載されている。この話自体は夫と婿の人間話になっていくが事件の一つして津波が描かれており直接的ではないにしろ地震や津波の記述がなされている。ほかにも柳田国男は物言う魚という作品内で地震・津波が起きた際に人面魚が事前に予知し住人に伝えたという石垣島の口伝も紹介しており日本各地で地震・津波に関する口伝が残っている。このように地震(津波)においても伝承が様々な方法でなされており、特に津波や地震は石碑よって出来事や伝承が残されている場合が多く、石碑に残すほど大きな出来事であったと推測でき、今後の防災に生かすことができるのではないだろうか。

4.長崎の伝承
火山災害においても同じように口伝や災害地名が残っている場合もあり、実例として長崎県の島原半島が当たる。島原半島の中心には雲仙普賢岳がそびえたち数々の災害をもたらしてきた、中でも最も有名な伝承は島原大変肥後迷惑だろう。これは雲仙岳の火山性地震により隣接した眉山が山体崩壊を起こしたことで崩壊の勢いで津波が発生し、津波が対岸の肥後に津波が押し寄せたというものである。このようなこともあり島原では崩山や柳という山崩れに関する地名が多数あり危険性が高いことを先人たちは示している(図2)。

図2島原半島ハザードマップ

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図2島原半島ハザードマップ
また、地名の中には焼野というものもある。この地域は普賢岳南側に見られ地質的溶岩が流れ出たことがわかることからそれらに起因した地名だと推測できる。このように火山災害においても口伝・伝承や災害地名として後世に受け継がれている。

5.最後に
今回は水害・土砂災害・地震(津波)・火山災害に分けて口伝や地名を元に災害の危険性を見てきたが、どれも的確な情報が提示されていた。最後に、近年様々な巨大災害が危険視されており、多くの科学技術をもって対策が練られているが、先人たちの声を聴くことによってより良い防災対策・防災教育がなされていくのではないだろうか。

参考文献
民俗学の災害論・試論 関沢まゆみ 国立歴史民俗博物館研究報告第203集2016/12
災害の民俗的イメージ 櫻井龍彦 京都歴史災害研究第3号 (2005) 1 ~ 20
島原半島の災害地名 田村,前田,水田,荒金

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