見出し画像

音のない世界に、言葉をそえる。


2019年から始まった『移動する中心|GAYA』。実は、このプロジェクトがはじまったのは、2015年から始まり、今も継続している別のプロジェクト『穴アーカイブ』の存在がきわめて大きいです。

あなたは「8ミリフィルム」を知っていますか。昭和30-50年代にかけて、歴史上ひろく流通したはじめての映像メディアです。私たちは今、スマートフォンやビデオカメラを使って、映像を残しています。そんな生活様式を基礎づけた“さきがけ“が、8ミリフィルムです。

一部の富裕層や趣味人が飛びついた昭和30年代。高品質化・低価格化が実現し、爆発的に流行した40年代。他のメディアに席巻され、廃れていく50年代。一般家庭に普及した画期的な映像メディアは、その時代ごとの「市井の人びとの生活」を記録に残しました。

画像2

残念ながら、ほとんどの8ミリフィルムは、今、家の押入れに眠っています。専用の映写機が入手できない、フィルムが劣化しているなど、映写環境がなかなか整わないからです。当時の暮らしを刻んだ「生活文化の記録」は、今まさに失われようとしています。

埋もれた小さな記録に光をあてよう。私たちは、2015 年から『*穴アーカイブ』というアーカイブ・プロジェクトを東京・世田谷で始めました。これまでに300巻以上のフィルムが市民から提供され、84巻(およそ16時間分)がデジタル化されました。

2019年には、ウェブサイト『世田谷クロニクル1936-83』をローンチしました。戦時中の人々、復興を遂げた街並み、高度経済成長期の生活。世田谷を定点とした16時間のホームムービーは、観る者をフレームの外にひろがる風景へと連れ出してくれます。

スクリーンショット 2020-11-13 15.05.46

当時の技術的な問題で、フィルムには音や声が記録されていません。しかし、音のない世界から聞こえてくる言葉があります。音のない世界に添える言葉があります。プロジェクトは目下、映像から引き出される記憶やエピソードといった「声」をひろく採集しています

現在から過去を経由して、ふたたび現在に還ってくる。すると、見えていなかったものに気づくことがあります。見慣れたいつもの場所が、どこか違って見えてくる。そんな “もうひとつの現在” につながる抜け穴を、あなたも世田谷の8ミリフィルムに探してみませんか。

画像3

*穴アーカイブ:an-archive…主催:公益財団法人せたがや文化財団 生活工房、企画制作:特定非営利活動法人記録と表現とメディアのための組織[remo]。