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テクノロジーの発展とファンコミュニティの変化ーGaudiy×ミラティブ×エンタメ社会学者ー【イベントレポート前編】

2022年9月14日(木)に開催された、特別イベントファンコミュニティの現在と未来。『推しエコノミー』の著者でエンタメ社会学者の中山さん、スマホゲーム配信者数で日本最大級のゲーム配信プラットフォームを運営するミラティブ代表・赤川さんをゲストにお迎えし、Gaudiy代表・石川とともに「ファンコミュニティの現在と未来」についてお話ししました。

そのイベントの模様を、前後編に分けてお届けいたします。

■スピーカー

■モデレーター

株式会社Gaudiy
Business Development
田中 陸也(たなか りくや)

テクノロジーの発展と「飢餓感」にみるファン心理の変化

田中さん(以下、田中):本日はよろしくお願いします。まず最初にお伺いしたいのが、Web3やメタバースなどのテクノロジーの進化や、コロナによるデジタルシフトなどが起きている中で、ファンの活動や心理がどのように変化しているか。中山さんからお願いできますか?

中山さん(以下、中山):はい。最近、30年ほどアニメ業界のフリーライターとしてご活躍されている渡辺由美子さんに取材させていただく機会があったんですね。そこでお伺いした「女性ファンの歴史」がとても印象的だったんです。

まず1990年代のファン活動はコミケが中心で、参加者の9割は女性だったらしくて。当時のアニメ市場はまだまだニッチで、キャラクターに対する思いを昇華するような派生商品は、公式から全然出ていなかったんですね。

そこで女性ファンたちは、公式の提供商品では補いきれなかった需要を、自分たちで満たしにいった。いわば「妄想」でスピンオフの物語を描き出した結果、それがコミケなどに出回り、二次創作が盛り上がっていった時代です。

その後、アニメ雑誌がその「隙間を埋める」役割を果たしていましたが、2010年代からは公式がファンに直接、スピンオフの物語やグッズ等を提供するようになっていきます。そしてSNSが普及したことで、女性ファンたちの口コミがさらに作品を盛り上げていきました。

いつの時代も「公式の隙間を埋める」ようなファン活動はあったけれども、この15年は、ファンがテクノロジーを活用して自分たちでその隙間を埋めていけるような、そんな変化が起きているのかなと感じます。

エンタメ社会学者・中山さん

田中:なるほど。赤川さんは「ファンの変化」という文脈ではどう思われますか?

赤川さん(以下、赤川):そうですね。ファンの熱量を増すためのキーワードっていくつかあると思うんですが、今の話から思ったのは「余白」とか「飢餓感」とかが大事なんだろうなと。

90年代初頭というのは、そもそも情報の量が少ないために「飢餓感」が自然に起こる状態で、その「余白」をまさに妄想によって埋めていた。そこから情報に溢れる時代に移ってきた中で、「想像の余地」や「語る余地」みたいな飢餓感をどこに残すのかが変化してきたのかなと思いました。

石川さん(以下、石川):おもしろいですね。その「飢餓感」を構成してるものってなんだと思いますか?

赤川:僕は、90年代までは「情報やコンテンツそのものへの飢餓感」だったけれど、今は「わかりあいへの飢餓感」のような気がしていて。

昔は「エヴァンゲリオンが好き」みたいにタイトルレベルでよかったものが、今だと「この作品の、何話の、このキャラの、この仕草が好き」みたいな粒度だと思うんですよ。伝える手段が発達したからこそ、以前よりも「誰かとわかりあいたい」ことへの飢餓感が強くなっていると思います。

ミラティブではこの「わかりあいたい」という気持ちを恥ずかしがらずに、表に出しやすくするためのプロデュースを意識していて。そのために大事なのは、一種の「言い訳」をつくってあげること。配信をするとインセンティブがもらえるキャンペーンがあれば、ゲーム実況を始める口実になりますよね。そういうプロデュースをサービス側が行うことで、わかりあいの場をつくっています。

「最初から大リーグ」はNG。コミュニティの立ち上げで大事なこと

田中:次に、コミュニティの立ち上げについてお聞きしたいのですが、ミラティブさんの場合はどのようなペルソナを設定して、どうやってコミュニティを作り上げていったんでしょうか?

ミラティブの配信者の推移(ミラティブ社・登壇資料より)

赤川:そうですね。ミラティブは真の意味で0→1だったとは思っていなくて、ゲーム実況の文化は、ニコニコ動画などが脈々と作ってきてくれたものです。

ただ、当時のペインは明確にあって。それは「ゲーム実況は見ていても、自分でやるのはめんどくさい」ということ。パソコンが必要だし設定もややこしい。なので最初のターゲットは「ゲーム実況をしたくてもできない人」に置いていました。

「スマホだけでゲーム実況できる」を特徴とするミラティブをリリースして、数日で今ぐらいの規模になるかなと思っていたんですが、もちろんそんなことはなくて(笑)。使ってくれる人はいる。でも次に見えてきたペインは「誰にも見てもらえなくてつらい」でした。

つまりは「ゲーム実況をしたくてもできない人」が来てくれても、誰ともわかりあえずに去っていってしまうんです。そこで初期にやっていたことは、「誰かが配信を開始したら、僕が5分以内に出ていってもてなす」っていう(笑)。

配信開始をSlack通知で拾って、5分以内にコメントし、公式Twitterでファボと引用リツイートをして、誰かユーザーさんが来たらつなげる。これを1日20時間くらい、1ヶ月ほど自分に課したんです。そしたら伸び始めました。

一同:1日20時間(笑)。

赤川:初期はそんな感じで種火を作り、そこからゲーム好きの人にじわじわと広がっていった感じです。

一方で、明確にやらなかったことがあります。それは「有名人を呼んでくる」という施策。コミュニティが冷めるひとつの要因に、自分は参加する側じゃなくて聞き役でいいみたいな構造があると思っていて。

メディアとしては有名人がいる方が人は集まりますが、コミュニティとしては自分が参加できないとつまらないと思うんですよね。ヒカキンさんやはじめしゃちょーさんがゲーム実況していたら、見たいとは思っても、自分もすぐ隣でやろうとはなかなか思えないじゃないですか。

ほかの例でいえば、野球を始めたその日に大リーグのマウンドに立たされたら、二度とやりたくなくなると思うんですよ。まずは草野球から始めて、徐々に県大会、甲子園、プロ野球、大リーグ、みたいな形で夢のあるステップを作っていく。これはコミュニティの初期からずっと意識していますね。

ミラティブのクリエイターエコノミー(ミラティブ社・登壇資料より)

「ユーザーを囲い込まない」Web3的なコミュニティとは

田中:ありがとうございます。そのコミュニティの行き着く先といいますか、理想のコミュニティについてお伺いしてみたいのですが、石川さんはいかがでしょうか?

石川:普通のコミュニティとは若干文脈がズレるかもしれないですが、Web3でいうと、国家のようなインフラをもったコミュニティが理想的だなと思っています。

これを僕らは「ファン国家」と呼んでいるんですが、Web3に関わる人たちの間では結構共通化している世界だと思っていて。最近自分がnoteで紹介した「Network State」もそうですし、他にも「Nation3」や「Decentralized Society」など色々な呼び方がされています。

イメージでいうと、コミュニティに入ったら国のような社会福祉が受けられたり、自己実現ができたり、セーフティーネットがあるような世界です。実際、NFTゲームのAxie Infinityではゲームをプレイすることで生計を立てている人がいて、発展途上国のセーフティーネットにもなっています。これが、Web3が掲げているコミュニティの理想形だと思っています。

中山:なるほどです。一方で、Web3のコミュニティが完全な自律分散で回るのかとか、投機という別ファクターもあるなかで難しい部分はありそうですよね。結局は「衆愚」で、誰かが逃げ出すと他の人もワーッと逃げ出してしまう。危ないかもと思った瞬間に、本当に危なくなる側面もありそうです。

石川:これはすごくおもしろい議論で、今までの国家のコミュニティ論とか政治論って「人が抜けない」という前提に立っているんですが、Network Stateはその前提が違っていて。それは何かというと「いいコミュニティに入り、居続けること」以上に、「よくないコミュニティを抜け、移動できること」を理想としているんです。

要は、これまでのように「ユーザーを囲い込む」のではなく「ユーザーが逃げる」ことを許容する。色んな国家が誕生してユーザーが逃げやすくなると、自由競争が生まれますよね。その競争によって、国家の形態が指数関数的にアップデートされていくのが理想的だなと。

複数のオンライン国家に所属できる世界(Gaudiy石川・noteより

中山:今の話を聞いて、90年代のコミュニティ論で言われていた「城下町」と「城塞都市」の話を思い出しました。元々はWeb2のGAFAとかも、人々が勝手に集まってきて勝手に抜けられる「城下町」だった。けれども情報を収集して収益化していくうちに、だんだんと囲い込む城壁が高くなり、「城塞都市」になってしまったと思うんですよね。

赤川:ある意味、その理想を最も実現しているのが「インターネット」というプロトコルレイヤーのような気もしてて。分散してるじゃないですか。でもアプリケーションレイヤーでそれを実現しようとしたGAFAは、結果的に城塞を作ってしまったことになる。

それに対するWeb3という潮流が出てきてはいるけれど、ブロックチェーンのアプリケーションレイヤーで、その理想が実現できるのかは僕もまだイメージがついていないし、おもしろいところだなとも思います。うまくいくんでしょうかね。

石川:むずかしい質問ですね(笑)。今はWeb3の期待値が上がりまくってるので、もうすぐ剥がれると思ってます。ただアプリケーションレイヤーにおいても、インターオペラビリティ(相互運用性)やトークングラフのように、相互の関係性を構築しながらみんなでメリットを分け合える仕組みがWeb3なんですよね。

例えば「このNFTを持っていると限定イベントに招待される」とか「あるコミュニティの信用を他の人が別のコミュニティでも活用する」とか、ただ所有するのではなく、他のユーティリティとつなげることで初めて価値が出てくる。パーミッションレスで自由に価値をつけられるゲーミフィケーションが働くことが、Web3のすごいところだなと思っています。

村社会から発達する中で、人間が失ったものを取り戻すプロセス

中山:すみません、かなりデカめの話をぶち込んじゃってもいいですか(笑)。僕は文化人類学とかが好きで…「謎の独立国家ソマリランド」っていう本、知ってます?

ソマリアって「殺人が起こっても警察が無視するような国」と言われたりするんですが、実は領土が2分割されているんですね。北のソマリランドは自治がものすごく発展していて、実は犯罪が全く起こらない。で、南はめちゃくちゃやばい。

その背景には、統治の違いがあったんです。北部を統治したイギリスは、従来の権力者だった氏族(うじぞく)に警察権などを残した上で同盟的にガバメントした一方、南部を統治した南イタリアは、従来の権力者たちを全員クビにして新しいガバナンスを作ろうとした結果、ガタガタになってしまった。

僕がおもしろいなと思ったのが、この調査に入った人類学者によれば、ソマリアでは名前を聞いただけで信用できる人かどうかわかるっていうんですよ。なぜなら、名前に「〇〇氏族の〇〇」って入っているから。それがリアルブロックチェーンみたいなレコードになっていて、「〇〇族の3代目のあいつだ」「犯罪を犯した奴の孫だろう」みたいな情報が名前からわかる。そうすると、村社会ってめちゃくちゃ平和じゃないですか。

例えば村に新しいゲストを迎えるときには、財産を投げ打って接待するそうなんですね。あらゆるものを与えて個人情報を割り尽くすことで、知らないやつを知らないままにしないというか。めちゃくちゃ関係性を作るんです。

そんな話があって最近よく考えているのは、貨幣時代や資本主義以前の時代には、実はみんな完璧なコミュニティにいたんじゃないかって。全員がお互いを知っていて、信用も権力バランスもある平和なコミュニティ。

だから今、我々がブロックチェーンでやろうとしていることは、都市化して信用ならない人とも共生するようになった社会が、村社会から発展する中で失ったものを取り戻すプロセスなんじゃないか。そんなことを最近考えていて、、なんかえらい話をぶち込んじゃいましたね(笑)。

石川:いや、めちゃくちゃおもしろいです。

ファンは「贈与」によって自らのコミットメントを高めていく

赤川:村人の接待の話は、贈与行為によって信頼を可視化するプロセスとも言えそうですよね。僕はこの「贈与行為」って、ファンコミュニティにおける鍵のひとつだなと思っていて。

前提として「交換」と「贈与」は明確に意図が違う行為です。「買う」行為は "交換" である一方、「推す」行為は一種の "贈与" であり、「推し」は等価交換されたら困るものだと思うんですね。例えば、好きなアイドルに自主的になにかを贈って、アイドルから同じ額の返礼品が返ってくるのって「別にそれを求めていたわけじゃなくて…」ってなるじゃないですか。

ファンは贈与行為によって、自らのコミットメントを高めていく側面がある。そして、相互の贈与とコミットメントを通じて形づくられるのが、ファンコミュニティだと思うんです。

ミラティブ・赤川さん

そして、交換原理のときは、Amazonで1円でも安い商品を探して購入するのに、プレゼントを購入するときには安いとむしろ申し訳ないという感覚が僕らの中にある。それが「贈与原理」であり、モノの価値ではない別の価値が乗るんですよね。「物語」の価値といいますか。

石川:あと贈与について思うのは、投げ銭的な「良い贈与」もあれば、Twitterのクソリプみたいな「悪い贈与」も存在しているし、誰かがスターになるみたいな良い作用もあれば、承認欲求とマウントの取り合いみたいな悪い作用もありそうだなって。

結局、今のSNSって横軸の人間関係が重要なファクターになっていますよね。そうすると、心理学者のアドラーも「人の悩みの9割は人間関係」だと話しているように、「人対人」の構造を強めてしまって人の悩みがどんどん加速してしまうんです。

そこで僕が大事だと思うのは、横ではなく、縦のベクトルにすること。つまり、共通のミッションに向けて共創関係になることが、コミュニティとか人間にとってすごく重要です。

ハーバード大学の研究でも、人の幸せを決定づけるのは富でも名声でもなく、「同じ志を持った人が頼り、頼られる関係にある」と結論づけたという調査があって。交換や贈与って「頼り、頼られる関係」に近いとは思うんですが、もう一変数としての「志」が必要なんだろうなと。

なので投げ銭とかそういうものに、ミッション性やビジョン性みたいなものをうまく付けられると、サステナブルなコミュニティになるんじゃないかと思ったりしますね。

中山:夫婦と同じかもしれないですね。夫婦で1対1の関係だと「俺はやった」「あんたはやってない」みたいな言い合いになりやすいけど、例えば「子育て」っていう共通ミッションがあると、なんかこう、もはや交換じゃないんですよね。

「推し」が目指すものさえ永続的であれば、ファンが推し続けることも交換にならないというね。それは贈与であるし、贈与される方もそれを達成するための階段をつくってるみたいなものだから。後編に続く


後編では、以下の内容を扱っています。

  • 「縦」と「横」を切り分け、居心地のよいコミュニティをつくる

  • 「わかりやすい正義」は燃えやすい。炎上のトリガーとは?

  • ファンコミュニティは「物語の増幅装置」であれ

  • インセンティブ設計で気をつけたい「ソーヤー効果」

  • 「物語としての価値」がマネタイズにつながる

  • 世は「大コミュニティ時代」。知的好奇心が満たされる場所

後編も盛りだくさんの内容になっていますので、ぜひご覧ください!

さいごに

各社に興味をもっていただいた方は、ぜひ下記の情報もご参考ください!

Gaudiy(ガウディ)

「ファンと共に、時代を進める。」をミッションに、Web3時代のファンプラットフォーム「Gaudiy Fanlink」を開発・提供するWeb3スタートアップです。NFT、ブロックチェーン技術などの先端テクノロジーを強みに、Web3と日本が誇るエンタメカルチャーを掛け合わせ、グローバル規模の事業展開をめざしています。

ミラティブ

ミラティブは「わかりあう願いをつなごう」をミッションにゲーム配信プラットフォーム「Mirrativ(ミラティブ)」を運営しています。
ビジョン「好きでつながり、自分の物語(ナラティブ)が生まれる居場所」を掲げ、ユーザーにとってオンライン上の居心地の良い空間を提供できるようプロダクト開発に取り組んでいます。

Re entertainment

エンターテイメントの再現性を追求し、経済圏を創造する
エンタメは無数の失敗のなかで時に大きなヒットを生んで経済圏を築き上げます。Re entertainmentはこの不確実性の高いビジネスにおいて、経営学・社会学を基礎としたScienceを持ち込み、Essenceを抽出し、Try/Re entryし続けることを支援し、組織の成功確度を高めることをビジネスとしています。

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