仮面ライダー

あきらめていた。
何もかもあきらめている自分にうっとりとしていた。
心臓の中心から憂鬱は滴れて腹の上辺りに溜まっていく。
身体を動かすのが億劫でたまらない。
なんとか起き上がり水を飲み換気扇の下でタバコを吸う。
3本目を吸い始めると吐き気がした。
もったいない気もしたが仕方ない、途中で消した。
残りはあと一本。
また買いに行かないと。
お金あったかな。

その時iPhoneがブルブルと震えた。
「高梨優奈さん」
と登録された名前が出る。
『えっ!』
思わず声が出た。
2年くらい前に同じバイト先で良いなと思ってた年下の女の子だった。
さっきまでの憂鬱な気分は吹き飛びワクワクしてしまっている。
慌てて電話に出た。
『もしもし』
『あ、久しぶりですー。覚えてます?』
『あ、うん、もちろん覚えてるよ』
『良かったー。けど先輩なんか微妙に元気が無いですよー。こんな時に電話してすみませーん。』
『こんな時?いや、ちょっとびっくりしてるだけで』
『そうですよねー。突然すみません。世の中も大変ですし迷惑でしたか?』
『ん?世の中?そんな事無いよ。で、どしたの?』
大人の余裕みたいな事を意識して話す。
『ちょっと相談があって、、、今日ってお時間ありますか?』
『え、あー、全然あるよ全然時間。』
『ほんとですかぁ!良かったー!断られるかもと思ってたから』

駅前の喫茶店で待ち合わせをする事になった。
2時間後だ。
とりあえず4日くらい体を洗ってないのでシャワーを浴びた。
髭を剃り落とし鼻毛を切った。
眉毛の間も一応剃った。
気持ちが良い。
俺ってこんな顔してたんだ。
女性というのはこんなに俺を動かせてくれるのか!!
感動していた。
そしてやらしい事で頭はいっぱいだった。

喫茶店までは10分くらい。
今は1時間前だが家を出た。
晴天。青いよ空が。花も咲いてるし。
気持ちいい。
まだ1時間ある。
どこか公園的なところで一旦時間までのんびりしたいな。
自分の住んでる所なのにこの街に何があるのかあまり知らない。
『駅からアパートの往復くらいしかしてなかったもんな。』
ぷらぷら歩いてると誰も遊んで無い小さい公園を見つけた。
何か事故でもあったのか全ての遊具に「危険ですから近寄らないでください」と黄色いテープがグルグル巻きになっていた。
ベンチに座り最後のタバコに火をつけた。
『あー、青空に緑がぴかぴかしていいねぇ』
空に向かって煙を吹いた。
『ねえ、おじさん』
『ん?』
仮面ライダーのお面を被った小学生だった。
女の子の仮面ライダー小学生だ。
いつの間にきたんだろう。全然気がつかなかった。俺の隣にちょこんと座っている。
『この公園好きだったのに、滑り台もブランコもビヨンビヨンする猫ちゃんも全部乗れなくなっちゃった。』
『おじさんこの公園はじめてきたんだけど、誰かお友達が怪我でもしたの?』
しかし全部の遊具が使えなくなってるのはおかしいな。なんでだろう?
すると突然こめかみに硬いものが当てられている。
そーっとそいつを確認すると拳銃だった。
『えーっとおもちゃでもそんな事したらおじさん怖いな〜』
『おもちゃじゃないよ。おじさん知らないの?』
『何が?なんの事言ってんの?本物じゃないでしょ?冗談でしょ?』
俺から銃口を外しどこかに銃弾を発射した。
すっごいでかい音がしてビヨンビヨン猫ちゃんの顔が吹き飛んだ。
本物だ。なんで拳銃持ってんの?
『大人は殺していいって拳銃くれた人が言ってた。』
『なにそれ?』
『知らない。だって私子供だから』
『俺も子供みたいなもんだからキミの味方だよ。だからとりあえずその物騒なものを、、』
言い終わるか終わらないかでダッシュした。
何度か銃声が聞こえたが僕には当たらなかった。
『なんなんだ、何が起きてんだ。』
と、そんな時にぐーっと腹がなる。
腹減った。
とりあえず約束の喫茶店に入って何か食おう。
金は無いが多分高梨さんが払ってくれるだろう。

古いタイプの喫茶店『EACH TIME』
コーヒーもご飯も美味しい、という噂。
店に入ってみるが誰も居なさそうな気配。
『すみませーん』
右に首を傾けた人が出てきた。
『焼きそば1つねー』
と言って厨房に帰って行った。
注文してないのにな。
『焼きそばでもまあいいか』
30分くらい過ぎても焼きそばは来ない。
厨房を見るとさっきの首を傾けた店主らしき人は死んでいた。
なんでだ。
焼きそばの材料自体は準備してあってので自分で作ってみることにした。
まず野菜かな?
ジューっといい音がする。
そこに高梨優奈さん登場。
仕方ないので火を消した。
『あ、久しぶり』
『あれ先輩何してるんですか?』
『いやマスターが死んじゃったから焼きそばを作ってるところで、、、』
『マスターが死んだから焼きそばを?』
『ごめん、えーとこの状況は説明しづらいな、なんかとりあえず座ろうか?』
『え、あ、はい』
窓際に座ってる高梨優奈さんは、なんだか絵になるな。いい。好きだ。
勝手に冷蔵庫を開けて冷えたオレンジジュースを2杯用意して席に向かった。

『わあ、オレンジジュースなんて久しぶり!ありがとうございます!
それでマスターが死んだっていうのは、、』
『あ、見てみる?死んでるよ』
厨房に高梨さんを連れて行く。
『あ、本当だ死んでる』
『死んでるんだよ』
『死んでますね』
『そうなんだよ』
『へー』
席に戻った。

『なんか話があるんだよね?』
『そうなんですよ!あの最近寝れてますか?疲れた顔してますけど、、、とってもいいマットレスがあって、、、』
高梨さんはカタログをテーブルに置いた。
『私もこのマットレスにしてからちゃんと寝られるようになって前より寝起きがいいんですよ。睡眠ていうのは本当に大事なんだなって。ちゃんと寝るってこういうことなんだなって。
腰痛、肩こり、歯軋り、いびき、などなどにも効果があってお年寄りのお客さんも「10歳くらい若返ったようだわ」と喜んでいただいてます』

なるほどな。そういう事ね。
そんなマットレスがあるんだね。

『ちょっと高いなぁと思われるかもしれないですけど一生ものだと考えてもらえると安いんじゃないかと思います。ローンもありますし、印鑑がいま無くても拇印で大丈夫なんで
この書類にご記入してもらって、ここに拇印をお願いします』
全部記入して拇印を押した。
ローンの審査があるとの事で店から出てどこかに電話し始めた。
ローンなんて組めるだろうか?
組めなかったら恥ずかしいな。
その時バーンと乾いた重たい音が耳をつんざいた。
予想通り高梨さんはお面の子供に後ろから拳銃で撃たれた。

店から出て確認してみた。
後頭部に一発だ。
お面の子供が言う。
『撃っちゃった』
『撃ったね』
『死んだよね』
『死んだね』
『こんなふうに血が出るんだね』
『そうだねおじさんも初めて見たよ』
『うん、僕も初めて見た』
『これってここに置いといていいのかな?』
『さあ、おじさんもそれはわからないな』
『うーん、処理の仕方までは習ってないんだよなー』
『めんどくさいからこのままにしとこうか』
『うん、そうするよ!はやく帰んなきゃだし、じゃあねおじさん!』
『うん、気をつけて帰るんだよ』

お面についた血くらい拭いてあげれば良かったな、と思った。
そういえば焼きそば作るの途中だったな。
食べてから帰るか。
高梨さんがどの辺の記憶までクラウドに保存してあるかが問題だな。

1週間後マットレスが届いた。
ローン組めたんだな俺。
横になってみる。
確かに気持ちいい。
これならずーっと寝ていられそうだ。
ストレスフリー地獄。
そのまま布団の中にずぶずぶ埋まって水の中に、ざぶんっともぐるのを妄想する。
もがく、光に向かって必死に手足を動かす。
ざばぁっと水面に出て必死に酸素を身体に取り込む。
絶望の深度が俺には足りない。
もっともっと深く絶望したら妄想でも死ねるかもしれない。
結局は言葉だけ、部屋に舞う絶望を捕まえられない。虫取り網をすり抜ける蝶だ。
明日がなんのために来るのか、今日が何のためにあるのか、俺にはさっぱりわからないのになぁ。

「ドンドン」扉が叩かれる音に反応して体が硬くなる。
誰にも会いたくない。
「ドンドン」がしつこいので仕方なく出る事にした。
少しひしゃげた扉を開ける。
大家さんに言ったら直してくれるのかな。
『あ、先輩寝てました?すみません。先輩に私が前の体で死んだ時の事を聞いておきたいと思って』
仮面ライダーのお面を被った子供が僕に問いかける。
高梨さんだとわかった。
右手が背中に隠されている。
『一発で仕留めてほしいな。いい?』
『わかりました』
ひざまずく。
銃声が鳴る。
眉間の辺りを弾丸が抜けていった。多分。
あの蝶が俺の手のひらに降りてまた何処かへ飛んでいった。

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サポートしてもらえたらすっごい嬉しい。内容くだらないけどね。

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シュリスペイロフというバンドのボーカルとギターをやっている。
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