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円錐角膜についてのまとめ

このnoteを読めば以下のことが理解でき、CL店及び眼科検査員の日々の業務で把握しておかなければならない円錐角膜についての知識が習熟できると思います。

歴史
症状
所見と診断
円錐状の角膜のトポグラフィ
角膜の曲率による分類
円錐の形態による分類
角膜の厚さによる分類
疫学
経過と予後
角膜水腫
病態生理と病因
角膜移植
表層角膜移植術
角膜内リング挿入法
放射状角膜切開術
リボフラビン
関連疾患

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円錐角膜

円錐角膜 (えんすいかくまく、英keratoconus) は、眼球の角膜におこる非炎症性変性疾患である。角膜が薄くなり中心部が突出するため、角膜の曲率が正常範囲を超えて小さくなる。欧名keratoconusはギリシャ語のkerato-(角、ホーン、角膜)及びラテン語のconus(円錐)に因む。

円錐角膜に罹患すると、物が変形して見え、二重に見えたり眩しく見えたりする。しばしば比較的まれな状態と考えられているが、角膜の変性を起こす状態として最も多いものであり、人種によらず1000人に1人程度の有病率である。思春期に発見されることが多く、20-30代に最も重篤になる。


円錐角膜はまだ不明な点の多い疾病で、病因は不明、経過がさまざまで予後を明言することも難しい。両眼に視覚的な歪みがあると患者の行動に不便を来す(自動車やバイクの運転免許取得など)。

手術の必要性がありうる。円錐角膜はある程度謎に包まれた疾患である。国際疾病分類第10版(ICD10)でH186、 第9版(ICD9)で 371.6(「その他の角膜炎」)。

歴史
1748年、ドイツの眼科医 en:Burchard Mauchart が博士号の学位論文の中で staphyloma diaphanum (staphyloma : ぶどう腫、diaphanum : 透明な物の)の名で円錐角膜の一例を記載しているが、1854年になって初めて、イギリスの内科医 ジョン・ノッティンガム (John Nottingham) が他の角膜拡張症と区別して明確に円錐角膜について記述した。 

ノッティンガムは自身が気付いた「円錐状の角膜」の症例を紹介し、不正視(複視)、角膜の脆弱性、古典的特徴を記載した。1859年、イギリスの外科医ウィリアム・ボーマン (en:William Bowman) は円錐角膜の診断にドイツの内科医兼物理学者ヘルマン・フォン・ヘルムホルツによって開発されたばかりの検眼鏡を用い、鏡をどのような角度に設定すると角膜が円錐形状を呈する様を最もよく検眼できるか記述した。ボーマンはまた、角膜を通して虹彩を微細な鉤で牽引し、瞳孔をネコの瞳孔のように縦方向に細隙状に変型させ、視力の回復を図ることも試み、かなりの成功をみたという。

ある18歳の女性患者は20cm離れた指の本数を数えることができなかったが、この手法で視力が改善した。1869年、スイスの先端的な眼科医ヨハン・ホルネルは「円錐角膜の治療について」という題名の論文を執筆した。これにより、現在用いられている疾患名が用いられるようになった。当時の治療法はドイツの指導的な眼科医アルブレヒト・フォン・グレーフェ (Albrecht von Gräfe) により支持されたもので、硝酸銀によって角膜を焼灼し、加えて縮瞳剤と圧迫包帯を行うことにより、角膜を物理的に形成する方法であった。

症状
円錐角膜においても、初期の症状は他の屈折異常と異なる所がない。進行に伴い近視性乱視となり、時には急速に、物が歪んで見えるようになる。距離を問わず視力(解像度)が低下し、夜間の視力はしばしば極めて低下する。患者によっては、両眼の視力が大きく異なることもある。羞明(眩しさ)のため、明るい所を避ける患者もいる 、また読書時に目を細めて眼精疲労を来す場合もある。眼の掻痒感をもつ場合もあるが、それ以外は疼痛を感じることはほとんどない。


円錐角膜の古典的症状は、片眼複視と呼ばれるもので、片目でも物が何重にも「ゴースト」のように見える現象である。これはコントラストの強い画像を見る際に最もわかりやすい。例えば暗い背景に点光源がある場合である。光源が一つではなく、バラバラに散った状態で沢山見える。典型的には散らばり方は日によって変わるものではないが、長い間には新しいパターンに変わることもしばしばである。羞明と、光源の周りにフレア状の歪みを感じるのも一般的である。患者によっては、心拍に同期して像が揺れるのを感じることさえある。

所見と診断
身体所見を取る前に、まず眼科医(ないし海外においてはオプトメトリスト)の問診によって、現病歴(特に主訴、及び他の視覚症状)、視機能に影響を及ぼす眼疾患や眼傷害の既往歴、眼疾患の家族歴を調べられる場合がしばしばである。次いでランドルト環等を用いた視力検査を行う。眼科的検査として、手動式ケラトメータ(角膜曲率計)によって、角膜の局所的な曲率を測定し不正乱視(角膜の不規則な収差)を見出せば、円錐角膜の可能性が示唆される。重症例では測定器の計測可能な範囲をこえる場合もある。レチノスコープ(スキアスコープ、検影器)が用いると更に所見を得ることができる。この手法は光源を前後に移動させながら患者の網膜に長方形他の光のビームを収束させ、反射光を観測することで、屈折の程度を見るものである。円錐角膜は「鋏状反射」を示す疾患の一つである。これは鋏の二つの刃のように二つの反射帯が接近したり離反したりする現象である。

円錐角膜が疑われた場合、細隙灯顕微鏡による角膜の眼科的検査が行われる。進行例では特殊な検査を行うまでもなく、この段階で診断が明らかになる。

近接した状態で、約半数例でフライシャー輪がみられ、これは酸化鉄であるヘモジデリンが角膜上皮に沈着したものである。フライシャー輪は微かなものなので、見られない場合はコバルトブルーフィルターを通して観察するとよい。同様に、約半数例でフォクト線条 (Vogt's striae) がみられる。これは角膜の菲薄化と緊張とによって生ずる、角膜内の細かな線である。この線条は眼球を僅かに圧迫すると一時的に消失する。円錐形が顕著な場合は、下方視した際、下眼瞼にV字型の凹みがみられ、マンソン徴候 (Munson's sign) と呼ばれる。通常は、他の徴候の方がはるかに先に現れるので、古典的な徴候ではあるが、診断学的には重要視されない傾向にある。

円錐状の角膜のトポグラフィ
手持ち型のケラトスコープが簡単な非侵襲的検査として用いられることがある。同心円状の光の環をいくつか角膜に投影し、角膜表面の形態をみるものである。さらに確定的な診断法として、角膜形状解析法(角膜トポグラフィ)がある。これは角膜に光のパターンを照射し、その像をデジタル的に取得し計算処理を行って、角膜の形状を自動的に解析する装置である。

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