黒いランドセル

タイトルからして、なんかオカルト系のお話かと思い見にきた方々ごめんなさい。

これは、30代後半女が未だに消化しきれていない幼少期の思い出を語る話でございますので
「なんやちゃうんかい、チッ」
と思った方はすぐページ飛ばずに面白boketeとかに行ってください。その方がよっぽど幸福度高いと思いますのでどうぞどうぞ。

今でこそ、ランドセルは男女問わず紫色やら茶色やら黄色やら好きな色を選んでも良き時代になりましたが、私がランドセルを選んだあの時代…
ん?何年前になんの?

えー、90年代と言うのはですね、一部私学を除いて
女の子=赤、ピンク
男の子=黒、紺
というのがデフォルトだったんですよ。

しかし私は、黒いランドセルがどうしても欲しかったんです。


幼稚園年長さんの冬の日曜日、両親に連れられて行った近鉄百貨店。
母親は白い長封筒をカバンから出して私に言った。

「おばあちゃんからランドセル代をお祝いでもろてるから、今日はランドセル買うで」

ピッシリ綺麗に並べられたランドセル売り場。
寒色から暖色と見事なグラデーション、「ご入学おめでとうございます」と書かれた紅白の店頭ポップ、しっとり笑顔の店員さん。

(正直言って、小さい頃、百貨店の店員さん苦手でした…しっとり笑顔が仮面ロボットのように見えて、「買わせたろぅ」感が背後に見えてどうにも怖かった。今でも苦手やけど。
まま、たまに気持ちに寄り添ってくれる感のある人間味のある店員さんもいますが。ごく稀ですが。)

「好きなの選び。おばあちゃんからお金もらってるから、自分が好きなの選び。」
と、母親は言ってたのめっちゃ覚えてるけど、私が高級なランドセルを選んだとしても狼狽しない自信(金)があったんやな。
今思えばおばあちゃんからいくら位もらってたんやろ。

まあ、そう言われて私が真っ先に向かったのは寒色コーナー。
大人から見て俗に言う「男の子用ランドセルコーナー」。
選んだのは真っ黒で、セルロイド製ですかねみたいな結構なテカリ具合のあったやつ。

「そんなのがいいの〜?」

出た。
出た出た。
母親の薄ら笑いを浮かべて見下したような言い方。
ランドセルだけじゃない、私が欲しい!これがいい!とお洋服やオモチャやらを選んだ時に絶対出る言い方と表情。
この裏に(裏にもなってない隠しきれていないが)ある「アンタはいつもそう、ほんとセンスないわ〜、変な子、変わってるわ〜」のやつ。

しかもこの回の時は違った。
「ねー、おかしいですよね?この子ね、こんなところあるんですよ、変わっててホント嫌んなるんですよ、これにいつも私困っちゃって〜」

母親は30代くらいの女性店員さんに娘がいかにおかしいか、普段から困っているかをアピールした。

恥ずかしさが込み上げてくる。
自分が選んだのは正解じゃなかった。
でも、おかあさんは、自分が欲しいのを選べって言った。
今の私が最高にかっこいい!背負いたい!と思うのはこの黒いランドセル。

だから、いつもおかあさんが遠回しに「ソレジャナイ」を示す薄ら笑いから誘導される「結局はお母さんが欲しかった、身につけさせたかった」一品になんか行かない。

「お母さんはこれなんか可愛くて絶対、絶対、いいと思う❤️」
そう言って指さしたのは真っ赤なランドセル。


今でこそ分かるが、
「何食べたい?」
「なんでもいいよ❤️」からの
「じゃあ中華にしよか」
「えー、中華は嫌ぁ〜」
のショーモナイ女の流れです。

「赤いのは嫌、黒がいい」
「絶対絶対似合うから、一回背負ってみて、ほんで背負ったの見せて❤️」

「嫌、黒いの背負いたい」
「じゃあ、赤いの背負ってからね」

「黒がいいって言ってるやん」
「赤いの背負ったら黒いの背負わせてあげるから、先に赤いの背負って!お願い!!!!」

まぁ、こんなバチバチな間も我関せず、どっちのフォローもせずな空気と化した父親って一体。

鉄の処女みたくトゲトゲでも付いてるんかぐらいにイヤイヤ背負った赤いランドセル。
母親の黄色い声。
「やっぱり似合うや〜ん、可愛いー!
ほら、お母さんの言った通り!赤いのがいいよ!可愛い可愛い〜!!」

ちなみに、私は子供の頃
「可愛い」
と言われるのが本当に本当に大嫌いだった。
まあ、子供の頃って、子供というだけでどこに行っても
「可愛い可愛い」
言われるじゃないですか。
あれが耳タコ状態で、いい加減にしろ、しつこい、同じことばっか言うな、鬱陶しいという域に達しすぎて
近鉄電車の中でおばあさんに「可愛いねぇ」って言われて
「うっさい、こっち見んな」

って言ってしまった2歳の腐れガキ時代の私をどうかお許しください。
あの時母親めちゃくちゃ謝ってたな。はは。
まぁ、今は「可愛い」って言われたらめちゃくちゃ嬉しいけど。

ともあれ、赤いランドセルを背負わせることを達成した母親はあとは畳み掛けるだけ。

「ねっ、赤いのがやっぱり女の子は似合いますよね、一番」
と、店員さんを味方につける。
そりゃ店員も「そうですね」しか言えんわな。

「黒いがいい」
「もうこれでいいやん。可愛いって店員さんも言うてくれてるんやから」

「嫌」
「じゃあ黒以外だったら何がええん?!黒いのん以外やで!!」

黒を封じられた。
(なんでやねん。好きなの選べって言ったくせに。
じゃあもう、これでえーよ。)
それでも嫌やけど。


指さしたのは紺色。


「それもダメー!ね、女の子やねんからこっちの中から選んで!」
そう言われたのは、赤、ピンクな暖色コーナー。
店員さんめちゃくちゃ困った顔してたの今でも覚えてる。

「暗いのがいいのかな?じゃあこれだったら赤いけど暗い赤やよ」
って申し訳なさげに暗めの赤色ランドセル持ってきて見せてくれた。
でも、違うんだよ。
黒いのがいいの。


でも、もう寒色は封鎖された。
この中で選ばないといけない。
じゃあ、あんまりみんなが持ってない色にしよう。

指さしたのはピンク。
これで正解でええやろ。
もう解放してくれ。
好きなのを選んで良いと言ったくせに、好きなものは買ってもらえない。
じゃあもうなんでもいい。

「ピンク〜?!ピンクはね、お母さんのランドセルがピンクだったけど、汚れが目立つから汚らしくなるから止めてぇ〜」

今、当時を思い出して文字起こししてるがめちゃくちゃ思い出し怒りが半端ないぞ。
なんだこの母親。
でも悲しいかな、これがわたしの母親…なんだな。
いや、しかしすごいな、それ超えて怖いわ。
今思い返したら、店員さんも困ったを通り越して「やべぇ」って感じやったんやろな。

「じゃあもう、お母さんが言った赤いのでいいよ!」
当時の私にしては、母親に真正面から言葉を持ってして反抗や怒りの言葉を発するなんて、なかなか頑張ったが

「じゃあって何なんよ!!せっかく買いに連れて来たったのに!親にはね、親の夢があるんよ!!!!おばあちゃんにも、おばあちゃんの夢があるんよ!女の子らしいランドセルを背負った写真を見せてあげなさいよ!!!!」

おお、自分の見栄+エゴ、そこに祖母を巻き込んで外堀を固め、意を唱える娘に罪悪感を植え付け、意見をねじ伏せると言う、5歳の子にはどうすることもできない技です。

返答はそりゃあセイイエス、赤いのがいいです仰せのままに〜。。

そんなこんなで全く欲しくもなかったランドセルには愛着も何も芽生えることもなく、入学式の写真のふてぶてしさは本当に祝われているのか疑わしいものだった。
私は不機嫌な表情で、訳の分からない写真だらけやったな。。

その後もランドセルは蹴っ飛ばしたり投げたりとかなり乱雑な扱い方をしてしまっていた。
ランドセル代くれたおばあちゃん、ホンマにごめん。
黒いのやったら、めちゃくちゃ大事にしてたし、背負って自慢しまわってたと思う。
「見てー!かっこいいやろ!おばあちゃんが買ってくれてん!!」って。

今、あの頃の自分に言ってあげたい。
アンタの感性は素晴らしい。なんにも恥ずかしいことなんてない。
貫き通して駄々こねて、黒いランドセル買ってもらえ。
何にも後ろめたいことなんてない。
だって今でも私は後悔してるし、消化しきれていない思いが強すぎてこんな文章夜中にビールかっくらいながら書いてるんやもんな。

それにしても、思い返したら結構反抗頑張ったな、5歳の私。すごい。

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