菅野麻衣子「Sense Of Wonder」

2020年8月6日 11:59

昨年末から当社で版元となる複製画のシリーズを細々と始めることにいたしました。原画に忠実な美しいシート作品として限定制作するものです。画家の菅野麻衣子さんにもご相談し、今年3月の彼女の個展で初披露となるよう3作のアクリル画をF3号で制作いただき、それをもとに各エディション100で制作・発売いたしました。「Sense Of Wonder」シリーズ。3作の連作です。

ジクレー制作の理由

ギャラリー店頭では原画にこだわってご紹介してきました。世に1枚しかないもののほうが安心して価値をお話ししやすいからです。絵を買われたご経験のない方に、絵を所有するワクワク感を味わっていただきたい。そのためには価格形成の初期の作家さんのもので、値崩れの心配が少ない小ぶりな作品が好適なのです。

しかし中には、絵は好きだし欲しいのだが原画は畏れ多い、という方や、プレゼントとしてもう少し軽く選べるものがいい、というお客様も少なくありません。また、友人・知人が所有しているあの絵と同じものが欲しい、という願望をお持ちの方も結構いらっしゃるのです。その場合、ずっとあえて避けてきた複製画も新鮮なアイテムにできるのでは、と思えてきました。

どの作家さんのどんな絵の複製画を、どんなタイミングでリリースするのか。それによっては十分に楽しいエンターテインメントであり、音楽業界でミュージシャンが2〜3年おきに新譜を発表するように、アートで作れる同時代体験になるのではないか、と思いました。

菅野麻衣子さんは特に、個展をすると作品がほぼ全て売れてしまうという人気作家さんで、より長くマーケットにとどまって画壇の批評に耐える作品もあって欲しいと考えています。上記のように気軽に選べる価格帯の作品をご提供するには、ジクレー版画が適当なタイミングだと思えましたので、当社でお願いし実現したものです。

「Sense Of Wonder」シリーズについて

「Sense Of Wonder」シリーズは3部作。描き下ろしでじっくり挑んでいただくことができました。タイトルは、レーチェル・カーソンの有名な著書からの引用で、「ひとりの時間に得られる特別な感覚」をタイトルに込めたものだそうです。

「Sense Of Wonder -ツバキ-」

「Sense Of Wonder -タンポポ-」

「Sense Of Wonder -ポピー-」

それぞれ画面サイズ : 273×220mm。シート価格は税込み14,300円です。

制作コンセプト

「妖精」の肖像画です。羽根はスズメになっていますね。もし日本に妖精がいるとしたら身近な野鳥に姿を変えているかもしれない。そんなコンセプトがベースにあり、人が鳥に姿を変えるお話が日本各地の民話に数多くあることも着想の起点になったそうです。普段の生活から視点を変えるとこんな妖精を感じるかも知れません。背景の、花と昆虫の組み合わせが面白く小技も効いた絵になっています。

塗りのニュアンスや色彩の選び方など、新作を見るたびその進化ぶりにドキドキさせられる方ですが、本作ではシートに向き合ったとき、妖精に模した女性の息づかいが、ふっとこちらの肌感触として伝わりそうな肉薄感があります。ここ数年の菅野さんのクリエイションの美質が全て集約されここに着地していると思います。

こだわりのポイント

当社のジクレーで“刷りのエンジニア”になっていただいているのは、私たちが日本一の版画工房だと考えているエディション・ワークスさんです。原画を耐候性の高い顔料系インクで忠実に再現し、極細部までプロの眼で技術管理。原画とは別ジャンルの美術品として受け容れられる美しいシートにしてくださいます。

版画工房エディション・ワークスさんは、多くの著名作家さんの銅版画、リトグラフ、シルクスクリーンなどの作品を手がけています。
http://www.editionworks.jp

ジクレーは、額装の色や素材などの仕様で自分好みにカスタマイズできる楽しさもあるアイテムです。菅野さんの個展「お墓のU」（仙台市・中本誠司現代美術館）では、以下のようにマットの配色バリエーションが美しい額装で展示していただきました。

さらに、3つのマット窓をあけた外寸約900×450mmの細長い額に3枚全てを横並びに入れる仕様もおすすめで、そうすると寝室のベッド幅と整合性ができ、ベッド上の空間に素敵な表情ができると思います。そのことも菅野さんのもともとの構想に含まれている3作なのです。