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アトレティコ・マドリーの読解法 2021-2022最新版

今季もお疲れ様でした。たくさんのレビューを書いてきましたが、最後にシーズンのまとめを。これを書かないと終われない。
21-22シーズンのアトレティコ・マドリーを総ざらい!行くぜ!長いぞ!是非とも最後までよろしくお願いします!


●成績

・ラリーガ:3位
勝ち点71 21勝8分9敗
65得点43失点

・国王杯:Round16
3回戦 vsラージョ・マハダオンダ(5-0)
4回戦 vsソシエダ(0-2)

・スーペルコパ:ベスト4
準決勝 vsアトレティック(1-2)

CL:ベスト8
Round16 vsマンチェスター・ユナイテッド(2戦合計2-1)
準々決勝 vsマンチェスター・シティ(2戦合計0-1)


苦しんだシーズンであったが、36節のエルチェ戦の勝利で無事来季のCL圏内を確保した。
43失点はシメオネ政権で過去最多、敗戦数9も過去最多。12月には政権史上初のリーグ戦3連敗、そこでも止められず4連敗を喫した。史上初めて3位を逃す危険も大いにあったが、なんとか確保。
国内カップ戦は国王杯、スーペルコパどちらもチーム状態が悪い時期にあっさり負けた。良い思い出は何もない。スーペルコパのレギュレーションはどうにかならんのか本当に。
一方CLでは波瀾万丈のグループステージと、チームが良化していく中でマンチェスターの2チームに善戦。
様々な出来事があったシーズン。去年は"こんなフォーメーションで戦ったよ"という内容で振り返ったが、今季は難しい。ころころ変わったから。という事でまずは、時系列で振り返る。



●推移

■序盤戦
開幕から割と引き分けが多かったアトレティコ。10節までの成績は5勝4分1敗。13得点8失点。失点が止まらなかった時期。
ちなみに先季は5勝3分2敗で14得点10失点だった。あんま変わらない。

アトレティコからすると、先季からの得意な形、エルモソ・ルマル・カラスコの左サイドで崩して得点。という形がなかなか使えなくなっていた。相手に警戒されているという事もあるだろうが、フィニッシャーのスアレスが膝の故障などの影響で明らかにクイックネスを失い、理不尽な点の取り方が出来なくなった影響がモロに出た。先季何度も指摘した"優勝出来たのは単にスアレスがいたから。とならないといいね"という箇所だが、結果的に否定する力はチームになかった。

さらに守備。そもそも優勝した先季だって別に守備は良かったとは言えない。カラスコの可変で形は保っていたが、最適解ではなく必要に迫られての5バックであった。エルモソの介護という。

先季の撤退。
結構今見返すと先季のまとめ記事とかでも撤退の部分は気を使った書き方をしている自分がいる。全然良くなかったけど、せっかく優勝したからと気を使っていたのか、必死に生み出した形だったから否定したくなかったのか、今思うとどっちだったかな。という感じ。「良くは見えないけど、優勝したから機能してたんだろう」と考えていたのだとしたら、我ながらちょっとガッカリだ。

先季は崩壊しなくて良かったね、というシーズンだったし、それで優勝出来たからいいんだが、CLチェルシー戦の負け方を見ても"この守り方を継続したい"という質のものではなかった。でも最終ラインにテコ入れするような補強も出来ずに始まった今シーズン。必然の苦しみがあったのかもしれない。

今季は明確にエルモソ周辺の介護が追っ付かず、マイナスのクロスに激弱な守備対応などがバレ始めて失点を重ねる。ビハインドを追いかけるために後半からFWがいっぱい出てきて疲れる試合をする、の連続であった。
8節にはどん底の状況のバルサとホームで戦えるという幸運があり2-0で勝てたが、ここを負けていたら本当に色々やばかった気がする。この辺までかな、先季の優勝の遺産をギリギリ生かして勝てたのは。バルサ戦は本当に"先季のサッカー"って感じ。

■CL並行期
そんなグラグラと揺れ動くチーム状況の中、CLが始まる。アトレティコはB組でリバプール、ミラン、ポルトと対戦。かなり厳しい組み合わせ。この時期が本当にしんどかった。

まずCLはポルトとホームで0-0ドロー。ミラン戦はケシエの前半の退場、ロスタイムのスアレスのPKで2-1のギリギリ勝利。今思えばここで3ポイント取れなかったら全て終わっていた。本当に綱渡りしてたんだね今季は、と何度も遠い目をしてしまう。
このミラン戦ではいつまで経っても点を取らないグリーズマンがようやく一発。ホームでブーイングをもらうなど苦しんでいたグリーズマン。それにしても、ホームのファンからしてもお前が決めるまでブーイング止められないだろさっさと決めろという状況だっただろう。やきもきさせるなよ。

その後のリバプールとの連戦ではホームでグリーズマン、アウェーではフェリペが退場しながら連敗。ラリーガではソシエダに0-2にされてファイヤーフォーメーションで追いつき2-2ドロー。試行錯誤していたレバンテ戦では相手にPK2発決められて2-2ドロー、シメオネが退場。ともう絶望が目前に迫る状況に。

■システム変更とアイデンティティへの警笛
転機になりそうだったのは12節のベティス戦。コケとデ・パウルのCHコンビから縦のライン間へのパスを狙う新しいビルドアップパターンで、今後の戦術変更への布石を作った。

結局、この形がその後のエクトル・エレーラシステムの登場に至る物語のスタート地点となった。が、それはまだ3ヶ月以上先のお話。

さて、チームはそれどころではない。
13節のアウェーバレンシア戦では、ベティス戦を踏襲する3-4-3で挑み、CHの配置(大外レーンへの移動)を含め新たな取り組みを見せた試合になった。60分時点で3-1。順調な試合を見せていたがなんと、後半ロスタイムにウーゴ・ドゥーロに2発献上。引き分けに持ち込まれた。

この試合はバレンシアのボルダラス監督の対応が光った。CH2枚からの球出しを機能させようとしたアトレティコ(デ・パウルとコケ)に、CHマンツーを選択。

アトレティコの狙いは、球出しをHVからCHに変えて、効果的な縦パスが通す事。しかしこの日はCHコンビ、デ・パウルとコケがマンツーで張り付かれる事で中央からいなくなる形が多くなる。副産物的にサヴィッチは良い縦パスを通していたが、これはグリーズマンとコレアの同時起用という環境だから出来た事。たまたまと言えばたまたまである。
ネガトラで中央からMFがいなくなるなど、シメオネのチーム的に色々と問題ありで悩ましかった。ここでCHからの縦パスルートが一度頓挫する事になる。

このバレンシア戦では、それ以上にショッキングだったのがロスタイムの2失点だ。そもそもラリーガでの3失点が何年振りでどうしたこうしたという世界。
※18-19シーズン36節エスパニョール戦(A)以来。

アトレティコが2点リードを追いつかれるなんて正直見た記憶もない。スタメンが誰、新しいビルドアップが云々、それ以前の問題。
この試合のレビューでアトレティコのアイデンティティの喪失に警笛を鳴らした。アトレティコのサッカーって何だろう?アトレティコが目指す形って何だろう?という方向性に、おれのレビューそのものも変わっていく転換期だったのではないかと思う。ここから明確に"文脈"という言葉と、"気合と根性"という言葉がおれの記事内でも頻出になっていく。アトレティコの、アトレティコらしさを探す旅が始まった。

■"らしさ"とは何か期
CLグループステージ5節はホームでミラン戦。前進すらままならずイライラしていくアトレティコ。この辺で、エルモソから進んでいくビルドアップ構築はとどめを刺された。

正直最後は3ポイントを諦めて引き分けを許容するような選手起用になった中で87分、一躍時の人となったジュニオール・メシアスにまさかの決勝ゴールを許し、ホームで敗戦。狙った引き分けの1ポイントを取る事すら出来ないチームになってしまった。この絶望感は今季でも最大の物だった。アトレティコは、5節終了時点でB組最下位へ転落した。

国内戦ではHVから(3CBの左HVエルモソから)の球出しを辞める第一段階に取り組む。この時期はまだエルモソは継続して起用され、2-3-5ビルド。

コケとエルモソが大外から球出し。ジョレンテとカラスコの質を全面に出しながら改善を目指す。ようは、ボールの出所は変わらないが、プレッシャーに晒されないように気をつけながら保持する、という形。そして大外の質で得点を狙う。
この時点でその事実を指摘出来なかった自分に反省しきりだが、そんな後ろ向きな考えで有機的なボール保持なんて出来るはずもない。迷走と言っていい。"ジョレンテとカラスコの質"と言ったものの、それ以外に解決策を持てないから両サイドの単独の質で、という考え方は正直カディスのそれと変わらない。CLを戦っていくようなクラブのサッカーでは到底あり得ない低レベルな構築に終始した。

当然、悪い流れは変わらない。16節は昇格組のマジョルカ戦。1-0とリードした80分にセットプレーから同点、最後はロスタイム、久保建英のカウンター独走で沈められ、ホームで衝撃の逆転負けとなった。
この試合は、またも繰り返したクローズの失敗もそうだが、ビルドアップルート以外にもう一つ大きな弱点が見つかった。前プレだ。いくつ弱点を吐き出したんだ今季は。

この試合は新加入のマテウス・クーニャがようやく初先発。彼のアグレッシブなボールプレッシャーが、逆にチームの構造的欠点を浮き彫りにした。ボールホルダーに圧力がかからないのだ。そして背後を狙うロングボールにすこぶる弱い。いつの間にかアトレティコは自身の守備組織への自信を失い、積極性そのものを失っていった。逆にこの状態でよくそれなりに例年通り勝ち点を積めていたなというレベル。マジョルカ戦から、ラリーガ4連敗。5位転落。シメオネ政権は最大の危機を迎える事となった。

■ポルト戦で見せた意地
その連敗の最中、CLグループステージは逆転での突破を決めている。出場停止と怪我人で最終ラインをヴルサリコ、コンドグビア、エルモソの3人で組むという衝撃のスタメン。ポルトの決定力の無さにも助けられまくりながら、CKからグリーズマンが値千金の先制弾。そしてカラスコのヘッドロックなどの芸術点、技難易度の加点などを活かしてなんとか逆転で2位突破を決めた。

■前半戦を振り返る
一旦まとめる。年末のまとめ記事の時点ではおれ自身、アトレティコの先行きをほぼ予想出来ていなかった。こうやって今振り返ってみるともう少し予想出来そうなものだが。そこは個人的に反省点だ。反省点多いな。


前半戦のアトレティコは、

・先季の遺産が活かせない攻撃
・先制され後半にファイヤーフォーメーションでラッシュ。勝ち点を拾う
・ビルドアップルートの変更。中央から、というよりまずHV(エルモソ)からの球出しを辞めるが、出し手がエルモソとコケである形を変更出来ず、ネガティブなボール保持に陥った
・クローズの失敗、前プレの機能不全など、守備組織の崩壊

という流れだ。辛かった。

スアレスが得点を取れなくなり、エルモソ・ルマル・カラスコのトライアングルでの破壊が効かなくなった。それどころかミラン戦など、しっかり準備してくる強敵にはそもそもエルモソが前向きにボールを持つ事すら封じられ、狙い撃ちされた。

・トリッピアの不在
そして、大きなダメージとなったのは上記16節バレンシア戦でのトリッピアの負傷であった。これでジョレンテが右WBをやるしかなくなり、守備組織の崩壊に歯止めがかからなくなった。ジョレンテの守備対応がここから飛躍的向上を遂げるという荒療治にはなったが、それはまだまだ先の話で、この時点では不安しかなかった。
そして結局トリッピアは冬にニューカッスルへ移籍となった。ありがとうトリッピア。頑張ってな。


■年始 新しいチーム
ラージョに勝ったりビジャレアルに引き分けたりしながら、スーペルコパで負け、コパデルレイも負けた。
22節のバレンシア戦ではピッチの選手達も4バックと5バックの可変のスイッチを共有出来ず、この日は右WBに入っていたカラスコはやたらと最終ラインに吸い込まれ、デ・パウルがそれを咎めるようなジェスチャーが何度も見られた。

ぎこちなさ、というか、なんだこれは。
23節バルサ戦では今季の5-3-2守備を全て否定されて惨敗。チームはゼロベースになった。

フェラン・トーレスの縦挙動に全てを破壊される。最低最悪な敗戦。しかし、この先上昇していくためには必要な敗戦だった。断罪して終わりにするのではなく、しっかり分析して良かった。敗戦から積み上げる文脈も、間違いなくある
しかし、積み重ねなければいけなかった最下位レバンテ戦での無気力な敗戦でがーすけさんもブチギレ。チームは落ちるところまで落ちた。


この後、改善されていく事にはなるんだが、そこまで落ちる必要あった?という気はする。とはいえこの1月、2月はスケジュールも本当にしんどくて、違う事をやるというのもすごく難しい時期。結果的に悪いところを全部吐き出す事が出来た。シメオネもスッキリしたでしょう。

そのレバンテ戦のレビューで書いた、

"そんな事はしないと信じているからこそ言うが、シメオネ。如何なる理由があれ、今チームを投げ出したらあなたは負け犬だ"

という言葉、今でも全面的にそう思っている。もちろん投げ出さないと思ったから。新しい積み重ねを始めると思っていたからだ。二度と味わいたくはないが、新しい事が始まるというあの時のワクワク感はまた味わってみたいなという気持ちもある。それではいよいよ、ポジティブな時期の話に移ろう。

■全てを変えたオサスナ戦。新しいアトレティコ・マドリー
レバンテ戦の敗戦から中3日のオサスナ戦。ここでシステム、配置を変更する。

まあ正直この記事に全部書いたんだけど。せっかくシーズンも終わったので今あらためてまとめてみよう。アトレティコが取り組んだのは以下になる。詳細は"●今季の特徴"の項で。

・CH2枚(コケとエレーラ)からの球出し
・前4枚で相手最終ラインと正対するプレス
・CH2枚の捕まえる相手は前
・撤退は5枚揃える
・CBの矢印は前

一口にシステム変更と言っても引き続き4バックのような5バックのような形を行ったり来たりしていたんだが。メンバーが変わっても、変化しなかったこのシステムの基本形は上記の辺りになる。これをベースにチームはCL決勝トーナメントに挑む。

■トラウマの撃破
CL決勝トーナメント初戦の相手はマンチェスター・ユナイテッド。最初はバイエルンを引いたが、なんかトラブって変わった。運命力である。またロナウドと試合が出来る。ワクワクした。
ちょうどアトレティコは週末に新システムを初めて試したばかり。本当にギリギリ間に合ったか間に合ってないかくらい。ここで勝てば。ベスト8にさえ行ければ、内容はともかく振り返った時にギリギリの合格点を付けられるのではないか。そんな試合。
おれ自身ユナイテッドの試合を15試合見て隅々まで分析して試合に臨んだ。ちなみに今だから言うけど1試合も面白くなくてまじで最悪な日々だった。二度と見たくない。

戦った結果はご存知の通り。ユナイテッドの不恰好なビルドアップ、激ゆるの中盤プレスが見事にアトレティコの取り組んでいる特徴にハマり、1stレグ終盤にたった一発のカウンターで失点した以外は2戦通じて出来る事、やりたい事を整理した良い試合が出来た。完勝。まるでここが決勝戦かのように、全ての矢印がこの試合に向いた。会心の勝利だった。結果的にはギリギリで間に合ったのだ。

■シティに敗戦、CL圏内の確保
準々決勝はさすがにそう上手い事行かず、マンチェスター・シティに2戦合計0-1で敗戦。
1stレグの5-5-0フォーメーションは世界の笑いものになったが、個人的には必然の帰結だったように思う。ちゃんと理屈を考えれば。

まず基本形。5-3-2撤退。この日は4-4-2配置で相手SBを捕まえに行く前方プレスは封印。
相手WGには大外のWB(ヴルサリコとロディ)が消し、3CBでトップ(ベルナルド・シルバ)とIHにきっちり対応。前に出る対応も本当に良くやれていた。

ライン間の出し入れにCBが勇気を持って前向きプッシュ。この後方5バックのタスク規定をベースに、アンカーのロドリの球出しをコケが永遠に見張り続けた。

コケがロドリを見張ってサイドチェンジさせない。
アトレティコはシティのCBからボールを奪うのは難しく、前線の守備で警戒したいのはSBの持ち上がりであった。

ここ。どうしましょう、というところで、ここをFWが埋める。

埋めた。5-5-0という文字の並びだけが一人歩きするが、こういう話の順番で考えると現実的にシティの前進を止める手段としては、これしかやりようがなかった。そしてある程度効果的だった。これじゃ絶対点取れないんだけどな。それでも2点差を付けられたら試合が終わってしまう。残念だが仕方ない選択だった。しかも一定の成果は得た。
後半はグリーズマンを前方に残す5-4-1に変更。5-5-0では90分耐えきれないという決断だった。それが圧力に屈するからなのか、心が折れるからなのか。
唯一の失点はフォーデンとデ・ブライネのスペシャルな質で。防ぎようのない一発だった。あれなら諦めが付く。仕方ない。あれは、、、

この1stレグの戦いによって2ndレグの後半、あとは点を取るだけの状況を作るに至った。惜しかったね。本当に惜しかった。勇敢に戦った45分。90分。180分。アトレティコの狙いは全て見られた。全てやった。その上で及ばなかった。ディテールを詰める時間がなかったのと、そもそも決め切る質に欠いた。ここが到達点だ。また一からだ。

ラリーガに話を移すと、シティ戦の間にマジョルカに負け(マジョルカには2戦2敗)、グラナダに引き分けてアトレティックに負けるなど、全力でグダグダしていった。目標設定も難しくもどかしい時期。
結局、34節で優勝を決めたマドリーのターンオーバーにも助けられてダービー勝利、36節にエルチェに勝ってなんとかCL出場権は確保した。



●今季の取り組み

繰り返しになるが今季のアトレティコがシステム・配置で取り組まなければならなかった改善は主に2つ。
・ビルドアップルートの変更
・前プレの改善

の2点。システム・配置では、2点ね。

ビルドアップルートに関しては、先季の優勝の財産が試合で生きなくなり、優勝したサッカーを全面的に否定するところから始まった。これは仕方ない。スアレスは点を取れないしカラスコは絶対的でなく、ルマルも健康体ではなかった。ちゃんと守ってくる相手にはエルモソから球出しする事も儘ならず、そうなるともう全部変えなきゃいけない。決める人を変える、崩す人を変える、ボールの出し手を変える、だ。頭が痛くなる。

一方の前プレはプレスが駄目とか以前の問題で、前プレしたかったら5-3-2配置は駄目とか、抜本的な解決が必要。

今季の5-3-2撤退。2トップが無理やり限定しようと追いかけるが、

連動がなく、むしろスペースを作ってしまい、2列目のプレスに繋がらない。



こうなると、ビルドアップと前プレ2つ合わせて結局システムごと変えるしかないですね。というのが今季取り組まなければならない改善であった。

システムを変える、と簡単に言うが、左HVエルモソからトライアングルを作ってオーバーロード、カラスコの質を使ってPA内にはスアレス。逆サイドでジョレンテとコレアがチャンネルを狙う。

先季の。この仕組みを一回全部忘れましょうという話だ。だって全部駄目なんだもん。全部の狙いを変えなきゃ駄目。シーズン中に行うにはなかなかハードルの高い手術であった。
そして、この変更の精神性は少し複雑だ。19-20、20-21シーズンに(部分的にはもっと以前から)アトレティコが取り組んでいた3バックビルドはそもそもが、アトレティコの4-4-2固定システムでは有機的にボールを握って相手を崩すのは難しい。という要件からスタートしているシステムである。保持から点が取れないね。じゃあどうするの?4-4-2に戻るの?というのは、なかなかに難しい決断だ。変化に逆行する事にもなりかねない。色んな物を捨てる覚悟が必要な決断であった。それだけに、シメオネも思い切った決断をした。一定の成果が出た事は本当にホッとした出来事であった。

エクトル・エレーラシステムは、その仕組みだけを切り取ると
・相手の後方保持には4-4-2の前プレで相手最終ラインに圧力をかける。CHとSBを取り所に設定

・引き込んで撤退は5-3-2。各所の対人で負けない事を前提に、3CBが前向きにライン間を潰す仕組みが不可欠。

バルサ戦ではトップのフェラン・トーレスの縦挙動にやられにやられた箇所。よくここまで改善した。感動レベル。
おれ個人では、3CBがPAに張り付いて前に出られず押し込まれる形はずーっと指摘していた。先季から。下手したら先々季から。バルサに4点取られるまで気付けないもののようにも思えないが、本当に時間がかかった。そして改善した。よかった。

保持の話に移る。
・ポジトラはエレーラの質とフェリックスの解決力。

ユナイテッド戦1st。エレーラが、どんな体勢でもボールを呼び込める事が前提条件。エレーラにボールが入る動きに呼応してフェリックスが近寄る。背後をロディが狙う。
アトレティコは"CBからクリーンにボールを引き出せるMFが全然いない"という、よく考えたらなんでやねんというチームなので、エレーラがいなかったらただの前進出来ない4-4-2だった。
さらにグリーズマンの異能を使ってむしろチームの長所に変える。ライン間の顔出し、トライアングルの形成、そして単独のドリブルゲインでチームのボール保持を一人で解決させてみせた。

ユナイテッド戦2ndの先制点。グリーズマンがトライアングルを作り出してフェリックスの裏抜けを使った。

今季のグリーズマンはとにかく点が取れなかったが局所での課題解決力は衰え知らず。特にシステム移行期の不安定なチームにおいてはとりあえずどうにか出来る彼の能力は大いに役立った。

・崩しのフェーズは中央。エレーラからグリーズマンとフェリックスを使った関係性で前進し、回答は逆サイド大外特攻。

これもユナイテッド戦1st。
この崩しのフェーズにおいては足下でボールを欲しがるカラスコよりも永遠に縦挙動を繰り返せるロディがピタリとハマり、大活躍した。ロディはファーストタッチが異次元に上手いので
・ずっと相手SBの背後を狙っている
・速いボールが出てくる
・ピタリとコントロール
・GK前にインサイドで流し込む

の形だけ、完璧にマスターした。そして何故かたまに自分で貴重なゴールを決めた。

エクトル・エレーラシステムの仕組みは、こんな感じだ。

あと足りない箇所、急造で手が回らない所はコケを中心に気合と根性でどうにかする。理屈に精神をトッピングした。この気合と根性こそが、前半戦のチームに圧倒的に足りない部分でもあった。

・崩しのフェーズ
今季、最後まで構築出来なかったのは、最後の崩しの部分。まあストライカーの使い方もシステムもころころ変わっていたので、そこをガチっとハメるタイミングがないままシーズンが過ぎて行った印象。シティ戦で最後の最後及ばなかった原因はここにあった。良い形でボールを奪い、フェリックスがボールを呼び込んでもそのタイミングでパスが出て来ない、を繰り返した。この"タイミングを合わせる"の部分がシーズン終盤、4月に出来ないとなるとCLを勝ち抜くのは難しい。それも積み重ね。文脈。どうやって相手PAを崩すかの試行錯誤と意思共有を生み出す、という取り組みを出来なかったシーズンであった。来季に向けての大きな課題であり、フェリックスがワールドクラスに手をかけるためには絶対に必要な箇所。期待したい。

・気合と根性
おれが設定していた今季のテーマだ。ここが改善した理由を、相手選手との距離感の改善と捉えたい。"頑張る要素を持てるシステム"だったと言い換えてもいい。

今季の5-3-2はとにかく、相手選手との距離感が合わなかった。2トップはどれだけ追いかけ回してもボールを奪える可能性すらなく、IHは相手SBにボールを持ち出されても指を咥えて見ているしかなく、WBは相手ウイングにピン留めされて守備組織から切り外され、目の前の相手を捕まえられないCBはPAに張り付いているだけ。
どこで、誰が、どう頑張ればボールが奪えるのかがわからない守備組織は、保たない。それを痛感した日々だった。頑張ったら報われる守備組織になっていないといけない。頑張れる箇所を残さなくては戦えない。そのためには、やはり4-4-2だった。

両翼が相手SBに圧力をかける事によって、2トップは2CB+アンカーを消す事に専念出来る
CHは前向きに。積極的に飛び出す。届く距離。いけると思えるタイミングで前へ、前へ。

その対応に不可欠だったのは、最終ラインが前で潰せる事、そして、背走で負けない事。この2点だ。

CBが前で潰せるのでMFの意識は前方。良い形。
DFが前に出て来ないと、CHが前方へアタック出来ない。そして簡単に裏を取られるようでは、4バックで構える事が出来ず、ズルズルと5バックになる、IHの脇を使われるので前プレが効かない、に逆戻りだ。

23節バルサ戦。プレスが効かない。

そのために必要だったのが、ヘイニウド・マンダヴァであった。彼の加入こそ、アトレティコが、エクトル・エレーラシステムが機能し始めるための原動力であった。というかヘイニウド・マンダヴァシステムなのだ、これは。

このシステムは、アトレティコを最低限の目標へと導いた。それはCLベスト8進出と、来季のCL出場権の獲得だ。
この新システムは、アトレティコをラリーガ6連勝に導く。その間にはCL出場権を争う直接のライバル、ベティスを下している。
そしてCL決勝トーナメントRound16では、マンチェスター・ユナイテッドを倒し、ベスト8へ。
結局、CLではシティに敗れ、怪我人が出てからはラリーガでも勝ち点を落とし、このシステムを継続すればこれからのアトレティコは安泰だ、とはならなかった。正直それも含めて予想通りだ。あくまでも、今を乗り切るための戦術だったと思う。ここから先、来季に向けてはもう一点取れるソリューションを、という感じ。それをフェリックスがやるのか、新加入選手がやるのか、はたまたグリーズマンがやるのか。両サイドはどうするのか。CBは補強するのか。来季の戦い方は何もかも白紙である。多くのものを失い、色んな事を諦めた先に、今季の結果がある。削ぎ落として削ぎ落として、残った最後の部分。辿り着いたのは縋るべき実家、4-4-2であった。気合と根性を発揮出来る距離感で、相手選手と対峙する事が出来るシステム。ただし、それでこのチームがもう一段、階段登る事が出来るのかどうかは未確認、あるいは限りなく厳しいという結果でシーズンを終えた。だから、また一からなのだ。

・ベースとなるのは
ただし、ベースとすべき部分が見えた。失い、諦め、削ぎ落とした。その残った部分こそが、"アトレティコらしさ"なのではないかと、今は解釈している。

それは、頑張ればリターンがある守備組織。これは、このチームには必須だろう。
そもそもその能力を買われてアトレティコに来たという選手が多いチームだ。球際でぶつかり合い、必要以上のランニングを求められてこそ能力を発揮出来る選手が揃っているのだから、そう戦うべきだ。エクトル・エレーラシステムの前プレは、美しくはない。取り所に設定しているのは五分五分の確率でぶつかり合うCHでありSBだ。ハメている感じはあまりない。無理矢理、不恰好に奪う。だが、それでいいのだろう。数的優位を準備して相手を追い込むような守備を設定したところで上手くいかなかったのだ。このクラブのベーシックはぶつかり合い。タイマン。奪い合い。その能力が不十分であれば試合には出られない。来季以降も、きっとそうだ。



●来季へ向けて

スアレスとエレーラの退団も決まり、補強ポイントはたくさんあるアトレティコ。
まずは右SB。ジョレンテも非保持の質が上がり、マンチェスター・シティ相手でも対人の化け物っぷりを発揮していたが、本当の意味で彼の攻撃性能を生かすには、もう一つ前に配置したい事は変わらない。代役を任せられる右SBがどうしても必要になる。このチームのSBに求められるのは撤退時のスピード、フィジカルと、攻撃では大外の崩しに関与する事。ビルドアップの性能はそんなに問われないのが現状。適任者を探してきたいところ。

あとはCBとかCHとかでしょうか。大物の名前もちらほら出ているFWのオペレーションはどうなるんでしょうね。おれ自身思うところは割とあるけど、まずは成り行きを見守りたい。



●最後に

選手も、もちろんシメオネも、大いに苦しんだシーズンであった。その多くが産みの苦しみではなく、単に現状の解決のためにもがく時間だった事が、より苦しかった。この一年を無駄にしない事が必要だ。どんなサッカーは駄目だったのか、どんなプレーは効果的ではなかったのか。
これまでシメオネのアトレティコは、マイナーチェンジはあるにしてもある程度自分達の根幹がしっかりしていればそれなりの成績が出るチームであり続けた。こういう喪失感は、シメオネ自身11年で初めてだったのかもしれない。そう思うと、面白い時期に立ち会えているなとも思う。何事もポジティブにだ。アトレティコは膿を出し切り、脱皮が求められている。さて来季は、どんなチームに?
アンチェロッティのマドリーは、新しいバランスでCLを制した。
チャビのバルサは、ポジティブな未来を提示した。
さて、シメオネのアトレティコは?
いつだって2強に挑んできた。それこそが、アトレティコのアイデンティティだろう。王者ではない。勝者でも、ないかもしれない。だが、勝ちたいのだ。マドリーに。CLを取りたいんだ。諦めが悪いのだ。どうしようもなく。

その時がいつ来るかはわからないし、来季来るようにもあまり思えないが、シメオネが諦めないのに、試合を見てるだけの人間がそんな簡単に諦めていいのか?
おれはシメオネのチームが目標を達成したその時に、"信じてたよ"と言いたい。びっくりするくらいでかい声で叫びたい。おれのツイート全部掘り返してもらっても構わないよ、一度も疑わなかったよと、言いたい。アトレティコにどんなチームであって欲しいかより先に、そんなくだらない人間になりたくない。手のひらなんか返したくない。無理だろうなんて言いたくない。"厳しい事も言ったけどやっぱりアトレティコなんだよな"とか馬鹿みたいな事、こっちが恥ずかしくなる。辞めろなんて軽々しくよく言えるもんだな。おれは、信じていたい。誰よりも。そのために見る。そのために書く。このチームの未来に幸運が待っている事を。勝利の喜びをいつも祈っている。来季も楽しく、サッカーを見られますように。

今年も一年間ありがとうございました。いつもたくさんの反応に感謝しています。誰も反応しなかった頃から毎週飽きもせず書いていたので、別に反応してもらうために書いてるわけではない。誰も反応してくれなくても書く。ただ書きたい。アトレティコを。それだけがモチベーション。たまにキレてる時も、見守ってもらえると。

キツい時、ちょっとだけ反応が気になる時も、誰にも見向きもされなかった頃からずっと温かい言葉をかけてくれる3人が、反応してるかな、読んでるかなってだけ、確認する。本当にいつもありがとう。いつか4人で飲みながら、アトレティコの試合を見る事が密かな夢です。

最後です。今季も全記事、全文章無料で公開してきたし、この記事も全部無料ですが、最後の記事なので初めての試みを。

もしよろしければ、サポートいただけますと幸いです。サポートしてくださった方だけに限定で、"あの7文字"をお送りさせてください。笑

本当に一年間、それ以上、ありがとうございました!21-22シーズン、これにて完結。



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