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その方法で駆け上がれ 30節 アトレティコvsバルサ(A) 2023.4.23

大一番。6連勝、13戦無敗のアトレティコはカンプノウへ乗り込む。
対するは首位独走中のバルサ。リーグ戦で前回負けた相手はバルサである。
バルサはマドリーに敗れたコパデルレイ準決勝、そしてプリメーラはここ2戦をスコアレスドロー。足踏みしているが今一番調子の良いアトレティコを叩いて優勝へ近づけるか。

前回対戦はfootballistaにて

"保持に拘ったアトレティコ"というまとめ方のできる試合。現実的に無謀なチャレンジにも見えたがストライカー不在のメンバーを選び、さらにバリオスの才能に期待してまで無理やり拘った。効果的にバルサのプレスを外すことはできなかったが、一方で非保持はほぼ完璧。矛盾のない5-3-2を配置し中盤のスライドと大外の対人で譲らず、レヴァンドフスキ不在のバルサ相手に善戦した。結果的にはペドリのセンスに沈んだ試合であった。そしてこの日は負ければ色々な今季の目標が全て終わりそうな一戦。善戦はいらない。良いサッカーもいらない。3ポイントを。


●スタメン
・アトレティコ
オブラク
モリーナ / サヴィッチ / ヒメネス / エルモソ
ヴィツェル / デ・パウル / ルマル / カラスコ
グリーズマン / コレア

累積で出場停止のジョレンテの代わりはルマル。
なんとコケが直前の怪我でスタメンから外れた。ヴィツェルを起用する。コケはラリーガに限ればスタメンを外れるのは15節エルチェ戦以来。

・バルサ
テアシュテーゲン
クンデ / アラウホ / マルコス・アロンソ / バルデ
ブスケツ / フレンキー・デ・ヨング / ガビ
ハフィーニャ / フェラン・トーレス / レヴァンドフスキ

フレンキー・デ・ヨングが26節のクラシコ以来のスタメン復帰。ペドリはベンチ入り。クリステンセンとデンベレは間に合わず。
左WGにフェラン・トーレス。



どうやらアトレティコの優勝確率は0.20%とのこと。いけるじゃん。勝ちましょう。


●バルサのボール保持とアトレティコの対抗
前半の印象は、思ったほどボールを握れなかったアトレティコと、フレンキー復帰の効果が非常に大きかったバルサという構図になった。

まず開始42秒、マルコス・アロンソが頭で処理したボールを拾ったブスケツを囲み、いきなりグリーズマンのシュートがバーに当たる。惜しかった。楽な展開にしたかったけどね。

前半は66%バルサがボールを保持。全体感を見ていく。

まずは配置。
バルサは左SBのバルデがWGポジション。フェラン・トーレスはガビと並列になり3-2-5を作る。アトレティコは5-3-2非保持からクンデの位置へIHルマルが出ていく。最近は右でジョレンテがやっている仕事。

アトレティコは中盤から前の5人がカバーシャドウというか、各々が背後のエリアに縦パスを入れさせないことを意識する。2トップ(+ルマルの3人)はマーク対象へのプレスよりもブスケツ&フレンキーにクリーンに前を向かせないことを強めに意識し、不十分な体勢でボールに触らせるか、中央エリアから追い出そうと画策した。
この守り方は最近のアトレティコの守備が上手く機能している主要因と言える。ブスケツ&フレンキーが中央から配球できないとなればバルサの侵入は主にクンデ&アロンソが外側から配球する形となる。

こうなればアトレティコの最終ラインはバルサの前線5枚に対して数的同数のマンツーマンで対応できている環境となり、自分のマークマンへのボールをどこまでも追いかけることができる。
押し込まれると嫌な感じがしたのが、クンデがランダムに大外ポジションを取ってくる形。

クンデにカラスコが対応させられるとハフィーニャが内側へ移動し、ガビが中盤へ降りていく。ガビが解放されてハフィーニャの対応をエルモソがしないといけない形はアトレティコからすると望ましくない。

アトレティコはマドリー戦でもハーフスペースへの縦パスにHV(サヴィッチ&エルモソ)が迎撃する形が機能したが、相手最終ラインからの配球であればある程度選択肢を絞って対応可能であり、アトレティコは優位に試合を進めるための要素を手にしていると言えた。ただ、結果はご覧の通りである。アトレティコの誤算を2点挙げる。

①コケの不在 ヴィツェルの機動力
アトレティコの前線5枚、3CH+2FWの圧力が機能する主要因はコケの守備能力、状況把握能力、危機察知能力、そして機動力による。
危険なパスコースを埋める。横移動でバランスを維持する。奪えそうなら飛び込む。そしてボール奪取後に素早い切替でグリーズマンを前向きにするパスを送り込む。
この役割を代替するのは簡単ではない。じゃあ他のチームってどうやって5-3-2で守ってるんだろうねという話で、まあラインを下げるんだろうなという話になってくる。ようはヘタフェだ。5-3-2で敵陣の圧力を保つ、プレスにすっ飛んでいくおバカさん(ex.ジョレンテ)が空けたスペースを潰す、という作業はあまりにも難しい。ヴィツェルの資質云々の前に、アトレティコはそもそもコケがいないと成り立たないことをやっているのかもしれない。
ヴィツェルは中央エリアの守備対応で無理が効かず、またボール奪取後にアトレティコ自身のトランジションスピードについていくことができずボールロストを繰り返すこととなった。

4:40の場面。
バルサはクンデの持ち出しでパスコースが見えている。アトレティコはカラスコがハフィーニャとタイマン。ここは終始封じ込めることができていた。バルサはレヴァンドフスキがボールサイドへ流れてエルモソの気を引いて足下でボールを受ける狙い。ガビを自由にする形を使って、この場面ではガビが最終ラインの背後へランニングした。アトレティコはヒメネスがスライドして対応する準備をしたが、ここでクンデは斜めに侵入するブスケツへパスを通した。
これは5-3-2で守る限り痛恨である。中盤3枚が後ろ向きの対応を強いられ、5バックによる数的均衡を一発でひっくり返され兼ねない危険なボールだった。

②フェラン・トーレスのリンク力
評価が上がらないフェラン・トーレス。この日はスタメン起用された。シュートを外しまくってぬか喜びストライカー感のある選手だが、おれは非常に高く評価している。起用しないで欲しかった。
彼の特徴は大外・内側を選ばず付近の選手とリンクできることにある。味方と肩が触れるくらいの距離を駆け抜けて相手最終ラインの背後を取れる選手。スペイン的という表現が合っているかはわからないがそんな感じ。この日もレヴァンドフスキに近づき、その能力を発揮する。チャンスメイクしたのは23:50の場面。

ボールを持つマルコス・アロンソがクリーンに前を向いている。前述の通りアトレティコの守備対応は大外のバルデの足下か、ハーフスペースに立つ選手の足下へのボール、あるいは背後だけ警戒している。
この場面でレヴァンドフスキが本来フェラン・トーレスをマークするべきサヴィッチの前まで動きパスを要求。低い位置に逃げたフェラン・トーレスは縦パスに反応して一気にサヴィッチの背後へ走りスルーパスを引き出した。アトレティコの最終ラインは人を基準にマークマンをはっきりさせる対応をしているため、こういうボールへの反応が遅れる。ヒメネスがカバーしなければならない責任エリアが広く、思い切って持ち場を離れづらいという欠点が見える場面である。
この時はヒメネスが冷静にスライドし、フェラン・トーレスの持ち前の詰めの甘さで難を逃れることとなったが、レヴァンドフスキは頻りにこの形を画策していた。
アトレティコとして助かったのが右のハーフスペースに立つガビがレヴァンドフスキよりも大外のハフィーニャとのリンクを意識していたため、このポジションチェンジが単発で終わっていたこと。ここにペドリがいると話が変わってくるんだろうなという前半であった。


⚫︎アトレティコの攻撃手順は
アトレティコの攻撃に話を移す。全体的には前回対戦同様、ボールを奪った地点からバルサの再奪回に怯まず地上戦での攻略を目指すことが主題となった。バルサの3-2-5の両翼に対応するため両WB(モリーナ&カラスコ)のスタートポジションが低い位置(当社比)となるため蹴っ飛ばしても前にコレアしかいない。地上戦しか前進の方法はなく、プレス回避に攻撃の全てを賭けるという様相になっていく。
このプレス回避でもコケ不在の影響がモロに出た。スペイン代表級MFの直接比較でいえばたいして技術に長けた選手ではないコケだが、高圧力下での技術、どうにかする作法に関してはさすがに場数が違う。土日ランチタイムのワンオペのキッチンをたった一人で回してきただけのことはある。フライヤーの魔術師とは彼のことだ。
コケのとにかく優れている点はどんな体勢、どんなプレッシャー下でもグリーズマンにボールを届ける能力に集約される。絶対にグリーズマンを見失わない。それが一番確実で効果的だから。この日代わりに中央に入ったヴィツェルは前方へのパスコースを見つけられず、効果的なダイレクトパスを繋ぐことができなかった。

そもそも相手がバルサとあっては押し込んだところでアトレティコの攻撃の期待値は低い。ビルドアップを確立させるのではなくさっさと前線のグリーズマンにボールを預けてモリーナ&カラスコが突っ走ってなんだか攻略しちゃいました的な攻撃をする方が確率が高く、最終ラインを使ってビルドアップ確立を目指すヴィツェルのプレーは効果的ではなかった。ジョレンテという異常走力マンがいないことももちろん多大な影響があったが、結果的にプレス回避の全タスクをデ・パウル一人で背負い込み、彼が前線にボールを届けるorモリーナを使うorカラスコまでロングボールを送る以外にトランジションの手立てを失った前半はなかなかに苦しかった。それでもグリーズマン周辺から2度、35分にはカラスコが単独でクンデを攻略してグリーズマンに決定機を準備するなどした。どれか決まっていればと言ってしまえばそこまでだが、それなりのチャンスメイクはできた。

年明け以降の各試合と比較するとチャンスメイクどころかボール保持の時間も短かったアトレティコだが、今のシステムは前線からのプレスで相手からボールを取り上げるシステムではないのでバルサが後方3-2で保持を確立してくれば試行回数が減るのは仕方がない。仕方ないというか当たり前にそうなる。
試行回数は減る。でも非保持のリスクを排除してボール奪取、プレス回避を活かして敵陣侵入。というプラン自体は試合前に準備したものがはっきりと出ていた。誤算はプレス回避そのものが機能せずにバルサに脅威を感じさせる機会を増やせなかったことに尽きる。欠場者を理由にしてしまえばそこまで。
そして前半のうちに失点してしまう。アバウトに蹴ってバルサにボールを回収されたが誰も守備体形を整える準備をしておらず、ハフィーニャの背後目掛けて雑に蹴り込まれた箇所でエルモソが後手に回る。ハフィーニャはこういうランダム性のある展開の方が生きるよな。じゃあバルサにいても駄目じゃんとか言われたら知らんけど。折り返したボールをフェラン・トーレスがしっかりフィニッシュ。サヴィッチは外を回った選手の対応を優先したがまあフェラン・トーレスなら外しそうだし対応はあれで良かったでしょう。残念な時間帯に残念な形で失点してしまった。勝負弱かったなという印象。

試合を動かしたいアトレティコの選手交代は59分。コレアに替えてモラタを入れることで、プレス回避というより一気に相手最終ラインの背後を狙うボールでチャンスを作っていく。同じタイミングでバルサはイエローカードをもらっているマルコス・アロンソに替えてエリック・ガルシアを投入しているが、スピードでもパワーでもモラタが圧倒し、ここから75分頃までいくつもチャンスを作れた。一番のチャンスは73分にモラタ→グリーズマンのシーンか。

アトレティコが試合のペースをあげたことでスペースを得たバルサも決定機を得ていく。ハフィーニャがいくつも外してくれてアトレティコとしては助かっていたが、中盤で途中投入のバリオスとサウルが一気に前方向への圧力を強めたところで76分にはロングボールでレヴァンドフスキにフリーで独走されるなど、かなり危なかった。中盤では21節ビジャレアル戦以来久しぶりの復帰となったペドリが捉え所のないプレーを披露し、バルサがピッチの支配を取り戻していった。

アトレティコの最後の武器はエルモソ→レギロンの交代。最近は試合終盤に得点が必要な試合がなかった&レギロンが怪我をしていたため久しぶりになったが、CBを1枚削ってサイドアタッカーを増やす形は今季の形として作ろうとしていたもの。上手く中間ポジションで最終ラインからパスを引き出してカラスコと協力して左サイドを侵入していったプレーは一定の効果があったと言える。
この日はデ・パウルとバリオスの攻め上がりを制限することなくサウルが後方のバランスを一人で監視し、なんとか崩壊しないように努めた。こういう試合終盤に保持と撤退でなんとなく逃げ切れるのが今季のバルサの特徴。アトレティコは必須にゴールに迫ろうにも肩透かしを喰らいながらジリジリ時間を消費していき、試合を終えた。


●試合結果
アトレティコは1月8日のホームでのバルサ戦以来、14試合ぶりの敗戦。これでラリーガタイトルは終戦となった。

今季のアトレティコが取り組んできたこととは、攻撃の試行回数で押し切るというものだ。前線のタレント力を生かし、試行回数さえ増やすことができればどんな相手からでも得点を奪える。特にシーズン後半戦に入り、明確に中心に据えられたグリーズマンは配置とシステム、タスクから外れた不規則性にこそ特徴を生かす術があり、その不規則性から得点機を引き出すには試行回数を増やすことが必要であり、最も効果的であった。
この日はバルサが相手だから試行回数が少なかった。理由は、アトレティコが試行回数を増やしていく手段は前プレで相手の保持機会を制限することではなく、敵陣でのボールロスト後の再奪回にある。バルサは特に、アトレティコの攻撃がシュートで終わった際はGKからのやり直しでビルドアップを確立し、都度アトレティコは非保持体形の整備が必要となり、攻撃機会がとことん少なくなっていった。それがこの試合の正体であろう。

しかし、”じゃあ前プレしろよ”では話が先に進まない。普段よりも試行回数が少ない中でも前半にグリーズマンの得点機を複数準備することができていたし、失点こそ偶発的であった。アトレティコ側のこの試合に臨む態度は、怪我人の有無を抜きに考えても当人達には満足できるものだったのではないか。個人的にこのチームの進むべき方向性に矛盾は感じない。このスタイルで突き詰めるものはまだある。シメオネにはまだこのサッカーでチャレンジしてもらいたい。

バランスを前方に傾けた後半に、前半以上にピンチが増えたことからも、試合開始前のアトレティコのプランにこそ勝利への正当性があったと考える。惜しむらくは前半の失点だったのだ。それでも後半、モラタを生かしてゲームペースを変え、別のベクトルから攻撃を盛り返していったのは最近の積み上げの成果だろう。惜しかった。バルサは鉄壁で、簡単ではなかったが望まない失点をしてペースを上げる必要が出た後半にしっかり試合のペースを調整できたのは間違いなくチームの取り組みの産物で、全方向性を目指した結果であった。少なくとも前回のホームゲームよりは可能性を示せただろう。

ここからの戦い、残り8試合はマドリーが星を落とした時に2位になる準備をしていく程度のものになってしまった。残念ながら終戦だ。ミッドウィークにマジョルカ戦を控え、振り返る時間もあまり残されていないが、来季に向けた目線も必要となってくるだろう。タイトル獲得は来季へ持ち越し。ひとまず、お疲れ様でした。


4/23
スポティファイ・カンプ・ノウ
バルサ 1-0 アトレティコ
得点者
【バルサ】’44 フェラン・トーレス


●ピックアップ選手
グリーズマン
危険な場面でプレスバックしてボール奪取を連発。敵陣では全責任を背負ってゴールに迫った。

カラスコ
時折クンデを上回り単独で解決。90分間休むことなくフル稼働した。

ヒメネス
レヴァンドフスキを見張りながら左右のサポートにも気を配る難しいタスクを完遂。配球も頑張った。

モリーナ
サイドでバルデを完封しながらデ・パウルのパスを信じて上下動を繰り返した。ジョレンテ不在で右サイド攻略に単独の突破が必要だったが存分に能力を発揮した。

モラタ
スピードとダイナミズムで特徴が出る展開を自ら作り出しゴールに迫った。十分信頼に足るパフォーマンス。

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