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運命力を信じて CL4節 アトレティコvsパリ・サンジェルマン(A) 2024.11.6

ポット1とのアウェーゲーム。設定上は一番難しい試合。パリSGとは案外公式戦では初対戦となる。
CLは12年連続決勝トーナメント進出中。あまりイメージがなかったが普通にかなり凄かった。今季はここまで国内では8勝2分と負け無しで首位。定位置と言ってもいいでしょう。

ここまでのCL3試合は

vsジローナ(H) ○1-0 ※ポット4
vsアーセナル(A) ●0-2 ※ポット2
vsPSV(H) △1-1 ※ポット3

アトレティコは人の事を言えた立場じゃないがポット1としてはけっこうまずい。ちなみにアトレティコがもう一つ対戦したポット1のライプツィヒは前日に4節を終えて4連敗。実はくじ運がとても良い可能性が浮上してきた。



●スタメン

・アトレティコ
オブラク
モリーナ / ヴィツェル / ラングレ / ハビ・ガラン
ジュリアーノ / デ・パウル / バリオス / ギャラガー
グリーズマン / アルバレス

ジュリアーノとハビ・ガランを継続。CBはヒメネスが累積警告で出場停止。ラングレを使う。
コケはベンチから。強度を優先した。

・パリ・サンジェルマン
ドンナルンマ
ハキミ / マルキーニョス / パチョ / ヌーノ・メンデス
ヴィティーニャ / ザイール=エメリ / ジョアン・ネヴェス
デンベレ / アセンシオ / バルコラ

最近こんなメンバーらしい。CBのパチョという選手は初見。フランクフルトから移籍してきた23歳。CFのアセンシオの立ち位置がポイントになりそう。



●前半

・大外を守る
・SBを助ける
・どうやって進む

お品書き

パリSGの保持形。

左SBのヌーノ・メンデスが最終ラインに参加して3枚。左大外はバルコラで独占。IHのジョアン・ネヴェスは主にヴィティーニャのサポート。ザイール=エメリはアセンシオとリンクする。
アンカーポジションのヴィティーニャにはグリーズマンが珍しく張り付きタスクだった。ジュリアーノは低い位置で構えて、後方3枚の中央のパチョがボールを持つと緩やかにヌーノ・メンデスの視界に入り、ドライブを警戒。

その上でヌーノ・メンデスからバルコラへのパスルートを確実に背中で消してボールの循環を止めた。

特徴的だったのはパリSGの右サイドで、ジュリアーノと違ってギャラガーは中盤ラインに留まり意識はバリオスの横。この辺が今のシステムはあくまでも5-3-2がベースとなっている由縁である。高い位置に出てくるハキミのポジションに左右されず、そしてハビ・ガランは内でも外でもデンベレのマークを担当するので普通にハキミは空いていた。今年のCLは珍しく対戦チームの事前情報が全くないのでこの対応の意図はわからないまま。

9:25の場面。シンプルにハキミの裏抜けを使われている。さすがに押し込まれるとギャラガーが落ちてハキミに張り付いたが。パリSGは全体的に選手のレーン移動が少ないので「マンツーマンしなさい」と言われれば完璧にできる状況で、こうなるとアトレティコはそんなに苦労はなかった。
両WGに対してはバルコラはモリーナの得意分野で、肝心のデンベレの相手はハビ・ガランが相当頑張った。ラングレとギャラガーの助けを借りながらではあるが、助かったのは縦突破されて深い位置からのクロスであればゴール前にいるのはアセンシオとザイール=エメリなので全然怖くなかった事。
アトレティコはもちろん相手の両SBの対応でジュリアーノとギャラガーを押し込まれて6-2-2のようになる時間帯もあったがこれはこれで失点する様子は全くなかったので自然と受け入れた。

当然、この配置から攻撃に出るためにはビルドアップが必要であり、「ボールを奪った瞬間を大事にしよう」という設定はあった。その中で、14分にラングレがデンベレの猛烈なプレスに捕まって失点。シンプルなミスだが「ボールを繋ごう」という設定がある割にはMF勢の諦めが早く「蹴っていいよ」という態度だったのは問題。今季ボールを持てていないのはこういう所だなという失点。
とはいえラングレはこういう場面でボールをつなげるから獲得したのであって、やってはいけないミスだった。

失点したとはいえアプローチは変えず、すぐにハビ・ガランが敵陣でのボール奪取を2つ。その2つ目がジュリアーノの枠内シュートに繋がった。これはドンナルンマに止められたもののセカンドチャンスでモリーナがゴール方向へアタックして同点ゴールをゲット。モリーナは最近大外の仕事から解放される事でむしろ自身の仕事に集中できているのは良い傾向で、その中で貴重なゴールを決めた。意外とCL初ゴール。

その後は再度自陣での撤退を整理。時々デ・パウルがヴィティーニャとジョアン・ネヴェス2人をまとめてマークし、前向きにボールを奪いに飛び出していった。自分の仕事がはっきりと規定されている時のデ・パウルは本当に頼りになる。改めて"2人まとめてマーク"ってなんだよ。

パリSGの攻撃は各所でのユニットアタックをベースとしているがバグメイクは中間ポジションを取るザイール=エメリに一任し、立ち位置を大事にするルイス・エンリケらしいサッカー。しかし繰り返しになるがクロスを上げてもアセンシオでは怖くない上ミドルシュートの危険も感じない。唯一危ないのはヴィティーニャがコンビネーションで侵入してくる形だけ。ヴィティーニャは早くマドリーに来てください。


●前半終了

"アウェー戦のアトレティコ"を表現する前半。ミスで先制を許したが同点に追いつけた事でボールを持たれても主導権を渡している認識はなかった。一番良かったのは最近の試合で存在感を出しているジュリアーノとハビ・ガランの2人が強敵相手のCLアウェー戦でも同様のパフォーマンスが出せている事で、選手交代ではなくピッチ上で解決策を探せる雰囲気があったのは非常にポジティブ。

パリSG側で言うと最終ラインから質の高いロングボールが全く出て来ず、アトレティコは相手の後方3枚にプレスをかける理由が一切なかったので対応は難しくなかった。それとデンベレの再奪回で失点したもののこれだけ配置が固定されている割にはセカンドプレスがチームの強みというほどのものではなかった。リーグ戦の出場時間を見ても一番前にコロムアニを置く意図はあまりないようなので、こんな感じが後半も続くのかなという予測が立つ。


●後半

・グリーズマンの立ち位置が変えた景色
・合理的だった選手交代
・劇的への準備

お品書き

交代なしで後半。
アトレティコの設定変更はグリーズマンの立ち位置で、なるべく左側にいてネガトラでハキミ周辺に反応するように設定された。

ヴィティーニャをある程度離してでもハキミ-デンベレラインの機能を封じる事を優先。マルキーニョスの持ち上がりも対応が面倒だったのでまとめて対策した。この役割をグリーズマンがやれるのは改めてこのチームの長所。
右では相変わらずジュリアーノが良い仕事をしており、バルコラのマークをモリーナに任せながら自身はヌーノ・メンデスの立ち位置でポジションを決めた。ヌーノ・メンデスが前に出てこなければデ・パウルの隣をサポートし、デ・パウルがヴィティーニャにアプローチする手助けをした。グリーズマンが左に移動する事とヴィティーニャを消す代案がセットで準備されていたのが後半の入りの良かった点である。

そして攻撃の案として、前半にゴールも決めているモリーナの攻撃参加を推進。ジュリアーノを追い越して2トップ目掛けて低いクロスを入れる形を狙っていった。

この形だとハビ・ガランは攻撃参加せず、ギャラガーも中盤に留まる事ができるのでハキミ&デンベレのポジトラを警戒した状態で試合を進める事ができた。理に適っている。
ついでにパリSGはSBが背後を取られた時にMFあるいはWGがカバーする形はどう考えても想定されていないので、2人でSBを破壊する形は理想的である。しかしジュリアーノは大きな信頼を得ているなとしみじみ。

とはいえ、アトレティコも前半より重心を攻撃に移している。パリSGはWGがスペースを得た1vs1を選択できるようになっていった。
言っておくがアトレティコは前半からリスクを極小化するためにスペースを潰す守り方を徹底していたが、別にアトレティコは相手のWGにスペースを与えた瞬間詰むようなチームではない。当たり前だが。デンベレに縦突破されてもギャラガー得意の鬼の首取りカバーが普通に間に合っていた。あらためてCL級のクオリティを確信するパフォーマンス。ハキミが内側に追い越す形は厄介だったがバリオスが頑張っていた。

右サイドではバルコラ相手にモリーナが縦突破を封鎖。デ・パウルが決意を感じる猛烈なプレスバックで挟み込み、相手のキーマンの自由を奪った。ちょっと泣きそうになった。頑張ったね。

モリーナが上がりきった状態でボールを失いカウンターを喰らうと、バルコラの所にヴィツェルが駆り出されるという想定し得る最悪の場面になるが、58分に訪れた大ピンチはシュートがオブラクの正面だった。こういう場面が訪れる事自体アトレティコが前傾姿勢になっている証拠で、60分の3枚替えでさらにそれを色濃くした。

守備で特徴を出したデ・パウルに替えてコケ。バリオスと協力して右からの崩しに関与していく。
ジュリアーノ→リケルメ。同点ゴールを生んでこの日も大活躍。ここからの時間はコンビネーションと突破の選択肢に優るリケルメの仕事。
最後はハビ・ガランに替えてヘイニウド。"60分までハビ・ガランで対応すれば最後の30分はヘイニウドで"という設定は間違いなくあったはずで、実質この時点でデンベレ対策は完遂した。実際この日のヘイニウドはとんでもなかった。
ハビ・ガランは素晴らしい仕事。ついでに言うとここまで右からの攻撃にシフトしていると左SBの攻撃参加は期待しなくても良いのでお役御免となった。

直後の64分、全然冗談の通じないバルコラがモリーナを置き去りにする縦突破。ヴィニシウス並みのキレ味で抜けていったが、シュートはオブラクが片手で防いでいる。

67分には前線の守備とサポート不在のポストプレーで大忙しだったアルバレスに替えて運命の男コレアを投入。
同時にパリSGは同ポジションを2つ交代し、イ・ガンインとファビアン・ルイスが出てきた。
さらにコロムアニの投入でパリSGはようやく配置を替えて圧倒的に攻撃シフト。イ・ガンインが右サイドの打開に関与し始めて73分にヴィティーニャのクロスにマルキーニョス、77分にはハキミがラインブレイクしたがどちらもオブラクがパラドン。
ギリギリでいつも生きているアトレティコは78分に最後の交代。これでギャラガーに替えてリーノを投入する選択をした。まさかの超攻撃的な選択肢をここで選べるシメオネ。何をどうすれば試合のバランスが壊れるかを熟知したシメオネ節だった。


運命のロスタイム。バルコラからPA内のコロムアニに完璧なボールが入ったがラングレが対応。前半の失点の分を取り返した。さらにイ・ガンインの強烈なミドルシュートをオブラクが弾いた所にハキミがどフリーで待っていたが、これもラングレが退場しても良い勢いで身体を投げ出した。
続くCKをオブラクがキャッチするとボールはグリーズマンへ。完璧なボールがコレアに渡り、アトレティコは運命に定められた決勝ゴールを奪った。勝利。何よりも大きく、そしてこれが全てだ。



●試合結果

100回やったら90回はやられそうな見た目ではあるが、良く守った。そして最後の1点を良く信じた。その結果の勝利は美しい。

この試合の良かった点は各選手達の"こういう所が長所なんだよ"という箇所がよく表現された事にある。モリーナは大胆な1vs1対応でバルコラと対峙し、無尽蔵のスタミナで攻撃の役割を担った。ハビ・ガランは気持ちで負けない守備対応と予測の良さでデンベレに入るボールを封じて決定的な仕事をさせなかった。キックモーションに入らせないほど距離を詰めながら入れ替わられない対応は彼の得意なプレー。ジュリアーノは最近の試合で出来ている自分の良さを表現し、与えられた守備タスクを要求通り完遂している。前半には強敵相手にも通用する思い切りの良さで得点を生んでいる。ここ最近お立て直しを象徴する3人が、重要な試合でも期待通りのパフォーマンスが出せたのは非常に大きく、また満足度が高かった。ここは勝敗に関わらず今シーズンのチームに重要なファクターだったはずで、彼らを信頼して起用したシメオネの勝利である。

中盤はデ・パウルとギャラガーが要求されるハードワークを完璧にこなした。期待通り。特に両SBとよく連携し、お互いにサポートし合いながら危険なエリアへの侵入を制限した。最近は攻撃を停滞させがちな2人だが、必要な仕事をこなしたプロフェッショナル。特にデ・パウルは、彼がいなければ成立しない守備バランスを実現させていた。

この試合カギになったのはバリオス。コケ不在の中盤で、特に前半は敵陣へ進んでいくのが難しく相手の速いプレスに前を向いてボールを触る機会も少なかったが、中央の守備で存在感を見せてボールに触れない展開でもチームに必要とされる存在だった。いつかコケのようになる姿を思い浮かべながら見ていた。そのコケは60分に投入されると配球の担い手として攻撃を大幅に活性化させた。いなくなってわかる圧倒的な存在感でチームに終盤もうひと踏ん張りする活力を与えた。

前線ではアルバレスが味方の動きと呼応しながら走り回り、グリーズマンはトランジションの唯一の突破口でありながら重要な左サイド守備の役割も担当する大車輪の活躍。そして決勝ゴールを生んだ。これがアトレティコのエース。

ボールを支配されながらも、後半のシメオネの選択肢が明らかに"勝利を獲りに行くもの"だったのも興味深い。ピンチをギリギリで切り抜けながらも徐々に攻撃にシフトしていき、特に脇腹を痛めていたとはいえギャラガーに替えてリーノを入れたのは明らかに点を取りに行く意思表示。最後まで走力を維持して93分に結果を出した。あの場面でコレアにボールを渡したグリーズマンの判断は流石。勝利の在処を知っていた。

パリSGは理詰めで敵陣PA付近のプレーを選択できるが遊びがなく、また意外性も特にない。この辺は大エースが抜けた難しさなのかもしれないが、大エースが存在しなかったエンリケのスペイン代表にもどことなく似ていたので成るようにして成っている感はある。

アトレティコはこれで勝ち点6。そしてポット1との試合を終えた。ここからは勝つフェーズ。チームは前進している。


11/6
パルク・デ・プランス
パリ・サンジェルマン 1-2 アトレティコ
得点者
【パリ・サンジェルマン】'14 ザイール=エメリ
【アトレティコ】’18 モリーナ ’90+3 コレア


●ピックアップ選手

モリーナ
相手のキーマンであるバルコラを抑えながら自身で同点ゴールをゲット。後半はさらに右サイドの打開に関与し攻撃を推し進めた。文句無しのMOM。

ジュリアーノ
パリSG相手でも臆する事なく自分の仕事を完遂した。守備に穴を開けず、モリーナといつも連携していた。積極的なシュートとクロスは同点ゴールに繋がった。

デ・パウル
吹っ切れたパフォーマンス。チームを助ける彼の仕事だった。

ヘイニウド
守れというタスクを全面に請け負った。
守った。それが仕事だ。

オブラク
オブラクのスーパーセーブはアトレティコの戦術である。彼もまた、"グリーズマンだけを見ていた"

コレア
約束されたゴールへ向けて虎視眈々と待っていた。キックフェイントからの左足はおれも騙された。見事。


●myQA

CL4-1 4-4-2守備とポジトラ
良い守備ができた試合だった。大外の質を活かしてポジションチェンジが少ないパリSGは、マンツーマンをベースにしたアトレティコの撤退守備からすると最高のモデルケースであり、良いテスト材料でもあった。WGがボールを持った時にSHとCHがサポートする形を確認し、侵入を阻害していく守り方を90分間猛練習できた感覚。
課題は当然ボールを奪った後のエリア打開方法で、失点にも繋がってしまった。コケ不在でバリオスも守備に追われながら中央でプレス回避できなかったのは次の課題だが、超絶結果論だがそんな事しなくても2点取れはした。これがサッカーですね。

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