著者インタビュー 『事例と動画でやさしくわかる!小学校プログラミングの授業づくり』(Type_T・・・とにかくやってみるプログラミング教育ティーチャーズ)
2020年度に、プログラミング教育が本格的にスタートしました。
新学習指導要領では、「パソコンを使って」「各教科の授業の中で」プログラミングを組み込むことを求めています。
しかし今まで学校で用いられてきたプログラミング授業は、「アンプラグド」と呼ばれる、パソコンを使用しない方法が主要でした。
加えて、先生方は準備への余裕のなさ、具体的な指導例などの情報不足を課題に感じていらっしゃると聞きます。
GIGAスクール構想により、一人1台端末の流れが急速に進み、今後プログラミング授業についても加速するのではないかと思います。
今日は、そのような状況の中、初歩的なパソコンの使い方から、各教材の特徴、授業の進め方までが一通りわかる「小学校プログラミング授業」についての本をご紹介します。
初心者の方でも大丈夫!読むだけでなく、見てわかるよう、動画も多数取り入れてわかりやすくプログラミング授業について解説しています。
▼ 『事例と動画でやさしくわかる!小学校プログラミングの授業づくり』
(Type_T・堀田 龍也 著、定価=税込1,980円、A5判・144ページ、2021年6月刊)
▼ 本書の目次
CHAPTER1 なぜ今プログラミング教育なのか 〜基礎編〜
CHAPTER2 どうすればできる? プログラミング教育 〜準備編〜
CHAPTER3 やってみよう! プログラミング教育 〜実践編〜
―絶対おさえたい学習指導要領掲載「A分類」の授業例
―楽しく学びの土台をつくる「低学年」の授業例
―好奇心を育む「中学年」の授業例
―問題解決思考を高める「高学年」の授業例
―学びの環境をつくる「特別支援」での授業例
Type_Tとはどのような団体なのですか?
―今回の著者として、東北大学の堀田龍也先生と一緒に本を書かれたType_Tについてお伺いします。
(Type_T)Type_T (とにかくやってみるプログラミング教育ティーチャーズ) はその名の通り、プログラミング教育やそれに付随する実践にとにかく取り組み、実践を積み重ねていく、主に教員を主体にした団体です。
―T とにかく/Y やってみる/P プログラミング/E 教育(Education)/T ティーチャーズ(Teachers)でType_Tということなんですね!面白いネーミングですね。
また、「とにかくやってみる」というのは、積極的で前向きな考え方で素敵ですね!先生方は、普段はどのような活動をされていらっしゃるのでしょうか?
(Type_T)実践の結果を報告したり、一般化したりして周知することや、イベントの開催、プログラミング教育を応援する企業との教材開発、カリキュラム開発に取り組んでいます。
―そうなんですね。Type_Tのホームページを拝見したところ、数々の活動の様子が動画でアップされていました。そこから私は先生方のプログラミングに対する熱いエネルギーを感じました!
今回は、このType_Tのメンバーの先生方が集結して、小学校プログラミング教育についての本をお書きになったということですね。
小学校のプログラミング授業の実践はまだまだこれから
―この春からGIGAスクール構想により、多くの学校に一人一台端末の配布がなされました。そのような中で、「プログラミング教育」については、学校現場でどのような状況になっているのでしょうか?
(Type_T)情報教育を校務分掌等で担当する先生であっても、「新たにプログラミング教育に取り組もう」という余裕は無くなっています。
―え、そうなんですか?それはいったいなぜでしょうか?
(Type_T)コロナ禍において急速に進んだGIGAスクール構想に伴う一人一台端末の導入により、そちらへの対応に追われているためです。もうしばらくして落ち着きを見せた頃、取り組みが加速すると考えています。
―なるほど。今は「配布された端末をどのように授業で活用していくか・・」ということで手一杯なのかもしれないですね。
今後、端末の授業での活用がひととおり浸透していけば、先生も子ども達も、以前と比較して格段に端末の扱い方や活用の仕方に慣れてくるでしょうから、そうなるとプログラミング教育の実践も急速に進んでいくのかもしれないですね。
プログラミング教育に関する地域差はまだまだある
―今現在、全国の先生方すべてがパソコンやプログラミングに精通しているわけではないと思います。むしろまだニガテな方のほうが多いのかもしれません。
そのような中で、今すでにプログラミング教育に積極的に取り組まれている先生方からみて、プログラミング教育が進んでいる学校や地域と、あまり進んでいないところの差はお感じになりますか?
(Type_T)プログラミング教育については、アンテナを高くして自分たちから実践を探していった先生がいる学校・地域と、教科書に入ってきた段階でようやく「プログラミング教育とは何だ」と気づいた学校・地域によって大きな差がついているのが現状です。
プログラミング教育においては、具体物を操作しようとすると教材の購入が必要になるケースがほとんどですが、先進的な教委は市町村内で教材を共有する仕組みを既に持っています。
―これからを生きる子ども達にとって、実際のプログラミング学習を通して身につけることのできる思考力、判断力、洞察力などは必要なスキルですよね。まずはType_Tの「T /とにかくやってみる」のように、実践を始める先生方がどんどん増えていくとよいですね。
プログラミング授業での子ども達の様子は??
―プログラミング授業での子ども達の様子についておうかがいします。
私は以前、「ドローンを飛ばしてみよう」という子どものワークショップを見学したことがあります。その時の子ども達の生き生きした様子が今も忘れられません。
きっと先生方はプログラミング授業を通して、いろいろな子ども達の様子や変化を目にされているのではないかと思います。授業での子ども達の様子についてぜひお聞かせください。
(Type_T)たとえば、家庭科の学習では調理実習を扱っていますが、実習を通して、「みそ汁」の作り方1つとっても多くの工程があること、その一つ一つに意味があることに気づくと、次から給食に出るみそ汁を見る目が変わってきます。
あるいは、出汁を飲み比べた経験をすると、出汁に着目してみそ汁を分析的に見ようとする児童が少なからず出てきます。
それと同じように、プログラミングに取り組んだ子どもたちは、電子機器やロボットなど、プログラムによって動いている物の見方が変わります。
ただ単に動いているという認識では無く、どのような仕組みで動いているのか、という一段深い見方をするようになるのです。
また、創り出す経験をすることで、それを再現したり、改善したりしようという視点も持つようになります。
―今のお話から、プログラミング教育は単にプログラミングのやり方を学ぶのではなく、プログラミングを通して、より深いものの見方、考え方を学ぶものだということがよくわかります。
また、プログラミング教育は特別なものではなく、そのほかの実践的な教科と同じ立ち位置で考えていくものなのではないかなと感じました。
プログラミング授業においての、先生の役割とは?
―プログラミング授業の場合、通常の一斉授業のスタイルとはならないことが想定されますが、その場合、先生の役割とはどのようなものになるのでしょうか?
(Type_T)その授業のめあてによりけりですが、一般的な一斉授業よりも支援が中心になってくることは間違いないと思います。
―といいますと?
(Type_T)プログラミング教育のめあては成果物を1つに定めるものではなく、むしろ成果物は多種類であって良いけれども、最終的に目標を達成することが出来ているかを問うものが多いからです。
例えば、電気の利用の単元では、プログラミングによって電流を制御することで、電気の無駄遣いを無くそうというめあてが多く取り扱われます。
電気の無駄遣いのシーンは児童自身の発想から生まれます。そうなると、教師の役割はその発想を読み解き、どのように支援すると目的を達成できるのかについてのアドバイスをすることになるでしょう。
そこで主に求められるのはプログラミングのスキルではありません。
深い児童理解に基づく適切な提案こそが必要なのです。これは、むしろ先生方が得意とすることだと思います。
ただプログラミングが得意な方が、プログラミング教育を行えばいいかというとそうでは無い理由がここにあります。
―とてもよくわかりました。プログラミング授業もその他の授業も、教師本来の役割の根幹に違いはないということですね。
それでも、「機械や理系が苦手なんだけど・・・」とお悩みの先生は多いと思うのですがそのような先生方にアドバイスをいただけますか?
(Type_T)二人三脚で授業のねらいを達成することができるように支援をしていくことは、私たちの本来の領分です。
そして、苦手意識を持っていても、子どもと一緒に取り組むことで必ず解決策は見えてきます。安心して取り組んで欲しいと考えています。
先生も、まずは触って遊んでみよう!
―これからプログラミング授業を始めようとおもっていらっしゃる先生方へのアドバイスをお願いします。
「おもしろそう!よしやってみよう」と思われた先生方が、自分の今の現場ではじめる時に、最初にやるべきことは、どのようなことでしょうか?
(Type_T)先ずは自分が取り組んでみることなのですが、その際には「触ってみて遊んでみる」ことを主眼に置いて欲しいと思います。
先ずは楽しむ。難しいことはそれからです。先生自身が楽しさを知っている状態であれば、子どもたちに紹介するときも、楽しいものだという雰囲気を纏って紹介できます。
最後にこれは余談ですが・・・
プログラミング教材のうち絵が描けるものがあります。そんな時、子ども達が、下のイラストのようなものを書いて、喜ぶ場面によく遭遇します。
(Type_T)先生がまず触って遊んでいる時、子どもの気持ちを理解するためにも、私たちが先行してこのイラストを動かしまくって遊んでもよいと思っています。
何ならそれをプロジェクターで投影しても。 楽しみながらそれらを動かしている時点で、もうそのプログラミング教材を扱う準備万端だと思うのです。
でももちろん、これで終わってはいけません。そこまで遊んだ後で、本来の授業の目的、めあてに立ち返り、子どもたちの前ではしれっと「そんなものを描いてはいけません!」と指導することは要求されます。描く子は何言っても描きますのでね(笑)
―お話しをうかがいまして「プログラミング授業」に必要なことは、プログラミングについての特別なスキルではなく、普段の授業で常に先生方が考えていらっしゃる「深い児童への理解」なのだということがよくわかりました。
「プログラミング授業」って敷居が高いな・・・と思われている先生方にもぜひ、子ども達と一緒に楽しむところから取り組んでいただけたらと思います。
本日は、貴重なお話をどうもありがとうございました。
今回Type_Tの先生方と堀田龍也先生がお書きになった「事例と動画でやさしくわかる!小学校プログラミングの授業づくり」では、プログラミングがまったくわからない、機械操作もニガテ・・という小学校の先生方でも、「プログラミング授業」について短期間でマスターできる内容になっています。
また本書にあるQRコードから、教材や授業について動画の解説に飛ぶことができるので、本を読んで、さらに動画で見て、プログラミング授業について理解することができます。
ぜひ、夏休み前に手に取っていただき、夏休み中、いつもより少しお時間のある時に、じっくり読んでいただきたいと思います。
著者プロフィール
Type_T
Type_T(たいぷてぃー) とにかくやってみるプログラミング教育ティーチャーズ。プログラミング教育の発展に貢献することを目的に活動する教育関係者の任意団体。
NPO法人みんなのコードとの合同イベントや、教材メーカーを招いてのイベント開催など、他の企業や団体との事業連携も積極的に行う他、YouTubeで授業実践や有識者のゲストトークを公開するなど、情報発信にも精力的に取り組む。
東洋経済ONLINEや教育新聞、「EdTechzine」(翔泳社)に取り上げられるなど、メディア掲載実績も多数。会員募集中▶https://typet.jp
堀田 龍也 (ほりた・たつや)
1964 年熊本県生まれ。1986 年東京学芸大学教育学部初等教育教員養成課程数学選修卒業。1995 年電気通信大学大学院電気通信学研究科情報工学専攻博士前期課程修了。
2009 年東京工業大学大学院社会理工学研究科人間行動システム専攻博士後期課程修了、博士(工学)(東京工業大学)。現在は東北大学大学院情報科学研究科人間社会情報科学専攻・教授、文部科学省中央教育審議会委員。
主な著書に『PC1 人1 台時代の 間違えない学校ICT』(小学館)ほか多数。
▼ 『事例と動画でやさしくわかる!小学校プログラミングの授業づくり』(Type_T・堀田 龍也 著、定価=税込1,980円、A5判・144ページ、2021年6月刊)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?