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コモンズを広げるデザイン ~人々の共通利益はデザインによってどう広がるか~

この記事は freee Designer’s Advent Calendar の 9日目です。

みなさんこんにちは。freee株式会社でデザイナーをしている gakuton です。freeeではアカウントや課金・権限など、freeeのプロダクト共通で扱う領域の UI/UX デザインを担当しています。

学生時代は法学部で著作権や特許法、加えてプライバシーや肖像権などインターネット時代に特に変化を求められる法律の勉強をしていました。

今回は僕が法律の分野からデザイナーを志すきっかけになった「コモンズ」という考え方を紹介した上で、コモンズがデザインによってどう押し広げられるのか?という問いについて、これまで考えてきたことを書き記したいと思います。

コモンズとは

(コトバンクより)
草原、森林、牧草地、漁場などの資源の共同利用地のこと

(Wikipediaより)
日本語でいう入会(いりあい)の英訳。(中略)ただし、日本の入会地は、ほとんどが入会団体などの特定集団によって所有・管理されているため、誰の所有にも属さない放牧地などを意味する「コモンズ」とはニュアンスが異なる。

コモンズとは「誰の所有にも属さず広く共有されるもの」を意味します。上記では森林など資源の共同利用地が例となっていますが、他にもパブリックドメインやオープンソースのソフトウェアなど、誰もが利用可能になっているものは自ずと該当します。

インターネットの到来によりコモンズの概念は大きく可能性を広げました。Web によりアクセス可能な情報が圧倒的に増え、望めば欲しい情報にすぐアクセスできるようになったことで、私たちの暮らしは大きく変化しました。

また、文書や音声・動画といったデータの共有だけでなく、オープンソースのソフトウェアやプログラミング言語、無償で公開されるサービスは私たちの行動自体を大きく広げました。
Apache、MySQL、PHP、Wordpress、React、Wikipedia など、私たちが当たり前のように利用している(または意識すらせず恩恵を受けている)多くのものがオープンソースとして広がっています。

これは人々が取ることの出来る選択肢の広がりを意味します。もちろん、これはインターネットに限った話ではありません(公園などの公共施設が増えることもコモンズの広がりを意味します)。
しかし、インターネットの世界では多くのものがオープンに扱われ共有されやすい傾向にあり、その結果人々が取れる選択肢の幅が広がっているのは言うまでもありません。

コモンズはビジネスとしてのプロダクトにも当てはまるか

ここまではオープンソースに対して言及しましたが、現在私たちが触れるアプリケーションなどのデジタルプロダクトは、民間企業がビジネスとして行うものが多いでしょう。freee もその一つですし、この記事を読んでいる人にも IT 企業に勤める方は多いかと思います。

無償で提供され、共通利益のために報酬なく関わることで成り立っているオープンソース・コミュニティと比べ、ビジネスとしてのデジタルプロダクトはコモンズ(ここでは社会に開放される選択肢という意味で使います)にどう貢献すると言えるでしょうか?

一つは、たとえ有償であったとしてもプロダクトによって人々がとれる選択肢は広がるという考え方です。この考え方に立脚すれば、人々の選択肢はサービスの数だけ増え続け、コモンズは広がると考えられます。

もう一つは、ビジネスとしてのプロダクトは恣意的な方向にユーザーを仕向けてしまう可能性があるという考え方です。例えばメディア運営で特定の意見に偏りのある記事を取り上げ、ユーザーを方向づけてしまうなどが挙げられます。左記は極端な例ですが、企業は利益を追求することが前提にあるため、自社の利益になる範囲でのみユーザーに選択肢を提供します。また、ミッションというのはその企業における価値観や思想に基づくため、その思想に則らない方向での選択肢は暗黙的/明示的に捨てることになると言えるでしょう。

つまり、ビジネスとしてのデジタルプロダクトはたとえ有償であってもコモンズを広げると考えられる一方で、そのあり方ゆえに特定の対象に限定されやすいという相反した性質を持っていると考えられます。
ただし、ビジネスとして収益をあげられる分、持続可能な形で価値を提供できるという側面は忘れてはなりません。

コモンズを狭めないデザインの考え方

私たちの大半はビジネスとしてデジタルプロダクトを作っていると思います。では、なるべくコモンズを狭めずにユーザーに価値を提供するためにデザインができることはなんでしょうか?これがこの記事の主題になります。

まずは「特定のユースケースに最適化しない」ということが挙げられます。私たちがある機能を作る際に、「どんなときにその機能を使うのか」というユースケースを考えることが多々あると思います。しかし、そのユースケースは現時点で私たちが認識している範囲でしかなく、他にも利用されるシーンがあるのかもしれない。現時点では特定のケースに限定されているとしても、未来はどうなるかわからない。それを意識した上でデザインを行うことがみだりに選択肢を狭めないためには重要です。

私は、この特定のユースケースに最適化しないための手段としてオブジェクト指向でのUIデザイン(OOUI)が有効だと考えています。ユースケースのみを考慮して画面設計をすると「タスク」を前面に押し出した UI になるおそれがあります。これを、ユースケースから対象となるオブジェクトを抽出し、そのオブジェクトをそのまま画面上に表すことで、今後そのオブジェクトを用いて新たな利用シーンが生まれたときにも柔軟に可能性を広げることができると考えられます。

オブジェクト指向UIデザインに関しては、書籍が出ているのでそちらを参考にしてください。

また、ユースケースをそのまま落とし込んだ先にあるタスク指向と、オブジェクトを抽出してデザインするオブジェクト指向を端的に表す上で、上述の書籍の著者の方のブログにあるイラストが非常にわかりやすかったので引用します。

オブジェクトベースとタスクベースの比較。オブジェクトベースではものに対して自由に扱える一方、タスクベースでは先に何を行うかを示さなければならない。
ソシオメディア様ブログ「OOUIの目当て」より引用

タスク指向ではユーザーがやりたいことを明示しないと先に進めないのに対し、オブジェクト指向ではまず対象物を自由に触れられるようにします。後者の方が、今後プロダクト内で行えるアクションが増えた際に拡張性があることは明白です。

企業のミッションが社会の共通利益になるかを考え、デザインをする

私自身は、世の中にプロダクトがたくさん生まれることは人々の選択肢を広げる喜ばしいことだと考えています。
そして、選択肢というコモンズを広げる上で最も大事なことは、そのプロダクトが目指す世界が社会の共通利益につながるか?そうあなた自身が思えるか?という点ではないでしょうか。

例えば freee は「スモールビジネスを世界の主役に」というミッションを掲げており、freee のプロダクトが浸透していった先には多くの人が会社を経営しやすくなり、個人で事業を営みやすい世界があります。
私自身、freee のプロダクトを通じて世の中がもっとやりたいことに挑戦しやすくなると良いだろう、言い換えると「挑戦」というコモンズが広がる社会が良いと考え、デザインをしています。

デザインというものは、製品を通してユーザーが行えることを押し広げる役割を持つからこそ、その主体であるデザイナーがその押し広げた先のイメージに共感することの意義は大きいと思います。

そして、そのプロダクトの先にあるイメージにあなた自身が共感できるのであれば、それはきっとコモンズがより広がる(社会の共通利益になりうる)方向性になるのではないでしょうか。

プロダクトが人々の行動に与える影響は大きくなっている

一昔前は規範や良識、及びそれらが具現化された法律に多くの人が倣って生活するという構造が一般的でした。しかし、ここ最近ではプロダクトによって人々の行動が変わり、規範や法律にまで変化を与えることが増えています。

例えば Google 検索が生まれたばかりの頃は、検索結果の表示の際に必要なクローラーによる Web サイトのデータの解析(クローリング)は著作権違反と考えられていました。

しかし、今では当たり前になり法律的にも認められています。
(改正著作権法第47条の5 解説は IT Mediaの記事がわかりやすい)
そして言わずもがな、検索行動は私たちの日々の生活に溶け込んでいます。Web サービスの利便性が人々の行動を変え、法律まで変えたのです。

Airbnb・Uberなど、話題になるサービスの背景には、当初法律的にはグレーだった部分を人々に価値を提供していくことにより徐々に認めていくような動きが多くあります。それほどプロダクトが人々に与える影響が大きくなっているのです。

そんなプロダクトが人々の行動に変化をもたらす世の中で重要になるのは、「たとえ現時点で広く認められていなくても、きっと社会の共通利益になる」と信じること、つまり矜持だと私は考えています。
その矜持を持った上でデザインができれば、その先にはきっとコモンズの広がりがあるのではないか。私はそう考えています。

明日はデザイナー入社同期の戦友 yuri さんから、「ユーザーテストのプロトタイプをどう効率化して実装したか」の話です。お楽しみに!

参考書籍

コモンズとデザインの関係に興味を持ってくれた稀有な方向けに、参考書籍を貼っておきます。

1. CODE VERSION 2.0
クリエイティブ・コモンズ創始者のローレンス・レッシグ氏の本。インターネット空間における自由やルールに関しての始祖となる一冊。
(英語版の読破が私の年末の目標です。。)

2. 法のデザイン
大学時代デザイナーを志すきっかけになった一冊。レッシグ氏の考え方を受け継ぎつつ、よりテクノロジーが発展した昨今における人々の自由、そのための法のあり方について書かれています。

もしこういう話をもっとしたい・興味あるなどあれば、お話も歓迎ですのでTwitter まで。

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