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久々に「ない」と思った話。

先日、facebookに投稿した内容が大変な反響があったので、改めてnoteにまとめてみました。投稿へのコメントは実に84件。興味ある方は非常に示唆の富んだ考察ができるので、ぜひ以下の文章を読んだ後で投稿のコメント欄をご覧ください。


ひどすぎた岩手県移住PR動画

ことの発端は1月末に公開された岩手県の移住PR動画を目にしたこと。
県の公式事業なのでプロポーザルで企画&業者が選定されているはずだが、動画を観てからどんなに戦略や意図など裏側を推測してみても、痛快なほど全然「ない」と思ってしまった。こうした企画に何千万の予算が消化されていると思うと、日々地域の未来に向かって身を削り種を撒いている自分も含めたローカルのプレーヤーが報われない。

基本的に自分が全然知らない仕事について公に批判することは滅多にしないが、元都内の広告代理店勤務&岩手に移住し観光やPRの仕事もする立場として色々思うことがあったため、以下プロデューサー目線でこの動画について書いてみようと思う。

YouTubeの概要欄より抜粋

岩手県公式動画チャンネル

「岩手最高かよ!」
新日本プロレス・真壁刀義さん主演の移住15秒動画配信中!
岩住(いわずみ)がきっかけで恋に発展?そんな場面も岩手ならあります!
恋をするなら岩手へ!
     
【シリーズ動画「岩手移住物語」について】
移住を考える人々へ、真壁刀義(新日本プロレス)が演じる熱血部長、岩住福手(いわずみふくて)が岩手の魅力を熱く伝える15秒動画シリーズ(全12話)。令和3年1月25日より順次公開していきます。

いわて暮らしサポートセンターの名物部長である“岩住福手(いわずみふくて)”岩手県をこよなく愛する熱血漢である。彼の元には移住を考えるひとたちが相談に来る。そんな彼らにいつも岩住は移住者の現在の生活から夢、理想とするライフスタイル、趣味、将来のビジョンなどを時間をかけて丁寧に聞いている。移住した時にスムーズにスタートできるよう岩手にいる親交を深めた同じ熱い想いを持った仲間たちからもたらされるリアルな各地の情報やサポート制度などを相談者に対して、必殺技を呼称するように伝えるのを使命として日々職務にあたっている。果たしてどんな相談が彼の元に来るのか!
移住者の安心と健やかな岩手ライフをサポートすべく岩住の日々奮闘は続く。

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一体何がひどいのか?


【1】自治体おもしろ動画コンテンツは2015年に終わっている件。
まだ都内で広告の仕事をしていた頃、至る所で自治体のおもしろムービーが制作されていた。地方創生の大号令で地方にお金が落ち、その結果、中身がなく後にも続かない無数の動画が生まれては消えていった。有名クリエイターに憧れる20代を過ごしていた身としては、動画が話題になる羨ましさを感じた一方で、有象無象の薄いPR施策が地方に増えることへの違和感を強く感じた。あれから6年。周回遅れにも関わらず堂々と現れたのが「岩手移住物語」である。6年後にこの動画を出すセンスと意図。その「時代遅れな逆張り」をPR的に考えての戦略であれば、まだ理解できるが、きっとそうではないだろう。


【2】ターゲット設定とそのインサイト(気持ち)をどう把握してるのか
プロレスラーをキャスティングした瞬発芸シリーズもの動画について。15秒の動画をたくさん作り、認知を高める手法の模様。動画広告やトレインチャンネルなどかなりの出稿額を使って認知を高め再生回数を稼いでいる。きっと報告書類には「〜再生回数いきました!」的な言葉が並ぶと思うが、広告の受け皿も見えないのと、県の他の移住施策(関係人口拡大に向けて頑張ってる方々いる)とのトーンや戦略的合致、あとはそもそも動画のターゲットの設定はどうなってるのだろう。あれを観て果たして移住したくなるのだろうか?「移住」したことのある人が企画しているのだろうか。移住の決めては、リアルなそこに住む人(の情報)であり、仕事であり、住環境である。中には一瞬笑える動画もあるかもしれないが、それが移住施策の目的ではないだろう。マジで理解できない。


【3】いかにもな若者受けする言葉
「岩手最高かよ!」というトーンについて。2に重複するが、今ぽい言葉をメインコピーに据えているが、いかにもおじさんたちが考える「今ぽい若者に響くコピーを置けば大丈夫です」という意図が見え隠れしている。いかにも広告代理店の企画書に載ってるのが目に浮かぶ。個人がメディアを持つ時代。もはや広告的意図が見えるものに対して人々が響かなくなって数年経つ。


【4】とはいえ、制作チームは悪くない件。
ここが一番大事なのだが、クライアントワークにおいて、どんなに優秀なクリエイターが考えた企画でも、素人が考えた企画でも、当たり前だが、最終的には「選ぶ側(クライアント)」が全ての権限を持っている。「このプロレスラーを使って、おもしろ動画か!今流行ってるユーチューブを使ってバンバン動画を流そう!ええやないか」的な感じだ。

いわゆる広告業界から離れて久しいが、この動画を観たときに、久々にこの当たり前のヒエラルキーを思い出した。世の中、ジャッジする側が変わらなければ変わらない。ただ、県のような重厚長大な組織だと年功序列的なところがあり、どうしても変えにくいのも事実。その組織を変えることに人生を使うよりも、オルタナティブなやり方を自分たちでやった方がいいよね、と自分たちで勝手にアクションしているのが我々の世代(1987年生まれ。34歳です)かもしれない。その方が早いし、健全だし、応援してくれる人もいるし。


【5】あと、現場で頑張っている県の方も悪くない話。
県で働く方々で一緒に仕事をさせてもらってる方もいて、お世話になっている好きな方もいる。問題は、その組織的構造と時代感をキャッチアップできている人が意思決定層にいない点かと。それが仕方ないとしても、それを外部からアドバイスできるパートナー人材も不足しているのかもしれない。もしくは、いても高齢化が進んでいる懸念点もある。あとは、スポットではなく、長期的戦略の不在もあるだろう(短いスパンでローテされる行政の組織的課題)。県の中も外にも、的確に戦略〜企画、ディレクションができるプロデューサー人材を増やしていかないといけない。

※コメントにプロポーザルの審査員問題を指摘して下さった方もいた。こうした行政案件は審査員の配点の合計点数で業者が決まる。ついては、審査員がめちゃくちゃ大事。しかし、その審査員を選ぶのは行政側だ。適切に選ばれているのか、そこに偏りや問題はないか。その辺りはもっと深堀りしたいところだ。


【6】最後に。
そんなローカルで活動するプレーヤーのみなさん。悲しいかなこれも一つの現状です。ただ、つらつらと書いてきたものの数年前からこうした状況は理解していたし、同じような問題意識を持っている方も多いと思うので今更そんなに悲観的ではない。正直、対岸の火事的に見ている節もある。

今、岩手では面白くて尊敬するプレーヤーが年下にも年上にもめちゃくちゃいるが、それぞれが自ら信じるやり方で、引き続きバチバチと今の時代にマッチしたやり方を積み上げること以外に、こうした状況を打破することはできないのだと思う。岩手最高かよ、と言わずとも最高だよ。影響力の強い行政や国の予算が、的確に未来をつくる取り組みに落ちるよう心から祈っているし、その意思決定層に近い方々、その辺り、マジでよろしくお願いいたします。(世代交代しか解決方法はないのか)


【おまけ】そもそも動画施策単体で効果をあげようと思ってなかったか?
この業務は岩手県の公募案件。動画制作&メディアのコンペで確か何千万円かのプロポーザルだったはずだ。そもそも移住者を増やすための施策として、「動画制作」単体だといかにも戦略性がない。ここに発注者は気付いているのだろうか。これだけの予算をかけるのではあれば、もっと立体的な施策が鬼のように企画できるのに。勿体なすぎる。
そして、ちょうどタイムリーに長野では徳谷柿次郎さん率いるHuuuuの「信州移住ラボ」が立ち上がるニュースを観た。実に2021年感ある。この差よ。



以上です。
冒頭紹介したfacebookのコメント欄には、現在行政で働く方含め、実に多様な方が意見を書き込んでくれた。みんな行政案件について思うところがあったんだなと分かった。世代や構造的な問題がかなり複雑に絡み合っているので紐解くのは簡単ではないが、行政職員も含めたローカル人材の育成(企画やデザインのディレクション、判断の仕方)をしていかねば、という想いを強くした。全国各地で同じようなことで悩み戦ってる皆さん、気持ちが折れるかもですが、なんとか頑張りましょうね。あなたの町だけではないです。とはいえ、あなたの町から変えられるように頑張りましょう。僕も戦います。




最後に幾つか補足を。

【補足1】年齢の話を結構しましたが、どんな年齢でも尊敬できる方はたくさんいます。年齢の問題というよりも、時代感をどれだけキャッチアップできているか、てか普通に「想像力」があるかどうか、の問題かと思います。昨今の色々なニュースとも同じかと思います。

【補足2】真壁さんは1mmも悪くない。岩手出身と思いきや神奈川出身ということを知り、「それだったらまだ納得できる」という淡い期待をいとも簡単に裏切ってくれたけれども、もっといい起用の仕方ができるはず。


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