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安田 登「能楽師の職業論——「三流人」として生きる」

安田 登(やすだ・のぼる)——能楽師。
1956年、千葉県銚子市生まれ。下掛宝生流能楽師。ワキ方能楽師として活躍するかたわら、能のメソッドを使った作品の創作、演出、出演も行う。寺子屋「遊学塾」を主催、古典を基礎にした教育活動も継続中。著書に『身体感覚で「論語」を読みなおす。』『能 650年続いた仕掛けとは』他多数。

 私の職業は能楽師です。古典芸能である能の役者をしています。もう少し正確にいえば、ワキ方の下掛宝生流という流儀に属している能楽師です。能楽師としての仕事やワキ方についてはあとでお話しすることにして、まずは「仕事」という言葉と「職業」という言葉について考えてみたいと思います。
 「仕事」という語と「職業」という語とはほとんど同じ意味に使われていますが、出自はまったく違います。「仕事」は漢字で書かれますが、本来は「しごと」、日本の言葉、和語です。それに対して「職業」は中国の言葉、漢語です。
 「しごと」という語は「し(す)+こと」で、もともとはただ単に「何かをすること」を意味する言葉でした。それがやがて職業をも意味するようになりますが、すること全般を意味する語であるということは「しごと」とは何かを考える上で大切です。することは、すべて「しごと」なのです。
 一方、「職業」の方は、紀元前一世紀に成立した司馬遷の『史記』にも出ていますので、かなり古い言葉です。『史記』の「孔子世家」には次のように書かれます。

―『學鐙』2023年冬号 特集「はたらくをひもとく」より―

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