安部 芳絵「研究と子育ちのままならない道のり」
大学の教員として国連子どもの権利条約を研究している。とくに、災害時の子ども支援について、全国の児童館・放課後児童クラブ(学童保育)を事例として調査している。家族は、夫が一人と大学二年、高校三年、中学三年の男子三人。お米が一ヶ月に三〇キロなくなる。これは、ある研究者の研究と子育ち(親育ち)のままならない道のりの話である。
ママ、いかないで
子どもは三人とも、〇才の頃から保育園に通った。次男が二歳児さんクラスの頃、研究をやめた方がいいのではないか、と思い悩んだことが一度だけある。毎朝、四歳児さんクラスの長男をまず先生に託し、二歳児さんクラスに向かう。長男はご機嫌でお友達のもとに向かうが、次男はもうそのときから、目に涙があふれている。二歳児さんクラスの扉を開けると、大音響で泣き始める。「いやだ」「ママ、いかないで」とすがってくる次男をふりきって駅に向かう。わたしの研究は、子どもの権利条約である。自分の子どもが泣いているのに、子どもの権利の研究なんてやっている場合なのか、と自問自答する。
あまりに毎日泣くので、意を決して、保育士さんに相談した。すると、保育士さんはにっこり笑って「大丈夫ですよ、ママがいなくなったらすぐ泣き止んでます」というではないか。え? うそでしょ? と思いつつ、扉のそばに隠れてそっと中をのぞいてみた。「ママ、いかないで!」と泣いていた次男は、わたしの姿が見えなくなるとすぐさま泣き止み、笑顔でお友達のところに行くではないか。ホッとするやらおかしいやらで、なんだもっと早く相談しておけば良かった、と思った。
―『學鐙』2024年夏号 特集「私の原点、転換点」より―
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