蒲田健の収録後記:杉田俊介さん

私を豊かにするものを拒む理由はない。どんなことも受け入れられる。

(宇多田ヒカル オフィシャルブック「点」より)


杉田俊介さんの最新刊「宇多田ヒカル論 世界の無限と交わる歌」


宇多田ヒカルは天才である、と杉田さんは断言する。

このことに異を唱える者はまれであろう。だが杉田さんの定義する天才は

一般的なそれとは少し趣を異にする。


常人の枠を超えた超絶なる存在、それが一般的な定義であろう。

この定義に則れば、常人と天才の間には決定的な断絶がある。

不連続である。


杉田さんが定義する天才は常人と同じ地平に立っている。連続線上の存在。

行こうと思えば行ける可能性はゼロではない。だが現実的には

ほとんどのものはその境地にはたどり着けない。

なぜならそこに至るにはとてつもなく困難な状況や苦難を乗り越えなければ

ならず、大多数のものはそれに耐えられないからだ。


人間の肉体の限界には心理的限界と生理的限界がある。生理的限界が

100ならばそこに至る前にリミッターを例えば80や90の時点でかけるという

心理的限界。ギリギリまでいくことによってケガをするリスクは

どんどん高まるのだから、生命体の安全を鑑みれば、極めて真っ当な

仕組みである。


天才は涼しい顔でそのリミッターを外してしまう。

やろうと思えばここまでできるんだよ、できるはずなのにね、ということを

指し示す。まっすぐに、容赦なく、それゆえにとてつもなく残酷に。


誰もが持つはずの潜在能力。天才の存在によって、

それがそこはかとない凄みとなってにじみ出てくるのだ。


「いけるはず あなたにだって できるはず

           それは絶望? それとも希望?」

P.S.これまで意外なほどに注目されてこなかった宇多田ヒカルの「詩」に

着目し、それを文芸評論という自らの専門分野の文法で論じた杉田さん。

現在進行形でグレーアップする宇多田ヒカルの天才性が時系列で論理的に

理解できる、そして歌詞をじっくりと読み解きたくなる、渾身の力作です。


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