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【古典】元ネタは1つじゃない 伝説・伝承の多様性


古典の解説動画を作っている者です。下に貼っているように、ゲームで登場するキャラクターや設定の原典となる古文を読んでいます。

古典の伝説などを参考にしたキャラクターは、一次創作にしても二次創作にしても、よくその原典とのズレ、「史実」との差異が指摘されることがあります。
しかし、「間違い」は意外と簡単に言い切れるものではありません。特に実在の人物ではない「伝説」は様々な形で伝わっていることが多いです。


清姫は少女か? 伝説の多様性

例として、安珍清姫伝説として知られる清姫を挙げます。「若い僧に惚れて強引に結婚の約束を交わし、それを反故にされて逃げられた恨みから蛇に化けて殺す」という愛憎劇で、平安時代から文章・絵巻・能・歌舞伎など様々な作品となった話です。当初は清姫や安珍と言う名もありませんでした。
この清姫、現在は(数えで)13才という設定が一般的に広まっています。(舞台となった現在の和歌山県中辺路町「真砂の里」での伝承が基盤になっているようです。)
しかし、動画で取り上げた清姫伝説でもかなり初期の話『今昔物語集』(1120年頃成立?)「紀伊国道成寺僧写法花救蛇語」では、以下のように、本人が明確に未亡人だと語っています。

女の云く、「我が家には更に人を宿さず。而るに、今夜君を宿す事は、昼君を見始つる時より、夫にせむと思ふ心深し。然れば、『君を宿して本意を遂げむ』と思ふに依て、近づき来る也。我れ夫無くして寡也。君、哀れと思ふべき也」と。

※やもめ【寡】独身


古くから既にキャラクター化 伝説に「史実」はない

これ以外にも「清姫」には異なる設定の話がいくつもあります。しかし、そもそもが「伝説」ですから、「どれが正しいか」は決めようもありません。
引用した『今昔物語集』の話は仏教説話ですが、次第に説話的要素は抜けて芸能として楽しまれるようになります。表現したいことによって、清姫の設定も当然変化します。

「原典」「元ネタ」というと1つ正しいものがあるように思われやすいですが、伝説や伝承は実に多様です。その多様性を理解すると、歴史や物語の見方がより楽しくなると思います。

制作動画・文章

動画と同様の内容で、テキストでも原文・現代語訳・解説を載せています。ぜひ、各自に合う媒体でご覧ください。

◆動画 つづみ古文 清姫 ~『今昔物語集』紀伊国道成寺僧写法花救蛇語~

◆文章「紀伊国道成寺僧写法花救蛇語」現代語訳・古文
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894179129/episodes/1177354054895168693

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