卒業式の位置づけ ~式典より今までの学びに重みを~【卒業式の教育学3】
前回は卒業式の歴史を見ていきました(前回はこちら)。それを踏まえて、今回は現在の卒業式が学習指導要領などでどう位置づけられているか見ていきます。
1.学習指導要領解説における卒業式
現在の学習指導要領では、「卒業式」という単語は国家・国旗に関する事項以外には記されていません。卒業式は法的拘束力のない『学習指導要領解説』において特別活動の儀式的行事の1つとして記されています。
1968年の指導要領改訂以降、行事は特別活動の1つとして位置づけられています(文献①p.48)。正規の教育活動ですから、目的や教育的意義が必要です。卒業式など儀式的行事の意義は、以下のように記されています。
以上、目的は主に規律ある行動を身につけることと、節目を意欲につなげることの2点とされています。ここにはかつてのような感動の感情を育てるという考え方はありません。ただし、続く文章からは感動的な式である方がよいという認識が垣間見えます。
感銘の度合いが高ければ教育効果が高いという見解が示されています。もちろん必ずしも涙=感動ではありませんが、他者が感銘を受けた(感動した)かどうか最もわかりやすく評価できるのが涙です。「子ども自らが作りあげ感動の涙を流す卒業式」は、上記にピッタリの卒業式と言えるでしょう。
2.意地でも捻出?卒業式の練習時間
厳密には特別活動の時間に位置づけられる卒業式ですが、実際はもっと練習・準備に時間をかけて行われることが多いです。
特別活動の時間は学級活動の年間35時間しか時数の定めがなく(※)、学校行事の時間をどうするかは各学校に任されています。結果、学校行事の時間を確保するため、卒業式の歌唱=音楽など教科学習の中に位置づけたり、学校によっては土曜日授業など出席日数・時数そのものを増やしたりすることで学校行事の時間を捻出しています(文献②pp.28-31)。教科の時間に学校行事やその練習を行う「授業の読み替え」については調査がなく、教科で学ぶべきことの軽視や教員の過剰労働につながっているという指摘もあります(文献③)。
任意である学校行事の時間は、学校による差が非常に大きいです。同一県内の小学校49校について、2016年度6年生の学校行事時数を調査した兼安(2018)によると、儀式的行事の時間数は4~22時間と学校により大きな差がありました(文献④)。教員の中でも卒業式の考え方は様々だと思いますが、教員やその学校が積み重ねてきたものが枷となり「たくさん練習しなければ」「感動的にしなければ」と考えてしまう面はあるでしょう。
おわりに 式典より今までの学び(証書)に重みを
3回にわたって卒業式の歴史や実態を見ていきました。「卒業式=感動の涙」、それに向けて時間をかけて準備することは学校文化として浸透しきっています。
しかし、それに囚われて苦しむ必要はありません。卒業式を節目として大切にすることは良いと思います。しかし、学校の全課程の集大成であるならば、式のために沢山準備しなければ意味ある式にならない、というのは違和感があります。式典だけで急に今までの学びの価値が高まるなどということはなく、それまでの各授業などの積み重ね次第だと思います。
卒業試験があった頃の卒業証書とは異なり、希少性という意味では重みはありません。しかし、各人が様々な困難に直面しながら学んできた一つの証です。子どもそれぞれが学んできたことを認め、学んできた内容・得た経験、なにより歩んできた自分自身の価値を感じてもらうことが一番意味ある節目ではないでしょうか。もちろんこうしたことは多くの教員が各学校で子どもに伝えているとは思いますが、子どもは式典を全うするのに一杯一杯でそんなことまで考えられないというのは本末転倒です。
多くの卒業式で語られる集団としての思い出よりも、個人個人の学びや経験が価値あるものとして大切にされてほしいと願います。
※『小学校学習指導要領(平成29年告示)』別表第一では、特別活動の授業時数各学年35時間(1年のみ34時間)が記され、備考に以下の記載がある。
【参考文献】
①水口洋「学校における儀式的行事の存在価値」『教育研究』55、pp. 43–53、2013年
②古川鉄治・坂本正彦「特別活動における学校行事の課題とその対応策」『保育・教育の実践と研究:白百合女子大学初等教育学科紀要』5、pp. 27–33、2020年
③内田良「卒業式の練習 必要か? 子どもと教員の負担軽減に向けて 見えぬ実態に迫る」2019年:https://news.yahoo.co.jp/byline/ryouchida/20190329-00120026 (参照 2022年3月30日)
④兼安章子「年間計画における学校行事の位置づけの検討:小中一貫及び連携校における学校行事に着目して」『教育経営学研究紀要』20、pp. 89–95、2018年
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