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夏、学芸員の卵は、美術館の門をたたく

学芸員資格の取得を目指す大学生たち。
もちろん学芸員資格を取る人がみんな学芸員として就職することを目指しているかと言えば、そうでもないのですが(そこらへんは教員免許と同じ。教員免許の方がつぶしが効きますが…)、まぁひとまず彼ら彼女らを学芸員の卵としましょう。

そんな学芸員の卵たちは、大学が長期休みに入る夏にやらなくてはならないことがあります。

それが「博物館実習」。

前にも少し説明したことがありますが、学芸員として美術館や博物館に勤務するために必要となる学芸員資格は、大学で所定科目をすべて履修すれば取得できます。

だいたい大学4年間の中で、毎年数コマずつ履修していくのですが、ひとつだけ大学の授業では教えてもらえない科目があります。それが「博物館実習」です。

厳密に言えば、博物館実習には、博物館見学などを含む学内実習と、学外の博物館で実習をする館園実習の両方があり、問題は後者の館園実習です。

これが、いわゆるひとつの学芸員実習です。

何をするかというと、5日間以上(延べ30時間から45時間程度以上)の期間、美術館、博物館に通って、そこの学芸員からレクチャーを受けながら実習をするのです。

ほぼ一週間、毎日通わなくてはいけないので、通常の授業がある期間に実施することは難しいですよね。というわけで、多くの場合、大学の夏休み期間に学生たちは実習のため思い思いの美術館・博物館に向かうのです。

実習は、他の必要科目をあらかた履修した後にやるものなので、大学4年生の夏に行うというパターンが多いですね。

美術館側もそれを踏まえて、実習の受け入れを8月あたりに設定するのが基本です。年がら年中やっているわけではありませんよ。

そして、夏は地元に帰省する学生もいるので、そういう人たちは帰省先の美術館・博物館で実習を行います。生まれ育った町で子供の頃に初めて行った美術館で、実習をするというのも素敵な話ですね。

そんなわけで、8月は美術館も実習生の受け入れでいそがしくなります。学生さんを大学からお預かりする立場ですし、れっきとした授業の一部ですからね。「一日一緒についていて、適当に見て覚えてよ」なんていうわけにはいきません。
一日目はあれをして、二日目はあれをして、とスケジュールというかカリキュラムを作らなくてはいけませんし、毎日実習生が提出してくる日誌に目を通し、美術館側のコメントを書かなくてはいけません。全部が終わったら、所見や総合評価を書いて大学に提出することも必要です。

ちなみに実習では、こんな内容(↓)のことを体系的に、実技を交えつつやります。

通常業務と並行して、こうしたあれやこれやをやるのは正直大変ですが、それでも学芸員という職業に興味をもつ学生と触れあう一週間は、こちらも新鮮な気持ちになれる貴重な時間です。
期待と緊張の入り交じった少し堅い表情や、こちらの言うことを一生懸命メモにとる姿を見ていると、やっぱりこういう学生たちに胸を誇れる仕事をしなくちゃいけないな、とこちらが気を引き締めさせてもらえる、そんな気持ちになります。

最初に言ったように、実習生のうち学芸員になる人はごく一部でしょう。
それじゃ教える意味ないわ、とは思いません。

美術に携わる仕事は学芸員だけではありません。
願わくば彼ら彼女らが、学芸員ではないにしても、何らかの形で美術に関わる人生を歩み、その中で実習で伝えたことの一端でもふとした時に思い出してくれたらうれしいなぁ。
そんなことを考えながら、やっています。

今年の学芸員実習を終えて、そんなことを考えた次第です。


バックナンバーはここで一覧できます(我ながら結構たくさん書いてるなぁ)。