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044. 『プレイスメイキング アクティビティ・ファーストの都市デザイン』 園田 聡 著

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“ ―― 豊かな公共空間というのは「与えられるもの」ではなく「自ら獲得し育むもの」だという意識の転換が起きる。それは、人口減少や行政の財政悪化といった日本の都市を取り巻く厳しい状況において、地域の社会関係資本を活用し、強化することにもつながる “

街にくすぶる不自由な公共空間を、誰もが自由に使いこなせる居場所に変えるプレイスメイキング。活用ニーズの発掘、実効力のあるチームアップ、設計と運営のデザイン、試行の成果を定着させるしくみ等、10フェーズ×10メソッドのプロセスデザインを、公民連携/民間主導/住民自治、中心市街地/郊外と多彩な実践例で解説。

●はじめに―なぜ今、プレイスメイキングなのか

都市の中で起きる人々の多様な活動は、その都市の生活の豊かさを表す最もわかりやすい指標の一つである。小さな飲食店が軒を連ねる界隈では、大人たちが道端でアフター5の一杯を楽しむ。ストリートミュージシャンが音楽を奏でる街路を、学校帰りの子どもたちが戯れながら通りすぎる。駅前広場のコーヒースタンドでは買物途中の主婦が知人と立ち話に興じている。こんな何気ない日常のシーンが見られる都市では、きっと誰もが幸福度の高い生活を送れるだろう。

現代都市における公共空間研究の第一人者であるヤン・ゲールは著著『建物のあいだのアクティビティ』で「屋外活動の三つの型」を提示している。義務的な意味あいを持つ通勤通学等の「必要活動」のみならず、散歩やレクリエーションといった「任意活動」、挨拶や会話、偶然の出会いといった他者の存在によって初めて成り立つ「社会活動」をいかに促進できるかが、活動の多様性を生みだす一つの基準となる。

プレイスメイキングの世界的な先駆けであるニューヨークのNPO、Project for Public Spacesはその著書『オープンスペースを魅力的にする』の中で、「街やコミュニティに活き活きとした公共的な空間がある場合には居住者は強いコミュニティ意識を持つことになる。また、反対にそういった場がないときには人々はお互いに結びつきが希薄だと感じることになる」と指摘している。

ヤン・ゲールも、「街を動きまわり滞留する人が増えると、一般に街の安全性が高まる。人々が歩きたくなる街は、適度なまとまりのある構造を持っている。つまり、歩行距離が短く、魅力的な公共的空間があり、変化に富んだ都市機能を備えている。これらの要素は、都市空間のアクティビティと安心感を高める。そこでは街路に多くの目が注がれ、まわりの住宅や建物にいる人々が街で起こっている出来事に積極的に参加する」(『人間の街』)と、都市における公共空間の重要性を示唆している。

そして、大阪大学名誉教授の鳴海邦碩は、その著書『都市の自由空間』の中で「『自由空間』は、単に交通のみの場ではなく、そこは自然と出会い、人と出会い、さまざまな仕事や情報と出会う場であり、それが都市らしさを支えている。別の言い方をすれば、『自由空間』こそが、都市の魅力を表現しているのであり、また、都市の魅力を感じることができるのは、『自由空間』を通じてなのである」と述べている。

こうした多様な活動の受け皿となる街なかの公共空間を、本書では「人々の居場所=プレイス」と呼ぶこととする。地域の人々の手によって獲得された「プレイス」は、都市において利用者がその場所の使い方や意味を自由に解釈できる「余白」的な機能を果たし、都市の多様性を受け入れながらも地域の個性を顕在化させる場となる。そのため、都市の規模の大小にかかわらず、単なる空間としての「SPACE/スペース」ではなく、人々の居場所である「PLACE/プレイス」と呼べる場所をいかにつくっていくかが、これからの都市において重要な課題となる。

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プレイスメイキングの取り組みは、「地域の人々が、地域の資源を用いて、地域のために活動するプロセス・デザイン」であり、「プレイス」を生みだすための協働のプロセスに携わることによって、運営者や利用者となる人々に場所への愛着が芽生え、豊かな公共空間というのは「与えられるもの」ではなく「自ら獲得し育むもの」だという意識の転換が起きる。それは、人口減少や行政の財政悪化といった日本の都市を取り巻く厳しい状況において、地域の社会関係資本を活用し、強化することにもつながる持続可能なアプローチでもある。

たとえば公園や広場、街路といった場所は、最も多様な人や活動が集まる場所であり、こうした場所がきちんと整備され、日常的に利用されていれば、そこは皆に憩いや刺激、出会いを与えてくれるプレイスとなる。それが住宅地にあれば、そこで遊んだ子どもたちの原風景となる。それが商業地にあれば、人々が街に出かけるきっかけとなり、滞在時間が増えることで消費機会を誘発し、経済効果を期待することもできる。

こうした、多様な属性の人々やアクティビティを許容する「プレイス」を生みだし、都市に豊かな暮らしの風景をつくるための方法論がプレイスメイキングである。

近年加速する道路や公園の規制緩和によって、各地で公共空間の活用が活発に行われているが、なかには一時的なイベント利用にとどまっているものも散見される。本書で紹介するプレイスメイキングの方法論が公共空間の整備・活用の一助となり、単なる空間活用のイベントではなく、本質的な都市生活の豊かさの向上につながる取り組みが増えれば幸いである。

園田 聡


●書籍目次

はじめに――なぜ今、プレイスメイキングなのか

1章 プレイスメイキングとは何か

1 センス・オブ・プレイスの思想
2 プレイスの構成要素
3 都市デザイン手法としての確立
4 日本にも息づく「プレイス」の文脈

2章 プレイスメイキングのレシピ

1 プレイスメイキングの10のフェーズ

Phase 1 「なぜやるか」を共有する
Phase 2 地区の潜在力を発掘する
Phase 3 成功への仮説を立てる
Phase 4 プロジェクト・チームをつくる
Phase 5 段階的に試行する
Phase 6 試行の結果を検証する
Phase 7 空間と運営をデザインする
Phase 8 常態化のためのしくみをつくる
Phase 9 長期的なビジョン・計画に位置づける
Phase 10 取り組みを検証し、改善する

2 プレイスメイキングの10のメソッド

Method 1 チェック・シート
Method 2 ザ・パワー・オブ10
Method 3 ストーリー・シート
Method 4 ステークホルダー・マップ
Method 5 サウンディング
Method 6 簡単に、素早く、安く
Method 7 フィードバック・ミーティング
Method 8 プレイス・サーベイ
Method 9 キャラクター・マップ
Method 10 プレイスメイキング・プラン 3 プレイスメイキングの体系

3章 街を変えるパブリック・プレイス──国内外の先進事例

CASE 1 オポチュニティ・デトロイト(アメリカ・デトロイト市) -財政破綻からのコミュニティ再生

CASE 2 北鴻巣すたいる(埼玉県鴻巣市) -住宅地の価値を高める環境デザイン

CASE 3 左近山みんなのにわ(神奈川県横浜市) -住民の自治による新たな団地再生

CASE 4 北浜テラス(大阪府大阪市) -水辺の価値を民間主導で顕在化する

4章 実践!プレイスメイキング――誰でも街にコミットできる現場

PROJECT 1 あそべるとよたプロジェクト(愛知県豊田市)-「つかう」と「つくる」で駅前を再生する

INTERVIEW 1 栗本光太郎(豊田市役所) ―なぜ、豊田では本質的な公民連携が実現できたのでしょうか?

INTERVIEW 2 神崎勝(ゾープランニング) ―誰もがチャレンジできる街は、どうすればつくれますか?

PROJECT 2 小田原Laboratory.(神奈川県小田原市) ―誰でも始められる空き地の活用

5章 アクティビティ・ファーストの都市デザイン

1 これからの時代の都市デザイン・プロセス
2 エリアマネジメントとプレイスメイキングの違い
3 与えられる都市から、自ら獲得する都市へ おわりに


☟本書の詳細はこちら

『プレイスメイキング アクティビティ・ファーストの都市デザイン』 園田 聡 著

体 裁 四六・272頁・定価 本体2200円+税
ISBN 978-4-7615-2709-9
発行日 2019/06/10
装 丁 水戸部功

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