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知の匂い

「この20年で変らなかったのは、本への思い入れを読者に伝えようとし続けた書店員たちの存在である。彼ら、彼女たちがこれからも書店を支え続けるのである。・・・」 学芸出版社営業部の名物社員・藤原がお送りする、本と書店をめぐる四方山話。

以前は書店に行くと知の匂いがしていた。今はそうでなくなったとは言わないが、娯楽の匂いの方が強くなった気がする。どちらがいいとか悪いとかそういう話ではない。単純に僕はかつて書店から知の匂いを嗅いでいたと言うことだ。何となくその雰囲気が好きだった。

娯楽の匂いのする書店は棚の前で立ち止まることが少ない。ざぁ~と店内を一周して、おもろいもんなかったなぁという感じで店を出ようとした瞬間、待てよ、雑誌の立ち読みでもしようか、というそんな感じの店である。客を引き止める書店と引き止めない書店の違いを簡単に指摘するのは難しいけれど、僕の場合は知の匂いがする書店に引き止められる。

で、知の匂いって何?と問われれば非日常ってことになる。知とは無縁の生活をしていると、書店の知の匂いについつい我を忘れるということだ。世の中は、書店にある本の数ほど複雑で、怪奇で、好奇心に満ちたものなんだ、と空想の世界に迷い込む。へぇ~とか、ほう~とか言わせてくれる書店は楽しくて何時間いても飽きない。また、棚から「あんさん、こんな本ありまっせ」と声を掛けてくれるような本がある書店ならさらに何時間でもいることが出来る。

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