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青春18きっぷ一人旅記〜初日ダンガンエンカウント〜


現在、時刻午前7時24分。薄暗い朝焼けの空が白白と明けていく。

京都府、四条大宮駅近くのマックでチキンクリスプエッグマフィンを食べ、コーヒーを飲んでいる。

先日、バイトを辞めて無職になった。

辞めた理由はメンタルにあんまり良くない職場だと思ったから。職場の始業時間に電話をかけ「この仕事がキツくて体調に不安があるので辞めます」と告げ、その15分後に退職届を作成し、封筒に入れ雑に住所を走り書きし郵便ポストにぶち込んだ。

職場では成績を上げ、リーダーを任命されたばかりだったので少しは引き留められるのではないかと思っていたが、全然そんなことはなかった。

君、自意識過剰です。

そして現在、無職(正確には退職届受理待ち)になった次の日に私は一人旅を決行している。

思い立って30分で準備をし、即座に寝て、朝4時に起きて一昨日買った青春18きっぷをバッグ詰め込んで家を飛び出した。職と収入を失ったのに。アホ。

そんなわけで京都に到着しこれからどうしようかとぶらぶら歩き出そうとしたところに、突然Twitterのダイレクトメッセージが届いた。

「初めまして。ツイートとnoteを拝見し、面白い人だと思ったのでこれから会いませんか?」

と。しかも全然話したこともない方からだ。京都に住んでいる方らしい。え?そんなことある?と最初は宗教勧誘とか怪しい団体に拉致られるとかそんな不安が頭をよぎった。

しかし、特にやることも決まっていなかったしこういうときは流れに身を任せたほうが面白そうと直感が働いたのでとりあえず会ってみることになった。

DMをもらった20分後、京都駅で落ちあった。奢ってもらったお茶とココアを飲みながらベンチにこしかける。

最近自暴自棄になったので話してみたくなったとのこと。

「自分が理想としている姿に自分がぜんぜん追いつけなくて、ダメだなぁと思います。」

とその方は打ち明けた。

「どんな人になりたいんですか?」

「自分で何でもできる自立した人になりたいです。」

「何でもできる人かぁ。」

「はい。私は親にも頼りきりだし、兄妹も立派にやってますし。」

「何でもできる人っているんですかね?」

「いないんですかね?」

「うーん。多分...超天才だったとしても一人で何でもかんでもするってのは難しいんじゃないかとは思いますけどね。」

「まぁ、そうですよねぇ。りょーすけさんは理想とか目標とかないんですか?」

「え、理想...かぁ。うーーん。まぁこうだったらいいなぁってのはありますけど、かなり頑張らなきゃいけないので半分諦めてますね。あ、山奥でシェアハウスするニートとかはやってみたいかも。でもそれは目標とかではないしなぁ。」

「あー私もそういうのやってみたいと思ったことあります。でも女性でそういうことしてる人いないですよね?」

「確かに女性は少ないとは思いますけどいないことはないんじゃないかと思います。」

「人生に目標とかないのって怖くないですか?」

「あってもなくてもいいと思ってるんですよね。あったら頑張るだろうし、なかったらふらふら生きるのも楽しいだろうし。」

「どうやったらそんな前向きになれるんですか?」

「前向きじゃないですよ。めっちゃネガティブな方です。なんかいろいろやって諦めちゃったんですよね。」

「きっとりょーすけさんは人生経験が豊富だからそういう風に思えるんでしょうね。」

「うーん、どうなんですかね。なんか気づけばこうなってたって感じなんですよね。今なんてただの無職ですし。でも、まぁ自分ってこんなもんなんだろうなぁとは思いますね。」

と、こんな調子で自分の生き方とかについて話した。家族のこと、これまでの友達のこと、将来のこと。悩みを聴き、それについて2人で考え、意見を言い合った。

「僕ここまですごい綺麗事ばっか言いましたけど、全然納得できないっすよね(笑)」

「まぁ、確かに。そういう考え方もあるのかとは思いますけどね。」

「自分で言っててもそんなこと簡単にできねぇよなぁと思います。実感を伴って理解するって実際に自分の心と体で体験しないと分からないですからね。」

「そうですね。いきなりは無理そうです。」

「ですよね。だから自分で色々やってみて、あえてこだわったり諦めたり喜んだり悲しんだりして納得させていくしかないんでしょうね。そんなふうに行ったり来たりしながら少しずつ舵を切って、自分の輪郭が見えるようになったら大分生きやすくなるんじゃないかなぁ。」

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お互いの考えを聞いたところで突然何かが変わるわけもない。私だって半分自暴自棄だ。じゃなきゃ京都に突然来たりしない。

私が偉そうに言ったアドバイスも大してすごくないし、正しくもない。ただ一人の人間の戯言でしかない。おそらく余計なお世話だ。

けれど、私達は私達を納得させるためにこんな話をしていたのだと思う。私達はそうやって自分の世界には存在しない言葉を取り込んでいく。

その繰り返しの中でいつか「私」が「私」をただそこにあるものとして受け入れられるようになっていくのかもしれないな、と思った。


「今日はありがとうございました。せっかく京都に来たんですから何か奢らせてください。」

「え、飲み物もらったんでいいですよ。」

「いや、本当に貴重な時間をいただいたので。」

「あ。そしたらお願いしたいことがあるんですけど、もしよかったら僕にオススメの本を買ってもらえませんか?読んだことあるものでもいいし適当に直感で選んだものでもいいので。」

「あ、それいいですね。そしたらりょーすけさんのオススメの本、選んでもらえませんか?私それ買います。」

私は上橋菜穂子さんの「孤笛の彼方」を買ってもらって、phaさんの「しないことリスト」をオススメした。

一人旅の初日にしてはあまりにも出来すぎてる1日だった。





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