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親友が出会い系でぼったくられた話

部屋でいつものようにスマブラをしている。大学の授業も終わり、アルバイトもない日は大抵ランニングをするか、アニメを見るかスマブラをしている。

「あ!うまっ。」「クッソ。」などと一人でぶつぶつつぶやきながらオンライン対戦に身を興じコントローラーをガチャガチャ響かせながらひたすら勝ったり負けたりを繰り返す、シーソーゲーム。

すると、突然スマホの着信。え待って。まだ対戦終わってない。こいつ倒してから出るから。あれ、林?しかも20時に電話してくるなんて珍しいな。

林は高校時代の後輩だったやつで現在は一番仲のいい友人である。いつも何かあるとLINEでメッセージが入るので電話が突然入ることはない。

何か変な予感を感じ自分の操作しているキャラクター(シュルク)をステージから画面外へ落とし対戦を終わらせる。対戦レートがピリリンという効果音とともに相手に移され下がっていく。

「もしもし?どうした?」

「おーっす。今から俺の話聞いたら絶対に笑うよ。」

「え?なに。いきなり。」

「今新宿の駅にいてさあ」

「あ、そうなの。なんでいんの?」

「俺、さっきぼったくられて。」

オレ、サッキ、ボッタクラレテ?突然耳に突き刺さるその音が上手く脳に伝わらない。

「は、え?」

「出会い系で女の子とデートしたら、ぼったくられたの。3万円。」

事の顛末。林は先日出会い系サイトで出会った女性とデートをしたらしい。サイト内のプロフィール写真と実際の見た目が全然違うとは思ったが帰るわけにもいかなかったので、女性行きつけの店に行くことになったらしい。店内のメニューには料金が全く書いてなかったがとりあえずスパゲッティなどメインの料理と酒数杯の注文をし、1時間くらい過ごして会計をしようとしたところ

”¥30000”と表示され、もちろんそんな用意はないと説明したところ、店内の奥の部屋からガタイのいい兄ちゃんが2人出てきて

「今そこのコンビニで下ろしてきて払うなら別に騒ぎ立てないけど?それでいい?」と言われ怖すぎて払ってしまったらしい。もちろん最初から相手の女性もグルである。というわけでたまらず私に電話をしてきたわけだ。

「おま、マジかwww本当にあんだそんなことww」

思わずプハッと吹き出す。林は笑い話にしようとして声を明るくしようと努めているようだが、声色に悲壮感が漂っていて明らかに無理をしているのが分かる。

「な、面白いだろ?」

「いや、面白いよ。いきなり電話かかってきてぼったくられたって言われたの初めてだもん。」

「最悪だよ。マジで。もう、終わりだよ。」

「とりあえずこの後暇ならうちきなよ。新宿からだと20分くらいだし。」

「分かった。今から向かう。」

1時間30分後、林は私の自宅に到着した。本来なら30分で着くのにこんなに時間がかかったのは間違えて私の自宅の最寄駅とは逆方向の電車に乗ってしまったかららしい。泣きっ面に蜂とはまさにこんな状況のことを指すのだろう。

「もう、オレが何したって言うんだよ。」

「災難だったね。」

「絶対面白がってるだろ。」

「ごめん、くそ面白い。すごい元気出た。」

「ぶっとばすぞ。」

間髪入れずにツッコまれる。二人でケラケラ笑う。

笑い終わった後、林は急に目をカッと開き、体の向きを変えて右手を伸ばしかと思えばコップを勢いよく逆立ちさせて私が出したお茶をものすごい勢いで飲み干した。情緒が狂っているらしく、私は再度ツボってしまい過呼吸を起こすところだった。

「本当に今日は最悪だよ。」

「まあまあ。飲み会でウケるネタができたじゃん。」

「確かに。今日のぼったくられネタ使いまわして3万円回収するしかないな。」

林はしばしば不運に見舞われる。例えば泥酔したまま知り合いの車のドアを勢いよく開けてそのドアが隣の車のドアに思いっきり当たって修理代を弁償することになったとか、同じアパートの住人にドアの前でゲロを吐かれたりカップラーメンの残り汁を捨てられたりするとか、そういうエピソードがホイホイ出てくる。

もはやその不幸を自虐ネタとして仕入れてきて披露してくるのだから、林のことをエンターテイナー的不幸体質だと思っている。


「お前に頼みがある。」

スマホをさっさとスライドしながら林が言った。

「このボタンを俺の代わりに押してほしい。」

差し出されたスマホの画面を見ると、そこには

”このアプリを退会する”という文字が表示されていた。

「なにも退会までしなくても(笑)」

「いいんだ。もうしばらく俺にそれは必要ない。これから俺が使っている滑全ての出会い系アプリの退会ボタンを表示させるから全部押してほしい。」

「わ、分かった。そこまでいうなら。」

「ちなみに、退会すると俺が出会い系アプリに課金した金額が全部吹っ飛ぶ。」

「え、全部で何円課金したの?」

「4万。」


私は次々に退会するボタンを押していった。

「退会が完了しました。」の文字を5回を見送り退会が完了する度にぐわああと苦しむ林。それを楽しむ私。彼がコツコツバイトをして課金した4万円を消し飛ばしていく。

全てのアプリを退会した後、林が全てを悟ったような澄んだ表情で一言つぶやいた。

「ありがとう。これでいいんだ。」

私は彼の肩にそっと手を置いた。
















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